遺伝記 蟲 
 

公開中のエントリー作品
 

[特別編著者同定表を公開しました ..

[特別編応募作の公開を完了しまし ..

蝗の村

夜の蜘蛛は殺すな

虹色の部屋

罪悪感

訴訟社会とゴキブリ男

右手

2009年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

2009年12月
2009年10月
2009年 9月
2009年 8月
2009年 7月

●公開中の作品を読む
 
フルブラウザ対応携帯はこちら
●公開中の作品一覧

怪集とは?
怪集のルール

こんな作品を募集します
作品応募についての諸々
優秀作はあなたが決める
結果発表と賞金と権利

読み方ガイド(読者向け)
攻略ガイド
(応募者向け)
最新因果地図(画像)
最新因果系図
(右クリックで保存)

応募CGIの使用法
審査(講評)の仕方
怪集FAQ

[怪集]主催者からのお知らせ
怪集/2009質疑応答(BBS)

怪集/2009講評漏れ確認(BBS)

怪集 トップページ

怪集について
問い合わせる





あの日から
 初めてその女と出会ったのは俺が小学4年生の時。
祖父母のいる、見渡す限り山と畑しかない田舎で見たのが最初だった。
二十歳前半に見えた女はその土地には似つかわしくないほど、若く美しかった。
闇のような真っ黒いワンピースは、雪のように白い女の肌を強調し、子供の俺でさえ魅惑的な印象を受けた。
毎年のように此処へ来ていたが、これまでそんな女など見た事も無かった。

 女は何も言わず、草むらで虫を捕まえるのに必死になっていた俺を、少し遠くからただ黙って見つめているだけだった。
女の口元は心なしか笑っているようにも見え、その独特な雰囲気のせいか俺は話し掛ける事も何も出来ず、ただ見つめ合うのが精一杯だった。


「蟷螂というのは恐ろしいんじゃ。雌が雄を喰っちまうんだ」

その夜、今までに無いほどの大きな蟷螂を捕まえ、自慢気に見せびらかしていた俺に祖父は言った。
「お前も…喰われんようにな」
祖父は厚みのあるゴツイ手で俺の頭をグシャグシャと撫でた。

俺はその夜、捕まえた雌の蟷螂を庭に放した。


次の年も…その次の年も女は俺が一人でいる時を見計らうようにして現れた。
変わらない服、変わらない肌、そして変わらない若さと美しさ。
俺が年を重ねていけばいくほど、女から溢れ出る妖艶さに目を引かれた。

 いつも女は一言も発さず、真っ赤な唇は何かを言いたそうにしていたが、声を聞く事は無かった。
俺も両親や祖父母には女の事は何も言わなかった。
言ってはいけないと本能的に感じていたのかもしれない。
言ってしまったら…もう…逢えなくなるかもしれないと…そんな確信めいたものがあった。


 女と初めて出会った日から6年の月日が経った。
俺は15歳になっていた。
子供のように草むらで遊ぶ事は無くなったが、大木の下や、草原に寝転んでいると女は現れた。

 しかし、その日はいつもとは違った。
常に遠巻きに見ていただけの女は初めて俺に近付いて来た。
真っ赤な唇は軽く微笑んでいるようにも見えたが、少し切れ長の眼は笑ってはいなかった。
言葉を発する事のないまま、俺を優しく抱き寄せ、口付けを交わしてきた。
女の身体は氷のように冷たく、そして服を脱いであらわになった姿は彫刻のように整った綺麗な身体つきをしていた。

 その日、俺は『大人』になった。


 その日を境に俺は田舎へ行くのをやめた。
「高校生は忙しいんだ」と理由をつけて、お盆も一人、家に残った。
可愛がってくれた祖父が亡くなった時も、何とか理由を作って葬儀には参列しなかった。

 怖かったのだ。あの女に会うことが…。


 社会人になり、結婚適齢期と呼ばれる歳になっても独身のままだった。
口紅を引いた女を見るたびに、あの大人になった日の事を思い出してしまうのだ。
中には下衆な噂を流す輩もいたが、そんなのは全く気にもならなかった。
田舎に行く事は無くなったが、女の事だけは常に頭から離れる事がないまま時は過ぎていった。


 そして…臨終の間際。
俺は一人、部屋の中にいた。
病院にも行かず、ただこの自分の部屋で最期の時を待っていた。

 ふと気付くとあの女が横に座って俺を見下ろしていた。
あぁ…やはり変わらない服、変わらない美しさと若さ。
「君は幽霊なのかい?…それとも…」

 女は笑った。声も上げずに。
ただ楽しそうに、笑って俺を見ていた。
「どっちでもいいさ。…あの日から…すでにこうなるような気がしていたんだ」

 俺の心は女と出会った時に…もう食べられていたんだ。

「君のその黒い服は…まるで喪服のようだね…」
女は既に指一つ動かせない俺に、ゆっくりと覆い被さってきた。


――そして後に残ったのは、血だらけの、誰もいない布団と泡のような卵――。



23:44, Sunday, Jul 12, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(18) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯


■講評を書く

名前:
メールアドレス(任意):    
URL(任意):
この情報を登録する
配点:
講評後に配点を変更する場合は、以前の配点(を含む講評)を削除してから新しい配点を行ってください。
配点理由+講評文:
パスワード(必須):

ヒューマンチェック(選択した計算結果を入力):

■ Trackback Ping URL 外国のスパマーへのトラップです(本物は下のほうを使ってください)
http://www.kaisyu.info/2009/entry-blog/trackback.cgi20090712234442

■トラックバック

この記事へのトラックバックURL(こちらが本物):
http://www.kaisyu.info/2009/entry-blog/blog.cgi/20090712234442

» 【0】あの日から [せんべい猫のユグドラシルから] ×
 発想としてはシンプルですが、雰囲気を持った話だと思います。 ただ、もっと諄いくらいで丁度いいような。女の色気とか少年の心情を掘り... ... 続きを読む

受信: 22:34, Wednesday, Jul 15, 2009

» 【0】あの日から [峠の塩入玄米茶屋/2009から] ×
ある程度それなりに雰囲気を出す事には成功している。が、内容的には今一つ物足りない。時間の経過と共に女と主人公との距離を少しずつ近付けて、その度に女の表情や仕草、様子を描写する事で、主人公の女に惹かれる気持ちや期待、女に感じた怖れ等を表す事も出来たので .. ... 続きを読む

受信: 16:41, Thursday, Jul 16, 2009

» 【+3】あの日から [日々、追憶…から] ×
とても雰囲気のある作品だと思います。「恐怖=グロ」だけではない「静かな恐怖」が感じられた作品でした。すっきりと纏めた中に『種』繧... ... 続きを読む

受信: 17:58, Thursday, Jul 16, 2009

» 【+2】あの日から [もけもけ もののけから] ×
大変、雰囲気のある書き方をされております。謎の女の存在感を消す書き方は、私の好みに入ります。ただ、台詞での「君は幽霊なのかい…... ... 続きを読む

受信: 20:43, Thursday, Jul 16, 2009

■講評

なんとも味わいがあります。さしたる説明がなくともちゃんと謎の女を怖いと思える説得力がストーリーからにじみ出ています。「君は幽霊なのかい?…それとも…」という台詞にもう一ひねりあったらさらなる高みに上ったのではないでしょうか。「幽霊」という字面を見せない方が、より恐怖感があったかと思います。

名前: kojima ¦ 10:44, Wednesday, Jul 15, 2009 ×


雰囲気は出ているのですが、全体的にゆったりとしていて、怖いかと言われるとちょっと…。
最初の祖父のセリフで結末を予想出来てしまったのもちょっと勿体無いですね。
時間経過があまり意味を成していないのも気にはなりますが、時間がパッパッと変わってる感じにちょっと違和感があったので、もう少し自然な表現で時間経過を表現していけば、割と素直に読めたかなぁと思います。


名前: PM ¦ 20:31, Friday, Jul 17, 2009 ×


なんというか、とにかくこの雰囲気が出ていれば、もうそれでOKだと思います。もっと長文で読みたかったので−1点です。

名前: kojima ¦ 04:10, Saturday, Jul 18, 2009 ×


言葉が足りなすぎる印象があります。時間の流れなど急激過ぎるのではないでしょうか。長い作品とは感じなかったので、もう少し時間の経過の説明などを盛り込んでいただいたほうがよかったんじゃないかと思います。

名前: kazuo ¦ 16:21, Sunday, Jul 19, 2009 ×


 なかなか雰囲気があっていいんじゃないでしょうか。

 もう一ひねりあるとなお良かったですかね。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 20:02, Wednesday, Jul 22, 2009 ×


【アイディア】±0
 異種婚譚自体は民話などでもよくある物なので。それをきちんと書けていることは評価できると思う。
【描写と構成】±0
 なかなか静かな雰囲気は出ていたと思う。だが「蟷螂というのは恐ろしいんじゃ。雌が雄を喰っちまうんだ」は親切過ぎたと思う。その所為でオチが読めてしまった。捻ってくるかなー? と思っていたらストレートな展開で残念。読者が無知であることを前提に説明をしておくのは分かりやすい文章を書く上で重要なことだと思うが、今回は話を陳腐にしてしまったと思う。難しいところだと思うが。
 他。結婚適齢期から臨終まで時間が一気に飛んでいる。ここにもワンクッション描写が必要では? 「君は幽霊なのかい?」人間起源の幽霊という単語に違和感。読み手の私は既に女性を虫絡みの妖怪変化か何かだと考えていたので、主人公との同調が外れてしまった。
【怖さ】±0
 私がライトノベルを読み過ぎなのか、人外キャラ最高、としか思えず、怖くはなかった。それを抜きに考えても、不思議な話、くらいの怖さだと思う。
【買っても後悔しない魅力】±0 短編集を買った結果、手に入るなら構わない。しかし、ネタ自体は量産されているので、単品で積極的に手に入れたいかと問われると微妙。もう一味の工夫が欲しかった所。

名前: わごん ¦ 17:37, Sunday, Jul 26, 2009 ×


セリフが硬い気がします。地の文が流暢な分、余計に流れが止まってしまう印象を受けました。
魅力的な筈の女性の描写が弱い為、今ひとつ主人公に同調できませんでした。

発想・0 構成・1 文章・−1 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 11:09, Thursday, Jul 30, 2009 ×


雰囲気 1
文章力 1
構成力0
恐怖度0

淡々と進んでいくストーリーで雰囲気はあるのですが、もう少し憧れの謎の女性の描写とか深く描かれても良かったのではと。物語のプロットのような感じですね。
一番大事な場面である主人公が童貞を捨てる所を
その日、俺は『大人』になった。だけの言葉でぼやかすのではなく艶かしく描くと物語りに魅力が出たのではないかと…。
ラストもいまいち謎でわかりずらいですね〜。でも土台はとても良いと感じます。

名前: 妖面美夜 ¦ 22:18, Saturday, Aug 01, 2009 ×


自分の視点から書いているので、ヤマ場で自分の臨終を書くのはちょっと無理があったかなという印象。
謎の女との交流をもっと情感たっぷりに描いて、凄惨なオチにもっていけたらよかった。
祖父の言動で早々にオチが読めてしまうのがかなりの難点。そのため身構えてしまい怖くなかった。

アイデア −1
文章    0
構成   −1
恐怖度   0

名前: 鶴の子 ¦ 20:42, Wednesday, Aug 05, 2009 ×


美しい雰囲気のある作品だと思います。

男が臨終を迎えるまで、女が手を下さずに待っていたということが物悲しかったです。女が単なる餌としてではなく、ちゃんと男への愛情を抱いていたのかもなと感じました。しかし男の人生を考えると、いっそ早々と決着をつけてくれてたほうがマシだったのかとか、いろいろ思うと事の多い作品ですね。

*雰囲気+1 *恐怖−1

名前: げんき ¦ 10:28, Friday, Aug 14, 2009 ×


ド頭で落ちがわかってしまったのが残念でした。退廃的なムードがとても良く出ているだけに、もう少し意外な展開が欲しかったです。

名前: もりもっつあん ¦ 01:03, Friday, Sep 04, 2009 ×


全体の長さに対して時間の量が多すぎです。それがお話の味を薄める結果となっています。

名前: あおいさかな ¦ 00:40, Wednesday, Sep 09, 2009 ×


雰囲気は出ているが、祖父の科白で結末が予測できてしまった。もう少しじっくりと「俺」の心情などを描写した方が良かったように思う。

名前: 水本しげろ ¦ 20:35, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


わかります。 少年期、美しい大人の女性は、怖さを伴う興味の対象でした。

アイディア 0
描写力   0
構成力   0
恐怖度   1

名前: ユーコー ¦ 20:11, Saturday, Sep 19, 2009 ×


やはり内容的には、分かりやすいけれども、あまり意外性もなかったように思います。
こうなると最後にはこうなるかな、とオチまで分かりやすかったのは勿体なかったです。
それから、小学4年生の主人公が、女を二十歳前半だと判断できるのは、かなりの目利きではないかなという気もします。

ただ、それらよりも他に見る所としては、この作品の文章は割と音読向きでしょうかね。
普段から語りタイプの作品を読まれているのか、書いた文章を口に出したりされているとか(さすがにそれは無いですか)。
描写が密な文章というのも想像力を刺激されて面白いのですが、この作品のように、読んでみて突っかかりがない、リズムのよい文章というのも、一つの個性でしょうね。

最後の一行は、作者の方がどこまで意図されて書いたかは分かりませんが、自分が亡くなった後で上から見下ろしている光景を説明しているのなら、辻褄があうように思いました。

名前: 気まぐれルート66 ¦ 01:08, Saturday, Sep 26, 2009 ×


すごく好みです。
少年時代に出会う謎の女性が、そのままの姿で人生の節々に関わっていくという話は、いろんな作者によって書かれている、恐怖系の作品ではある意味普遍的なテーマですが、それだけに描写力次第では空きのこないしっとりとした作品になりますね。
うっとりと、2回続けて読みました。

ただ、私見ですが
・この雰囲気の作品では、一人称は「俺」より「僕」がふさわしい気がします。
・最後の一文
――そして後に残ったのは、血だらけの、誰もいない布団と泡のような卵――。
は、ないほうがいいかな、と思います。

名前: 六条麦茶 ¦ 00:11, Sunday, Sep 27, 2009 ×


描写と情感が命のお話として仕上がっていますが、蟷螂という虫の有名な習性からやや脱し切れていないかなという感がありました。もうひとつふたつ、の仕掛けや工夫が欲しかったというのが正直に。
謎の女の背景などを創って深みを出してもぐっと面白くなったのではないかと。

名前: 籠 三蔵 ¦ 07:36, Thursday, Oct 01, 2009 ×


化けた女の話はむしろ好きなのですが、このお話は現実離れしている感があり怖くなかったです。現代や都会に持ち込むの難しいですよね。

名前: 読書愛好家 ¦ 15:44, Thursday, Oct 01, 2009 ×


△ページのトップへ
 

▲怪集 総扉

主催者からのお知らせ
公開中の作品一覧
最新因果地図(画像)
審査用チェックシート
戯作三昧 on 蝗の村

戯作三昧 on ある告白

戯作三昧 on 地獄蟻

気まぐれルート66 on 蝗の村

げんき on 蝗の村

げんき on 夜の蜘蛛は殺すな

げんき on

ほおづき on 夜の蜘蛛は殺すな

ほおづき on

げんき on 虹色の部屋

【−2】友情 (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【+2】蝶々妹 (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【−2】シデ、ムシ (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【−2】わらいごと (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【+1】シュレーディンガーの蚊 .. (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【−2】地獄蟻 (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【−1】柿の木だけが知っている (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【0】ある告白 (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【0】あなたの気持ちが知りたく .. (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

【−1】遠い光 (峠の塩入玄米茶屋/2009) «

   URLを携帯にメールする

この作品/記事のURLをQRで読む

QRコードの中に
潜む実話怪談

■■■

 ◆◆◆

Powered by CGI RESCUE