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愛しい人
 私は虫が苦手だ。
 男の癖にと思うだろうが、駄目なものは駄目だ。もう視界に入るだけで鳥肌ものである。文字通り、「虫酸が走る」のだ。
 物心付いた時には既にそうだったように思う。虫籠を持って飛び回る同い年の友達を見るたび、あんなモノを追い掛け回す者の気が知れなかった。

 嫌い、という単純な感情ではない。
 怖いのだ。とにかく怖い。
 ただそこにいるだけで、そんな事はある筈がないと頭ではわかっていても、視線を感じてしまう。じっと見られている、そんな気がするのだ。

「何それ」
 私の胸に体を預けたまま、そう言って彼女は笑う。
 昔、母にも同じように笑われた。弱虫ねぇ、と。
 そう言えば、昔はまだもう少しマシだったような気がする。
 ふと、子供だった頃に家の庭先に巣を張る大きな蜘蛛を見つけて、悲鳴を上げながら母の後ろに逃げたのを思い出した。
「女郎蜘蛛、と言うのよ」
 スカートの裾にしがみつきながら恐る恐る顔を出す私の頭を、そう言いながら母の柔らかい手が撫でる。
 蜘蛛は巣の真ん中で黒と黄色の縞になった長い手足を絡ませ、二回り小さい同種の蜘蛛を抱えていた。それはまるで母が子を抱いているようで、ほんの少し怖さが薄らぐような気がした。
「お母さんが赤ちゃん抱っこしてるの? 」
 そう訊いた覚えがある。
 違う、と母は答えた。
 私を抱き締めて何か言ったような気がするが、ぼんやりとしていてよくわからない。ただ、急に酷く怖くなったのを覚えている。
 襟足でほつれた髪を纏めながら振り向いた母は、黒い服がよく似合う妖艶な雰囲気を持った美しい人だった。
 彼女は幼い頃に別れた母に似ている。私の自慢の恋人。

 ……恋人?
 何だろう、今何か引っ掛かった。

 気を取り直し、彼女の名前を呼ぼうとする。言葉が詰まった。名前が出て来ない。
「どうしたの? 」
 何でもない、そう言い掛けて彼女の方に顔を向けると、徐に彼女が私の顔を覗き込んだ。
 大きく見開かれた黒い瞳。その瞳の中に整然と規則正しく並ぶ六角形の集合体の、その一つ一つに私の顔が映っている。
 思わず撥ね退けようとして気付いた。
 動かない。全身が。
 コンクリートで固められでもしたように身動きが出来ない。辛うじて動くのは目だけだ。

「うふふ」

 彼女が私から体を離し、ゆっくりとその身を起こす。どこからか漏れて来た光に、無造作に掻き上げた後れ毛が透けて見えた。嫣然と微笑む彼女の顔にあの日の母の顔が重なる。
 再び抱き締めるように私の耳に口付けながら、母の顔で彼女が優しく囁いた。
「愛してるわ。食べちゃうくらい」

 意識が途切れる刹那、遠くで母の笑う声を聞いた気がした。



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これも雰囲気をもった作品ですね。ラストの台詞は、敢えてそうしたのでしょうか?捕食ということでいけば、「愛しているわ。だから食べ縺... ... 続きを読む

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■講評

ううーん、これはどういう状況でこうなったんでしょう…?
ちょっと状況が曖昧で唐突過ぎるかなぁという印象です。

「彼女は幼い頃に別れた母に似ている。私の自慢の恋人。」
という文章が、母についての描写直後に出てきたので、この“彼女”が母を示しているのかと勘違いしてしまいました。

全体的に、もうちょっと描写面を整理できればなぁ、と思います。

名前: PM ¦ 19:39, Saturday, Jul 18, 2009 ×


少し説明が足りないように思います。短く纏めている事、作品に漂う雰囲気などは好きですが、母親の関連性など、よく解らない部分があります。

名前: kazuo ¦ 18:20, Sunday, Jul 19, 2009 ×


 雰囲気があって良かったと思います。

 もう一ひねりあるとなお良かったですね。
 取り込まれるだけではもうひとつかな。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 21:09, Wednesday, Jul 22, 2009 ×


>蜘蛛は巣の真ん中で黒と黄色の縞になった長い手足を絡ませ、二回り小さい同種の蜘蛛を抱えていた。
この部分の仕掛けに気付かなければ、この話の真髄は判らないと思う。これ、交尾の最中ですよね。恐らく、この後、雌は雄を食べてしまう。 これを伏線として考えると、後半部の薄ら寒い怖さが深々と伝わってきます。

発想・1 構成・1 文章・1 恐怖・1

名前: 三面怪人 ¦ 00:44, Saturday, Aug 01, 2009 ×


・アイディア±0
 可もなく不可もなく。
・描写と構成±0
 可もなく不可もなく。蜘蛛関係の描写はちょっと良い。母と恋人を混同している部分は、もっと分かりやすく説明した方が良いと思う。同一人物なのかどうかも。断言するにしろ、匂わす程度にするにしろ。
・怖さ±0
 可もなく不可もなく。
・買っても後悔しない魅力±0 可もなく不可もなく。

名前: わごん ¦ 18:54, Monday, Aug 03, 2009 ×


アイデア 0
描写力 0
構成力 0
文章力   0
全体的にこれといったチラーポイントが感じられなかった。
蜘蛛に対する恐怖なのか、女性に対する恐怖なのか?
最初の虫嫌いの説明は月並みなので、なくてもよいと思いました。
どうしてそこまで蜘蛛を嫌うのか、明確な理由が欲しい。
あと母親と彼女が途中で曖昧ごっちゃにしてしまっている。
雰囲気だけで語ろうにも少し中途半端かなあ。怖い感じもうけないので。
よくできた佳作なのかもしれませんが、もっと突き抜けたものが欲しかったです。

名前: 妖面美夜 ¦ 21:11, Tuesday, Aug 04, 2009 ×


蜘蛛女がいつのまにか生活に入り込んでいたのか、あるいは母の記憶から何から何まで蜘蛛の化け物に吹き込まれたものなのかと想像をめぐらしたくなりますが、逆に言えば解釈の難しい作品になってしまっています。
最後の「遠くで母の笑う声を聞いた気がした」というところも、どうとらえていいのかがよく分かりませんでした。
そのため話へ引き込まれず恐怖感が削がれてしまったように思います。

アイデア  0
文章   −1
構成   −1
恐怖度   0

名前: 鶴の子 ¦ 20:51, Wednesday, Aug 05, 2009 ×


描写がとても好みです。映像がありありと浮かびました。美しい話だと思います。
母に対する近親相姦的なイメージも、嫌悪感を感じさせるようなものではなく上品に抑えられていると思います。(個人的なことで恐縮ですが、どうしても近親相姦が苦手なものでそこに目がいってしまいました)

*描写+1 *恐怖−1

名前: げんき ¦ 19:11, Sunday, Aug 23, 2009 ×


冒頭の「虫が嫌い」という設定があまり活きてないと思います。
このボリュームでの雰囲気のよさに一点。
ただ、短くまとめすぎて曖昧にも感じました。

名前: もりもっつあん ¦ 01:24, Sunday, Sep 06, 2009 ×


幻想的な恐怖というのかな、雰囲気はよく書けていると思う。初読時、女蜘蛛の部分で立ち止まらずに読み流してしまったので、ラストの意味がよく分からなかった。
冒頭の虫嫌いという前振りは無い方が分かりやすいと思う。

名前: 水本しげろ ¦ 21:21, Friday, Sep 18, 2009 ×


雰囲気で読まされました。
女性を母親に、母親を蜘蛛に投影することで、蜘蛛を女性のシンボルとして描くという
手法は良いなと思いました。

アイディア 1
描写力   0
構成力   0
恐怖度  −1

名前: ユーコー ¦ 20:47, Sunday, Sep 20, 2009 ×


これは引きすぎて普通の話に見えてしまった感じがしますね。
ぱっと見では、蜘蛛が出てきて、母と彼女が重なって最後に食われちゃった、そんな内容にしか読めなかったです。

他の方の講評に蜘蛛の交尾を描いているのだという指摘があるのですが、不勉強ながら私は蜘蛛の交尾の様子を見たことがなかったです。
書かれている場面にしても回想シーンにさりげなく出てくるだけですし、他の多くの方の講評を読んでもここが重要ポイントとして描かれている事にはどうやら気がつかれていなかったように見受けます。

そこを読者の読み不足と嘆くのか、これで読解力のレベルを問われることなのかは分かりかねますが、「瞳の中に整然と規則正しく並ぶ六角形の集合体」の表現のように、遠回しな表現や印象の薄い交尾場面の入れ方が、結果的には見過ごされやすい情報となってしまったのではないかなと思います。
作者の方の目論見としては技術を前に出そうとしたのに、読者の興味は残念ながらストーリーの方に目がいっていたせいかもしれません。

交尾シーンをどんと最初に置いて書けば、何だ?何が始まるんだ?と思わせることは出来たかもしれませんが、この展開ではやや小さい盛り上がりにしかならなかったかなと感じました。

種作品公開後には個性的な作品がいろいろ出てくることになりましたが、概ね好評な作品は、まずはストーリーかオチが光っているものが多かったように思います。
その点ではこの「愛しい人」は不本意にも技術的な面が看過されてしまって地味な印象となったのですが、その後コミカルから雰囲気重視の作品にまでいろいろなジャンルの後継作にリンクされた、まさに「愛しい」一作になったと思います。

名前: 気まぐれルート66 ¦ 23:00, Sunday, Sep 27, 2009 ×


恐怖 2
雰囲気 2
他の方の講評を読んで、この物語似存在する恐怖の正体を知りました。恋人に昔の話を語った後、恋人がその怪異に変ずるという件は、どこか「雪女」にも似た部分があると思います。母親もまた女郎蜘蛛に関連した存在なのかが気になりますが、それでも十分楽しめる物語でした。

名前: 白長須鯨 ¦ 20:09, Wednesday, Sep 30, 2009 ×


 実を言うと、講評しようにもどこから手をつければいいのか迷ってました。というのも「母」の要素が全体を攪乱しているからです。

>彼女は幼い頃に別れた母に似ている。私の自慢の恋人。
 っていうのは母親が恋人だったようにも読み取れるし、
>母の顔で彼女が優しく囁いた。
 のトコロも、結局倒錯した親子の話なのか? あるいはカマキリの母性にまつわるトコロなのか? よく分からなかったです。

> 私を抱き締めて何か言ったような気がするが、ぼんやりとしていてよくわからない。ただ、急に酷く怖くなったのを覚えている。

 この時点が、もうちょっと突っこんだ書き方をするタイミングだったと思います。

名前: あおいさかな ¦ 01:37, Thursday, Oct 01, 2009 ×


まとまっていますが、主人公がどうして餌食になったのか謎でした。理由で恐怖度が違う気がします。

名前: 読書愛好家 ¦ 16:01, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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