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理想の夫婦
先ほどから秀雄は、レースのカーテン越しに隣家を覗いている。一つ大きく頷くと、なるほど、あれが妻の理想とする夫婦像かなどと独り言を吐く。視線の先にあるのは、日光浴中の老夫婦である。ロッキングチェアに揺られる夫、背後には愛しげに見守る妻。
「いいねぇ。愛しいという感情が全身に満ちている。確かに理想だ。君の言う通りだ」
秀雄は風呂場に向かって話し掛けた。そろそろ圭子の入浴が終わる頃だ。タオルを用意してあげなければならない。どうせなら洗いたての方が良かろうと、秀雄はベランダに出た。
太陽をたっぷりと浴びたバスタオルは、幸せの香りに満ちている。取り込みながら、秀雄はもう一度隣家を見下ろした。
何かがおかしい。秀雄は、じっと目を凝らした。一旦、居間で探し物をし、忍び足でベランダに戻った。その手には双眼鏡がある。そっと隣家に焦点を合わせた。
ロッキングチェアに座る老人と、その妻。どこから見ても幸福そうな夫婦だ。が、何かザラついた違和感がある。秀雄は、じっくりとその答を捜した。
「まさか」
思わず言葉がこぼれ、秀雄は慌てて口を押さえた。老人の後頭部が無い。正確に言うと、大きく窪んでいるのだ。怪我どころの話ではない。生きているとも思えない。
その証拠に、老人は先ほどから瞬きをしていない。見開いたままの眼球の上を一匹の蝿が這っている。蝿は眼球に飽きたのか、耳の穴に入り、続いて鼻の穴にまで足を伸ばした。
ロッキングチェアを揺らしているのは、老人ではなく背中に控える妻の方だと判るのに、それほど時間は要しなかった。
秀雄は、来た時と同じく、静かに室内に戻った。思案しながら圭子が待つ風呂場へ向かう。何が原因か見当もつかないが、人が死んでいるのは事実だ。
「聞いてくれ、圭子。お隣さんが大変だ」
今見てきたことを報告しながら、秀雄は圭子に手を差し伸べた。
「ね、やり方が下手くそだろ? あの御老人、だいぶ腐ってきてるんじゃないかな。よいしょっと。お、圭子、綺麗になったね」
どれ、中身はどうかな、と秀雄は圭子の腹部に開いた穴に、手を入れて広げた。綺麗に内臓を取り除かれ、最早ただの空洞に過ぎない体から防腐剤が流れ落ちる。
「うん。いい感じだ。これでまた一ヶ月は保てる」
洗い立てのバスタオルで圭子の体を丁寧に拭き、お気に入りの服を着せた。丁寧に化粧し、ガラスで出来た眼球を嵌め、椅子に座らせる。
「誕生日おめでとう、圭子。ほら、君の好きなケーキだよ。ロウソクは二十四本、と。去年と一緒だ。あはは。プレゼントはピアスにしたんだけど……君、ピアスしたこと無かったっけ? 」
折角買ったピアスを無駄にしたくない。秀雄は圭子の耳朶を摘むと、ピアスを突き刺した。ロウソクの灯火を受け、ガラスの眼球が美しく輝く。
「うん。良く似合ってるよ」
圭子の変わらない笑顔が、じっと秀雄を見つめている。
秀雄は高らかにバースディソングを歌い始めた。



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幸せな光景の筈が、実は殺した夫の世話をしている妻。それを目撃した主人公もまた、妻を殺害していた。面白い構成であると思う。淡々とした風景に潜む狂気が上手く描かれていて、なかなかの文章巧者である。ただ惜しいのは、自分が見た隣家の夫婦の様子を妻に報告する場 ... 続きを読む

受信: 23:32, Thursday, Jul 30, 2009

■講評

ううーん、意図があるのか、ちょっと回りくどい印象を受けました。
展開としては「お?」と思ったのですが、それだけで割と良くある展開に落ち着いてしまったのが残念に思えます。
狂気的な雰囲気は出てると思うので、もう一捻りあると良かったかなぁと思います。


名前: PM ¦ 21:33, Monday, Jul 27, 2009 ×


アイデア 1
描写力 0
構成力 0
恐怖度 1
非常に読みやすい構成と文体は良かったと思います。
ただ、表現があっさりしていましたね。
あと疑問に思ったのは隣人の老夫婦と主人公の物理的位置関係。
窓からのぞいているので、結構距離があるはずなのに、老爺の死骸に蠅が止まっているとかわかるのかなあ?至近距離でないとわからないような気がするのですが…。あと後頭部の陥没とかどういう角度からわかったのかしら?
主人公が実は自分の妻を殺害していて…というドンデン返しはおもしろかったです。最後にハッピバースデーは笑えますね!主人公のイカれ具合がわかる。(笑)

名前: 妖面美夜 ¦ 13:11, Friday, Jul 31, 2009 ×


細かく描写されていて、なかなか手の込んだ作品だと思います。
なんですが、圭子の応答が全然無いままの状態が続いているので、結構早い段階で死んでるっぽい予想が立ってしまいました。「そろそろ圭子の入浴が終わる頃だ」で生きてる風に見せかけたのでしょうが、浴室の音も応答もないままで続行するのは若干しんどかったかもしれません。
日常の(秀雄にとっての)一部分を切り取って、その描かれた断片から恐怖を煽る手法かと見受けますが、作中で一番難しかったのは秀雄の異常さの造形ではないでしょうか。
現実の社会で理不尽な事件が多発する昨今では、よほどリアルな人物造形をしないとこの手の恐怖を成立させるのが困難であると考えます。
敢えて困難さに立ち向かった作者の方の苦労は窺えるのですが、あと少しだけ頑張っていただきたかったかなと思う次第です。

名前: 気まぐれルート66 ¦ 16:48, Friday, Jul 31, 2009 ×


 なかなかおもしろいですね。
 幸せな夫婦が実は死んでいたという展開。

 転はあるんだけど、結がないので、どうも不安定な印象なんですよね。
 どうしても「ああ、そうなのか」で終わってしまう。
 主人公の行動にも動機がないから、もうひとつ感情移入できない。

 結論がないので、どうしても前振りである起点も存在しえない。
 それはこの作品を否定する理由にはならないんだけど、肯定的要素の欠落という印象を持たされてしまうんですよね。

 内容に対する適切な分量、適切な描写という点ではとても高度にまとまっています。
 それだけにちょっともったいないかな。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 01:07, Monday, Aug 03, 2009 ×


切れ味が良く、情景が浮かぶ文体と、適度な長さは好感が持てます。
起承転結をあえて無視し、読者を放り出すやり方は、人によっては物足りないと感じるのでは。

発想・1 構成・0 文章・0 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 17:38, Thursday, Aug 06, 2009 ×


悪夢のような光景にあってさえ、静かで平和な空気の流れが読み取れる素敵な文章ですね。書き慣れてる感があり、安心して読めました。それだけに、グサッと胸に刺さるインパクトがないのが惜しまれます。
文章-+1
構成-0
怖さ-−1

名前: あおいさかな ¦ 20:45, Friday, Aug 07, 2009 ×


・アイディア−1
 虫がテーマ、という大前提から外れているように思う。死体に蝿が止まっているだけでは弱すぎる。申し訳ないが、この時点で私の点の付け方だと−1になる。
・描写と構成±0
 可もなく不可もなく。
・怖さ±0
 可もなく不可もなく。人が死んでいれば怖くはあるが、それ以上の恐怖も感じない。
・買っても後悔しない魅力−1 虫がテーマの傑作選を買って、虫との関わりの薄い話が載っていたら、損をした気分になると思うので。

名前: わごん ¦ 11:48, Friday, Aug 14, 2009 ×


主人公の狂いっぷりが素敵です。最後のピアスのくだりが最高にかっこいいと思います。高らかにバースディソングを歌う、というラストがこの男の狂気を凝縮させてるようで、ぞくぞくしました。好きです。


*主人公の魅力+1

名前: げんき ¦ 21:53, Monday, Aug 24, 2009 ×


なかなかこの二組の夫婦の狂いっぷりはいいと思います。
ただ、ここから何かが起きないといけないような。
状況説明だけで終わってしまったような印象でした。

アイデア  1
文章    0
構成    0
恐怖度   0

名前: 鶴の子 ¦ 13:12, Monday, Sep 07, 2009 ×


奥さんが死んでいるのが分かってからの文章が、やや冗長な気がします。
死体の描写の対比をより濃くして、おぞましさを強調して欲しかったと思います。

文章力 +1

名前: もりもっつあん ¦ 09:11, Sunday, Sep 13, 2009 ×


簡潔にまとまっていると思います。ただ、老人夫婦の方も秀雄と同じことをしていた
わけですから、>何が原因か見当もつかないが、人が死んでいるのは事実だ。
と、秀雄が驚くのはちょっと、辻褄が合わないような気がします。

名前: 水本しげろ ¦ 20:12, Sunday, Sep 20, 2009 ×


恐怖度 1
雰囲気 2
テーマ −1
「理想」の中に囚われてしまった主人公の哀れさを感じます。死んだ妻を生きているように見せかける、という話はよく聞きますので、彼も妻への愛が狂気に変わったのだろうと思いました。ただテーマである「虫」の存在が希薄だったのが残念でした。

名前: 白長須鯨 ¦ 17:32, Monday, Sep 28, 2009 ×


発想0 文章+1 構成0 恐怖ー1
お隣さんが大変になったところまでの不穏な空気はかなり好きなんですが、それからあとがありきたりな展開で残念です。

名前: 戯作三昧 ¦ 05:04, Wednesday, Sep 30, 2009 ×


オチから物語を作っていってるので、先読みされない為の工夫とオチを出した後のシメがたいへんだった思います。

アイディア  0.5

描写力    0
構成力    0
恐怖度   −0.5

名前: ユーコー ¦ 02:33, Thursday, Oct 01, 2009 ×


何?どうなってるの?と思ってしまったので。多分この状況そのものよりも、どうしてこうなったかの方が怖そうです。

名前: 読書愛好家 ¦ 16:40, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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