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目論見
 小学生の頃、夏休みになると父方の祖父のところに一家総出で泊まりにいくのが習わしとなっていた。着いて早々にお墓参りを済ますと、後は自然の中で魚取りや虫取りに明け暮れる毎日だった。
 僕が好きだった遊び場は、祖父の家の直ぐ裏にある小さな山だった。草陰から飛び出してきた兎や狐を追い回したり、都会ではとても見る事のできない大きな鍬形や蝉を、虫かごに収まらない程に取ることに夢中になっていた。


小学六年生の夏、とても綺麗な蝶を見つけた。黒揚羽蝶より深い黒色。日の光を浴びると輝く紫の様にも見える。何かに取り付かれたように僕は、虫取り網を振り回し、必死で追い駆けた。
暫く追い駆けた結果、黒揚羽蝶は草むらにポツンと置かれた石の上でその羽を休めた。逃げられないように細心の注意を払い、そーっと近付く。「えいっ」と振り下ろした網をすり抜けるように空高く黒揚羽蝶は消えて行った。
「くそっ」
逃げられた原因は、石を囲む様に張り巡らされた縄の所為だ。縄に引っ掛からないように気を使いすぎて、逃げる隙を与えてしまったのだ。
〈この縄さえなければ…〉
怒りに任せて蹴り上げる。縄は古く痛んでいたのか、簡単に千切れた。張り巡らされていた縄を次々と蹴り千切っていく。
〈ざまあみろ〉
ふと中心の石に目が行った。高さが60cm程の古びた石。緑色の苔が石のあちこちにへばり付いている。その石の一部には、なにやら文字が書かれていた。
〈……塚?〉
上の文字は読み取れない。ただ下に書かれている文字は、友達の塚本君と同じ字なので理解は出来た。
僕にとって文字が彫られているこの石が、とても神聖な物に思えてきた。
注意深く観察すると、小さな粒々が付着している事に気が付いた。
〈卵だ〉
石の天辺に2〜30粒位の乳白色の卵がある。一粒の大きさは1ミリ程だろうか。
手にとって日の光に透かして見ると、キラキラと青色や紫色に変化した。
〈間違いない。これはあの蝶の卵だ〉
何故かそう確信した僕は、潰さないように大事に両手で救い上げて祖父の家へと歩き出した。
〈みんなに見せて自慢してやろう。全部の卵が孵ったら、凄い綺麗だぞ〉
浮かれながら10分も歩き続けていると、掌が無性に痒くなってきた。
見ると、卵を乗せた掌一面の皮膚が赤紫に変色している。あまりの痒さに耐えかねた僕は、卵を地面に下ろし、Tシャツに掌を擦った。

――ぶしっ
Tシャツが掌の跡に赤く染まる。お腹の部分に両手の跡がくっきりと残っている。
〈えっ?!〉
驚き見つめた両掌全体からは、真紅の血が滴り落ちている。突然の出来事に腰に力が入らない。その場に崩れるように座り込んだ。
血は依然として流れ続けている。まるで滝のように。
〈掌からこれほどの血液が流れ出るものなのか…?〉
ショックで意識が遠のき始めた。

薄れゆく意識の中で、視界にあの卵が入った。
卵は孵りつつあった。僕の血を吸っているかのように一度大きく膨れ上がり、次々と青白い幼虫に孵っていった。

――僕の記憶はここで途切れた。

 夜になっても帰って来ない僕を心配し、探していた祖父が見つけたらしい。
祖父の家の布団の中で、僕の意識は戻った。
慌てて掌を確認する。血はきれいに拭き取られていた。
出血も止まっており、掌には湿疹のような赤い斑点だけが残っていた。
布団を取り囲むように父と母、そして祖父が座っている。
僕を凍りついたような目で見つめている。

三人の醸し出す雰囲気に言葉を発する事が出来ないでいると、祖父が重い口調で話し始めた。
「蟲神塚を荒らしたろ。もうまともじゃいられねえ。使いの者として生きるしかねえ。落ち着いたらゆっくりと話たる。まず、休め」

子供心にも普通じゃないことは、よく分かる。
僕を見る目が普通じゃない。心配をしているんじゃない。監視をしてるんだ。
僕はこれからどうなるんだろう。

――使いの者として生きるという意味。知りたくもない気持ちとは裏腹に、頭は妙に冷静になっていく。

〈明かりの灯っていない真っ暗な部屋で、何故僕の目は全てを見渡せるのだろう。
三人の表情や部屋の隅まで良く見える。
これが、使いの者の力なのか…〉

僕が気を失ってから、どれ程の時間が経過していたのか判らない。
三人が無表情で見守る重苦しい空気の部屋の中に静かに響く音がする。どこからか幽かな羽音が聞こえるのだ。
突如、目の前に現れた黒揚羽蝶が紫色に光り輝きながら、僕の鼻先に止まった。
――トキハ ミチタ。イマコソ…

〈そうだ。するべき事は、ただ一つ〉

ひと息に布団から起き上がった僕を見て、祖父と両親は全てを理解しているかのように頷き、口の端を醜く歪めた。
徐に三人が突き出した掌には、赤い斑点と『あの幼虫』が蠢いていた。

――同士として生きていく。それしか残された方法は無い。全ては蟲神様の仰せのままに。




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ん? ん?え、終わり? 前半部が終わって、さあこれから、という感じに取れたのだが。もしかして「種」を意識し過ぎたのか? 一話完結、というにしては些か中途半端な。少々長くなっても良いから、「塚」の不気味な佇まいや謂われとか、両親や祖父の主人公に対する様 ... 続きを読む

受信: 01:08, Friday, Jul 17, 2009

■講評

お?
使いになって、これから何するのです?
話がこれ単体で完結しておらず、ここから派生しようにも漠然としすぎて逆に扱い辛い印象でした。
もう一つくらい、何か話の肝になるような要素があると良かったかなぁと思います。


名前: PM ¦ 20:35, Friday, Jul 17, 2009 ×


長さとしては丁度よいよ思いますが、途中からいきなり終わってしまった感じです。

名前: kazuo ¦ 16:30, Sunday, Jul 19, 2009 ×


続きが読みたい。「種」ということでこういう終わり方をなってしまった、ということ以外に特にマイナスポイントがないと思います。

名前: kojima ¦ 14:42, Monday, Jul 20, 2009 ×


 なかなか良く書かれていると思いますね。
 丁寧です。

 ただ、ネタフリだけで終わってるので、オチが欲しかったですね。


【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 20:15, Wednesday, Jul 22, 2009 ×


【アイディア】±0
 若干のオリジナリティはあるが、プラス点をつける程ではないと感じた。
【描写と構成】±0
 卵と掌の描写までは良かった。しかし、後半のライトノベル的な展開で、興が醒めてしまった。ライトノベル的な雰囲気が悪いというのではなく、描写の密度が一気に下がって大味になってしまったことが原因。
【怖さ】−1
 最後があっさり終わり過ぎだと思う。というか、投げっぱなしで意図が良く分からない。
【買っても後悔しない魅力】−1 残念ながら。途中で失速しているように感じられるので。

名前: わごん ¦ 17:39, Sunday, Jul 26, 2009 ×


何かをした結果、逃れようの無い使命に囚われるという流れは、ホラーには良く見受けられる設定です。
そこにどんなアレンジを加えるかが作者の力量でしょうが、この主人公は余りにも冷静で、恐怖とは無縁の存在に思えます。
その為、読者が怖がれる箇所が見当たりません。

発想・0 構成・−1 文章・−1 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 11:13, Thursday, Jul 30, 2009 ×


これからの展開に期待度 1
恐怖度 0
文章 1
構成0
まるで映画館のコマーシャルのようにこれから!ってところで終わっていまして、なかなかワクワクしそうな展開ではあるのですが… 。
設定も分かりやすかったので読みやすかったです。しかし、ちょっとストーリー展開が強引すぎるような所も。蟲神様の使い一家がこれからどのような事件を巻き起こしてくれるのか楽しみです。

名前: 妖面美夜 ¦ 22:29, Saturday, Aug 01, 2009 ×


蟲神塚を荒らしたのと、「時が満ちた」のが同時期なのがたまたまなのかというのと、主人公の両親と祖父が「使い」になっているのは主人公が蟲神塚を荒らす以前からなのか後からなのかというのがどうも混乱します。
はっきりしないほうが不気味ではありますが、どちらかは明確にしないとどうもスッキリしないような。
アイデアには新味はないと思います。

アイデア −1
文章    0
構成   −1
恐怖度   0

名前: 鶴の子 ¦ 20:43, Wednesday, Aug 05, 2009 ×


民俗学的な恐怖がテーマのお話かなと思い読み進めていましたが、

>僕はこれからどうなるんだろう。

ラスト間際のここらから伝奇小説っぽい雰囲気になり、違和感を感じました。
しかし長編小説の序章を思わせる展開で、『種』として膨らませられる魅力が素晴らしいですね。

「塚」という漢字をなぜ読めるかとの説明が面白かったです。

*設定+1 *文章+1
*描写+1 *恐怖−1

名前: げんき ¦ 18:16, Friday, Aug 14, 2009 ×


文章力はあるのだが、ネタが単調に感じる。

「蟲神塚」が出てきた時点で、ほぼ予測できてしまった。

前半をばっさりと切って、蟲神塚をメインにした話の肉付けをしていくと、傑作になったかもしれない。オチを一新する必要はあるが。

名前: 六条麦茶 ¦ 03:59, Saturday, Aug 22, 2009 ×


スタートのための話、といった印象です。
主人公の決意の理由がはっきり分からないこと、後半の展開が急すぎることがマイナス要因です。

名前: もりもっつあん ¦ 01:06, Friday, Sep 04, 2009 ×


種小説なら、これでいいと思います。実際多くの派生が生まれていますし、点数評価とはまた違った愛され方をしていると思いますよ。

名前: あおいさかな ¦ 00:46, Wednesday, Sep 09, 2009 ×


蟲神様という魅力的なアイデアが盛り込まれていて、種作品としては良かったと思うが、この作品単体で判断すると、物語が動き出す前に終わってしまっているので非常に中途半端な印象を受ける。そこが残念。

名前: 水本しげろ ¦ 20:44, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


蟲神。 あると思います。

アイディア 1
描写力   0
構成力   0
恐怖度  −1

名前: ユーコー ¦ 20:27, Saturday, Sep 19, 2009 ×


何だかすごい話なんですが、ここで終わってしまうんですか?
種作品だからと続きにしなければいけないと思われたのでしょうか・・・。
もしルールの飲み込みだけが原因でこうなったのだったら、勿体ない作品でしたね。

あと、細かいことですが、石の描写がちょっと変に感じました
というか部分的に描かれるので、いまいち良く分からなかったです。
最初の石は大きさが書かれてないままなので大きいのか小さいのかも不明で、次に縄があるのだと分かり、やっと中央の石の具体的な大きさの説明になっています。
最初に読んだ時、石が出てきて、どんな石かイメージがつかないまま、いきなり縄がつき、でかくなった感じがしました。

蝶に心を奪われて視点が集中してしまったせいかとも思えるんですが、いまひとつ具体的な形も全体の様子もはっきりしないので、塚の雰囲気をもう少し書き込まれていれば強い映像を残せていたと思いますよ。
しかしまあ当時の年齢に対してこれだけ全ての記憶が鮮明なのも、本来ならリアルではないかもですね。

点数は辛くなりましたが、この後にステップアップした良作を書かれたかもしれませんし(きっとそうですよね)、何よりも後継作品を沢山リンクさせたのはひとえに人気の証左でしょう。

構成力・−1

名前: 気まぐれルート66 ¦ 01:31, Sunday, Sep 27, 2009 ×


恐怖 1
雰囲気 3
伝奇ファンタジーの序章を思わせる、「種」としては素晴らしい作品だと思います。主人公が「使い」になったのは、偶然ではなく運命とも呼べるものだった、というラストには、恐怖を超えた神々しさにぞっとさせられました。

名前: 白長須鯨 ¦ 20:21, Wednesday, Sep 30, 2009 ×


読者の心象によりフレキシブルに変化するであろうラストと、土俗っぽい雰囲気が好みです。欲を言ってしまえば、どこかにショッカーなシーンを盛り込んで欲しかったかも知れません。初期の種として投稿された事を考えますと、この評価でお願いしたと思います。

名前: 籠 三蔵 ¦ 07:40, Thursday, Oct 01, 2009 ×


虫の卵が登場しただけで、自分はゾッとしてしまうのですが(苦手なもので)、さらに人生奪われるとは・・・。ご愁傷様な展開ですが、登場人物があっさり受け入れてしまうので、怖がるタイミングを逃してしまいました。

名前: 読書愛好家 ¦ 15:45, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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