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自己中心
 「さあて、これからどうしよう…」
昨日付けで会社はクビになった。このことは、妻はまだ知らない。

いつも通りに出勤するように家を出て、自宅から離れた公園のベンチで寝転がっていた。
今となっては、正直、何もかもが面倒臭い。
休日を返上してまで会社の為にと必死で働いてきたのに、クビを切られる時は一瞬の事だった。

〈一体、何だったのか。これまでの自分の人生を全て否定されたような気がする〉
――妻にもいずれは、ばれる。でもどうでもいい。じゃあ、何で隠そうとしている。
そんな考えが頭の中を駆け巡り、どうするべきなのか判らなくなっていた。

頭を切り替えようと、とりあえず煙草を一服ふかす。見上げた空は、悲しい位に青く澄んでいた。
〈小さいなぁ、人間って。社会に弾かれたら生きていけない。喰うのも寝るのも困る事だらけだ〉

 煙草を消そうと地面に投げつける。
踏みしめた直ぐ横を蟻の行列が行進している。モンシロチョウや蜜蜂の死骸をせっせと運んでいる。
〈蟻はいいよなぁ。巣なんか何処にでも作れるし、食べ物だって困りそうも無い。気楽なもんだ〉
そんな蟻の行列を見ていると、何故か無性に腹が立ってきた。
元々俺は、社会の恨みを人様にぶつける度胸は無い。喧嘩など一度もしたことが無いし、上司や部下にも嫌な顔を一度も見せた事が無い。そうして溜まった鬱憤は、小動物にぶつけてきた。

〈今の格好の獲物は、蟻。お前なんだよ〉
一匹捕まえて、一気に引きちぎる。
〈ああ。最高だ。逆らえないだろう。お前らにとっては、俺が神なんだよ〉
他の蟻にはこれでもかと、靴の裏に力を込めて踏みしめる。
足を退けると無数の蟻が体を捩じらせながら、ピクピクと痙攣するように動いていた。
〈これだよこれ。俺には逆らえない。誰が見たところで法でも俺を裁けない。ざまあみろ〉
近場の蟻をほぼ全滅させた頃、ようやく気持ちが落ち着いてきた。

またベンチに横になり、呆と空を眺めていた。やることが無いんだから仕方が無い。
そのうち陽気に誘われ、うとうとし始めた。

――どの位時間が経っていたのだろう。
気が付くと辺りには誰も居なくなっていた。
日はまだ高い。腕時計を見るが、まだ午後2時だ。
しかし、不気味なほど辺りは静まり返っている。耳がキーンと痛くなるような静けさは街中では考えられない。
人気を探して周りを見渡す、と。

――ザザザザザッ…
地面を何かが這うような音が近付いて来る。
何事かと、身構えて様子を窺う。

 ――ザザザザザザザザザ…
さっきより大きな音だ。もう直ぐそこまで近付いているようだ。
〈えっ?!〉
その正体を見て、息が止まった。
公園を囲む様に無数の兎、犬、猫、鳥が地面を這ってくる。歩いているのでは無い。引き摺られている様にゆっくりと近付いて来る。
それらの全てがおかしい。耳が無い。足が無い。頭が無い。羽が無い。
皆、どこかのパーツが抜けている。血の流れた痕や、腐敗が進んでいるのか骨が見えているものが殆んどだ。
間違いない。これまでに俺が殺した生き物だ。それが今頃、何故…。

完全に俺の周りを取り囲むと一斉に、奴らは掻き毟り、噛み付き、啄み、肉を喰らい始めた。
今までに経験した事のない激痛が、電流の様に身体のあちこちを走ると、ここで死ぬのだという恐怖感が湧き上ってきた。

〈くそっ!虫けらが…。お前らはストレス発散の為の生き物で、その虫けらがこの俺の命を狙うとは…〉

………数分後、男の身体は既にあちこち穴だらけになっていた。完全に男の死を確認すると、動物たちは満足した様子で地面に溶けるように消えていった。


――それから三日後。隣町でのこと。
「金も尽きたし、仕事も決まらねえ。ったく、いらいらするぜ」
一人の男が街を彷徨う。人通りの少ない裏道を選び、何かを探している。

〈おっ?!捨て猫発見!〉
男はズボンのポケットに手を忍ばせる。
サバイバルナイフを握りしめ、ゆっくりと猫に近付いていく。

既に『あの動物たち』が待ち構えている事にも気付かずに…



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受信: 20:20, Saturday, Jul 18, 2009

■講評

ううーん、読み易くはあるんですけどね…。
なんていうか、虫系に限らずよくある展開で、特にこれといった感想を持てないというか…。
実は昔、とあるサウンドノベルゲームで似たような展開の話を読んだ事あるんですよね。
あっちはトイレでしたが…。
もう一展開欲しかったなぁというところです。

名前: PM ¦ 20:41, Friday, Jul 17, 2009 ×


読後の感想として、「虫」というよりは「動物」を主として扱っているように感じます。最後の一文でも『あの動物たち…』と言っておりますし、今後の遺伝を考えても「虫」をテーマとした作品には繋がりにくいのではないでしょうか。

名前: kazuo ¦ 16:40, Sunday, Jul 19, 2009 ×


なにがどうあれ今大会で「動物」は駄目だと思います。

名前: kojima ¦ 14:45, Monday, Jul 20, 2009 ×


 いろいろと考えられたんだなってのは伝わってきますね。

 オチをもう一ひねりして、獲物とハンターがひっくり返る以上の物が欲しかったですね。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 20:23, Wednesday, Jul 22, 2009 ×


【アイディア】−1
 虫がテーマ、という大前提から外れているように思う。蟻の存在や、男が動物=虫けらと見なしていることで絡めているのだと思うが、少し苦しい。復讐をするのは小動物ではなく虫の方が良かったのでは?
【描写と構成】±0
 可もなく不可もなく。また、他の方の講評で、動物の死骸の襲撃に蟻が絡んでいるのでは、という意見を見かけたが、その場合、【描写と構成】の点数が−1に下がる。読み手に伝わるように書けていないと思うので。(【アイディア】の点数は上がる)。
【怖さ】±0
 可もなく不可もなく。些か陳腐かとも思うが、マイナスにするほどにも感じない。
【買っても後悔しない魅力】−1 残念ながら。

名前: わごん ¦ 17:42, Sunday, Jul 26, 2009 ×


場面転換や状況説明を心理描写に頼りすぎです。頻繁な心理描写は、独り言と解釈されてしまいます。
例えれば、「ああ、あなたは三年前の台風の夜に濁流に流されて死んだと思っていたお爺さんじゃないですか」。
それは地の文で説明すればどうなのよと言いたくなります。
パーツが欠けた物が押し寄せてくる場面は、トイストーリーを思い出してしまいました。

発想・0 構成・0 文章・−2 恐怖・0


名前: 三面怪人 ¦ 11:24, Thursday, Jul 30, 2009 ×


恐怖度0
残酷度0
文章力0
人物に納得度1

主人公の男がいかに残酷に貪り喰らわれるかという場面を表現してくれたら点数ももっと上がったと思います…。すみません個人的趣味なので。殺した生物に復習されるという設定はありがちなパターンなので何かあともう一ひねり欲しかったです。でも最近の世の中を見ていると居そうですよね〜。こういう人。と妙に納得。

名前: 妖面美夜 ¦ 22:41, Saturday, Aug 01, 2009 ×


最初に印象づけられるのが蟻の脚をちぎったりして喜んでいるという、かなり小人物的な印象の男なので、その後に犬猫の亡霊が大量に出てくるのに少し違和感がありました。
個人的には、最初に猫等を虐待しているところを描いて、最後に蟻に襲わせたほうがテーマにもかなっているし面白かったんじゃないかと思います。
ひょっとしたら、犬猫の亡霊じゃなくて、蟻が関与しているのかも知れませんが、それは大事なところなので、もしそうなら、はっきりさせてもらいたかったところです。
最後の段落はいらないのではないかと思いました。

アイデア −1
文章    0
構成   −1
恐怖度   0

名前: 鶴の子 ¦ 20:44, Wednesday, Aug 05, 2009 ×


主人公のサイテーさ加減が実に素晴らしいと思います。こんな奴が既婚者とは!

個人的感想なんですが、この引っかかりは大きくて、この男が奥さんに対してどういう振る舞いをするのかとか、子どもがいるならどう接しているのかとか、そっちのほうに考えが移ってしまい、そういう描写が一切ない部分に物足りなさを感じてしまいました。

真昼間の公園での惨劇というシチュエーションは、意外性があって好みです。

*説得力+1 *構成−1

名前: げんき ¦ 22:04, Friday, Aug 14, 2009 ×


自己中心的というよりは、人格が未発達、人格が極めてアンバランスという人ですね。虫をちぎっただけで「法でも俺を裁けない」とか言っちゃうトコとかw。えー年こいた大人が言うことかいなっていう。
このタイトルなら主人公の人間性を際立たせる方向で、作中での心の動きをフォーカスするといいと思いますよ。

名前: あおいさかな ¦ 00:50, Wednesday, Sep 09, 2009 ×


復讐に蟻が関わっているのかな?と思わせる描写はありますが、ちょっと分かり辛かったです。今大会は虫がテーマなので、ストレートに虫が復讐する話にしたほうが良かったような。

名前: 水本しげろ ¦ 20:55, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


これは種作品にしては纏まってますね。
まあ連鎖的なラストはテンプレではありますが・・・。

やっぱり蟻と動物の連携は微妙ですね。
それ以上に、この町周辺は小動物を見たら殺そうとする、そんなヤバい人がいっぱいなんでしょうか。
この作品の持ち味を活かすなら、ヤバい人であるが故に(本人の知らないうちに殺気が滲み出ていたとか)クビにされた方が、理由付けとしてはもっともな感じがします。

というのも「俺」のような一人称で語る場合は、語られる内容が全て真実であるとも限らないわけで、語りに真実との齟齬をきたす事によって、作品に謎を持たせる事も出来るし、信じられない語り手を配する事もできるんですよね。
一歩間違えればアンフェアな結果にもなりかねないので、難しい匙加減ではあります。

この作品に出てくる最初の男も、そのあたりにやや齟齬をきたしてはいるんですが、ずれ具合が微妙なので、性格と行動の一貫性が描かれていないだけだと見なされやすいように感じます。

なので、ヤバい人の造形に注力した方が、気味悪さがもっと出ていたと思いますよ。
そうなると蟻と動物の連携も再考しなくてはいけないかもしれませんが。

この作品も種としてリンク数もあり、貢献された作品でした。

アイデア・−1

名前: 気まぐれルート66 ¦ 03:00, Sunday, Sep 27, 2009 ×


この手だと悪い人が酷い目に遭うだけ?と心情的に怖く感じられないので。

名前: 読書愛好家 ¦ 15:45, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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