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それほど遠い未来ではない、日本のような国で起きた話。 野党が政権交代を実現しようと躍起になっていた総選挙の少し前、その国の国会議事堂に突如巨大なハエが飛来した。体長5メートル、クワガタに似た形状の顎を有し、羽にはピンクの可愛らしいドクロのような模様がついていた。 従来的なイメージとはちょっと違うものの、全体の姿からして何となく国民はそれを「ベルゼブブ(蠅の王)」だと思うようになった。 ベルゼブブのようなものは国会議事堂のてっぺんにとまったまま、羽ばたくわけでもなく、どこかへ卵を産み付けるわけでもなく、地上に降りて人間に危害を加えるような事も全くしなかった。 巨大なハエの姿は見た目には気持ちの良いものではないが、バナナのような形をした目がマンガチックに笑っているピンクのドクロのせいか、やがて国民は愛着を持つようになった。 たまに頭部を動かし、何か食べたそうに鋭い顎を動かすベルゼブブのようなものの様子は毎日テレビで報道された。この当時の総理の顔を模したさえない饅頭よりも、実際売れ行きが好調だったのはベルゼブブのようなものを模した「ベルちゃん餅」だった。 はとバスのような定期観光バスの車内でベルちゃんグッズが売られるようになって間もなく、この国の至る所で選挙運動が本格的に始まった。各党が甘い綿菓子のように空虚なマニフェストを掲げて、国民に熱く訴えるようになった。 ある日の昼過ぎ、ベルゼブブのようなものは国会議事堂から、羽音を全く立てずに静かにどこかへ飛んでいった。次期総理の座に最も近い男と新聞やテレビが報じている、ある野党の代表の街頭演説中、ベルゼブブのようなものは彼の上空に出現した。 「与党が政治を食い物にしてきた時代は終わりました。私にこの国の未来を預けて下さい。国民主体の清らかな政治を目指して……」 急降下してきたベルゼブブのようなものは一点に狙いを定め、次期総理の座に最も近い男の首をその鋭い顎でさくっとはさみ、一瞬のうちにはねた。目を見開きやる気に満ちあふれた表情が張りついたまま、次期総理の座に最も近い男の首はくるくると回転しながら聴衆のなかへ変則的なカーブを描いてとんでいった。街頭が悲鳴と叫びで染まり、その様子は各テレビ局ニュースのトップで何度も繰り返し流された。 隣国のメディアは少し変わった見出しをつけてこの事件を扱ったが、日本のような国では衛星放送の国際ニュース深夜枠で数分間だけ端折って伝えたので、日本のような国の国民に隣国の放送の全容が知られることはなかった。
日本のような国では、次期総理の座に最も近い男を失ってからは街頭演説も遊説も大幅に激減し、かわりにテレビやインターネットを介した選挙運動が増加した。 ベルゼブブのようなものは二度と国会議事堂には戻らなかったが、選挙運動の期間中にどこからか飛んできては、各政党の代表をまんべんなくはねていった。
日本のような国で行われたこの年の総選挙では、次期総理の座に最も近い男のいた野党が圧勝した。 「自らの政治生命を賭けて国民のために最初の犠牲となったのです」と次期総理の座に最も近い男の次に次期総理の座に近い太った男が涙ながらに国民に訴え、日本のような国の総理のようなものに就任してしまった。
ベルゼブブのようなものが何であったのか、首をはねた代表達は単なる偶然の連なりであったのか、いまだ多くの謎を残している、とその後コンビニのオカルト雑誌にこの事件が掲載された。あの時の隣国のメディアが少し変わった見出しで報じた『次期総理候補に七つの大罪の裁きが下された』をそのまま使い、巨大なハエが本物のベルゼブブであるなら次期総理候補らに何らかの裁きが下されたのだろうと推測、所属していた党が掲げるマニフェストの具体性についての検証や過去の資産疑惑に関する記事などが並んでいた。
何と馬鹿馬鹿しい。 ハエの考えることなど誰にも分かるわけないじゃないか。
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受信: 22:07, Tuesday, Aug 04, 2009
■講評
あ、なんかこの表現の曖昧さが個人的にツボですね。 思わずツッコミ入れたくなるようなオチでもちょっと笑ってしまいました。 怖くはないのですが、話として上手くまとまってて、面白かったと思います。
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名前: PM ¦ 18:55, Thursday, Jul 30, 2009 ×
アイデア 1 描写力 0 構成力 1 恐怖度 0 ハエは大嫌いですが、キュートに書かれていますね〜(笑) 現代日本の政治にひっかっけて作品を書かれたところが博識的で凄いですね。 虫が巨大化は月並みですが、ぶっ飛んでいるので良しとしましょう。この先、モスラやゴジラみたいな怪獣と対決したら面白そうですがね。 最後の皮肉めいたオチが笑えました。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 21:13, Thursday, Jul 30, 2009 ×
思いっきりベルゼブブらしさを煽って、最後で只のハエ扱いでは笑うしかないですね。 とはいえ巨大蠅の正体=ベルゼブブとは断言できないし、ひょっとしたら皆壮大な勘違いをしてたんじゃないでしょうか。ぼかした表現が多いので若干の読みにくさは否めませんが、ベルゼブブの正体を断定させない曖昧効果は出ていると思います。
ただ、私自身が怪獣モノ=国会議事堂の連想があるせいか、国会議事堂に対しての巨大なハエが体長5メートルでは意外に小さい?気がしないでもありませんでした。 また、7つの大罪は映画「セブン」等である程度知られている事かもしれませんが、作中でも若干の説明があった方が分かり易かったのではと思います。
アイデア・1、構成力・1 |
名前: 気まぐれルート66 ¦ 01:25, Saturday, Aug 01, 2009 ×
すいません。何を書いてあるのか理解できませんでした。 ゴメンなさい。 自分のバカを棚に上げて申し訳ないんですが、もうちょっと私みたいなおバカにも理解できるように書いて頂きたかった。 本当にゴメンなさい。
【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0 |
名前: ユージーン ¦ 01:45, Monday, Aug 03, 2009 ×
巨大とは言えただの虫に翻弄される政治…ダメな国ですね。 怪物と共存してる風景、見もふたもない落ちが面白く、テンポのいい文体も好みです。 ただ、残酷描写まで軽妙なせいか、あまりぎゃーっと言う怖さは感じませんでした。 |
名前: もりもっつあん ¦ 08:38, Sunday, Aug 09, 2009 ×
・アイディア+1 社会風刺のような形式を選んだことは面白い。シニカルな締めも良い。 ・描写と構成±0 可もなく不可もなく。ベルちゃんの動向に振り回される人間の滑稽さをもっと描写すると、更にオチが効いたのでは。頭部を動かした角度で株価が左右されるとか。 ・怖さ±0 可もなく不可もなく。ややマイナス寄り。 ・買っても後悔しない魅力−1 ごめんなさい。実在の誰かさんを思わせるキャラクターを殺すことで成り立っている風刺はとても嫌いです。いじめと変わらない。 |
名前: わごん ¦ 18:03, Tuesday, Aug 18, 2009 ×
なかなか読みやすく、オチも秀逸で良かった。 ショート・ショートとしては存分に楽しい秀作だと思う。
ただ、この楽しさは怪談として求められる「笑いと表裏一体の恐怖」ではなく、単純に「面白い」「笑える」話になってしまっているので、あえて「怪談」としての配点は0とした。
個人的にはもう少し文章を引き締めて、短くしてもよいと思う。 |
名前: 六条麦茶 ¦ 03:10, Saturday, Aug 22, 2009 ×
ベルちゃんにはまいりました。タマちゃんとかアレ系ですよね? 実際ありそうで可笑しかったです。 文章も読みやすく描写も判りやすいのですが、政治風刺は個人的にはあまり好きではありませんので、恐怖も感じませんでした。 しかし〆方はすごくかっこいいと思いました。
*文章+1 *恐怖−1
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名前: げんき ¦ 23:29, Monday, Aug 24, 2009 ×
衆院選の終わった後で講評しているのですが、なかなか感慨深いものがあります。 政治風刺としては面白いのですが、この怪集のことを知らない人が読んだら何が何だか分からないんじゃないかという疑念が拭えませんでした。
アイデア 1 文章 0 構成 0 恐怖度 −1
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名前: 鶴の子 ¦ 14:56, Monday, Sep 07, 2009 ×
う〜ん、何だかよくわからないです。七つの大罪でベルゼブブということは「暴食」、 つまり国民を食い物にしている政治家を風刺した作品ということでしょうか? >次期総理の座に最も近い男の次に次期総理の座に近い太った男 とか、妙に回りくどい描写が読みにくかったです。別に曖昧にしなくても良かったと思います。 |
名前: 水本しげろ ¦ 17:54, Monday, Sep 21, 2009 ×
全体を通して巧くまとめられており、読後感にも満足がいく作品でした。 ただ、文章自体が『のようなもの』になっており、曖昧さに逃げてしまった印象があります。
発想・1 構成・1 文章・−1 恐怖・0 |
名前: 三面怪人 ¦ 22:16, Tuesday, Sep 22, 2009 ×
すみませんが、正直中途半端です……。 ベルちゃんか政治家か民衆かマスコミか、どれかに密着した視点が欲しかったです。
あまり比喩を使わない作者さんなんですね。数少ない比喩である >甘い綿菓子のように空虚なマニフェスト っていうのが気になりました。 綿菓子は空虚じゃないから。 |
名前: あおいさかな ¦ 01:19, Thursday, Oct 01, 2009 ×
あまり怖くないというより、怖い所がどこなのか分かりませんでした。 |
名前: 読書愛好家 ¦ 21:10, Thursday, Oct 01, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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