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眠れ静かに
庭の木で蝉が鳴いている。朝から夜中まで延々と鳴き続けている。奈央の故郷では、夜に鳴く蝉などいない。夫に理由を訊くと、したり顔で温暖化の影響だと答えた。
「温度を感じて鳴くんだよ。二十六度が境界線らしい。だから熱帯夜に鳴くわけだ。一体、地球はどうなるんだろうねぇ」
そんなこと知るか、と奈央は胸の内で毒づいた。
「それじゃパパ行ってきまちゅからね、良い子でいるんでちゅよ、樹里ちゃん」
そうよねぇ、あんたはそうやって冷房の効いた車に乗って、冷房の効いた会社で一日過ごして、冷たいビールを飲んで帰ってくればいいもんね。
胸に溜まった毒に、さらに追加補充。その間、あたしはこの子と二人きり。一刻も早いローン完済を目指して、クーラーも消して、家事と育児に没頭するしかないのよ。
この泣き喚くものと二人きりなのよ。何をしても泣く、どうやっても泣く、抱き上げると泣きやむ、下ろしたらまた絶叫する。散々泣き続けて疲れて眠る顔を見て、天使のようだね、なんて呑気に笑いやがるんだよあんたは。
死ねよ。いっぺん。
胸の毒はいつものセリフで塗り固められた。ここ最近、奈央は自分でも情緒不安定だと感じている。友人に相談しても余計に腹立たしくなるだけである。夜泣きは一過性のものだとか、夜泣きに効く薬なし、などというありふれた答しか返ってこないのだ。自分のお腹を痛めた子なんだから、何しても可愛いわよと責められたりもした。
そんなことは判っているのだ。可愛いに決まっている。それでも苛々は治まらない。さらに蝉が拍車をかける。奈央は、ぐずり始めた我が子を抱き上げもせずに、しばらく見下ろしていた。
「だめ。何考えてるの、あたし! 赤ちゃんは、痛いともお腹すいたとも言えないんだから。泣くしかできないんだから。ごめんね、樹里ちゃん」
抱きかかえて乳房を含ませ、出来る限り穏やかな声で話しかけるうち、我が子はウトウトしだした。奈央は迷った。いつも、ここからが試練の始まりなのだ。どれほどそっと下ろしても、その時点で樹里は目覚め、絶叫するのである。
どうすればいい。奈央は当て所も無く、部屋を見回した。その目がクローゼットで止まる。夫が二日前に、同僚から貰ってきたという出産祝いが頭に浮かんだのだ。
静かに扉を開け、包みを探した。
「あった」
可愛らしい包装紙に、出産祝・吉川真美とだけある。生まれてから八ヶ月も経つのに、えらくのんびりした出産祝よねぇと茶化してみたが、夫は笑いもせずに答えた。
「中身は羊の縫いぐるみらしいよ。なんでもな、赤ん坊が聞くと寝てしまう音を出すんだってさ。大人が聞いても雑音でしかないらしい。夜泣き用に良いかもって。だから今、贈りますだとさ」
なかなかどうして、先見の明がある。奈央は、吉川真美という顔も知らない相手に深く感謝した。音を立てぬように、細心の注意を払いつつ包みを開ける。
夫の言葉通り、可愛らしい羊の縫いぐるみだ。ゆっくりとベビーベッドに向かいながら、奈央は縫いぐるみを調べた。音が出るというからには、電池が必要な筈だ。お尻のあたりにあるスリットがそれかもしれない。
奈央は、我が子をベッドに寝かせると急いでスリットに指をかけた。ここからは時間の勝負である。早くしないと、樹里はまた絶叫を始める。
「あれ? 」
すでに音がする。よほど気の利いた贈り主らしく、既に電池が入れてあったらしい。連続した低い音だ。なるほど、これが赤ん坊を落ち着かせるのか。
どちらにせよ、どのように電池が入っているか調べておく必要がある。スリットを広げると、白いボックスが現れた。電源スイッチは、そのボックスに直付けされてある。
「え」
束の間、奈央は戸惑った。スイッチがOFFを示しているのだ。音はまだ聞こえている。耳を澄ませると、音は電池ボックスから漏れてくるようだ。
留め具を外し、奈央は電池ボックスを開けた。
中には電池の代わりにハチがいた。それも、かなり大きなスズメバチだ。身を竦ませる奈央には目もくれず、スズメバチは翅を震わせると、瞬時に天井近くまで動いた。
激しく翅を震わせ、カチカチと牙を鳴らしている。攻撃の意思表示である。スズメバチは、甘いミルクの香りを放つ、柔らかそうな生き物に狙いを定め、一気に降下した。



00:10, Tuesday, Aug 04, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(14) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯


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日常の中にある殺意に近い感情を上手く拾い上げている。多分、世の子育て中のお母さん方は、一度はこんな感情を抱いた事があるのではないだろうか。一つ気になったのはスズメバチの大きさ。電池ケースに入れたとして、音がするには羽を震わせていなければならないが、そ .. ... 続きを読む

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■講評

アイデア 0
描写力 0
構成力 0
ママが怖い  2
ちょっとラストが尻切れトンボですかねえ…。もうちょっとハチがどういう行動を取ったかという所まで描いてもよかったと思いますよ。
縫いぐるみに巨大スズメバチが仕掛けられているのも少し不自然さが残りますね。
育児ノイローゼの母が一番怖いですね。

名前: 妖面美夜 ¦ 00:44, Tuesday, Aug 04, 2009 ×


前半は生活感のある書き方で良かったです。
音がするからどのように電池が入っているか調べておく必要があると書かれていますが、急に音が止まったとか音が不規則だとかで、あれ?電池がうまく入ってないんだろうか、それなら見てみるかと電池ボックスを調べさせた方がもっと自然に見えるように思いました。
電池の入り方よりもまず先にスイッチの場所を探す方が良かったかもしれません。

手際の良すぎる奈央を少し機械オンチの人物設定にしたり、出産祝いを貰って2日よりもずっと長い日数が経過して調べたら電池ボックスの中でスズメバチが死んでいたりとか(この方が何も起こらないだけに相手の悪意が感じられるのでは)、他の要素をいじるだけでも更に面白くできるような気はします。

名前: 気まぐれルート66 ¦ 12:13, Tuesday, Aug 04, 2009 ×


前半は日常にありそうな狂気を描いていて、薄ら寒くなりました。
ただ、オチが少し唐突だったように思います。
吉川さんとダンナの間に何があったのか少し匂わせて欲しかったです。

名前: もりもっつあん ¦ 04:00, Sunday, Aug 09, 2009 ×


なんだか奈央の心情描写が妙にリアルで、期待しながら読んではいたものの、オチがそれを活かさずあっさりと終わってしまったのが残念に思いました。
展開としても、吉川真美と夫の関係を、ハッキリとまではいかずとも、少し何かを匂わす程度に語りを入れておかないと、ちょっとスズメバチの登場が唐突に思えます。
全体的に、ちょっと終わり急いだという印象でした。


名前: PM ¦ 19:41, Monday, Aug 10, 2009 ×


 丁寧に書かれていますね。
 雰囲気が出ていました。

 子供はお腹の中にいる時に聞いた音を聞くと安心して眠るって話がたぶんベースなんですよね?
 それは説明してあった方がいいかな。
 でもそれだとスズメバチの出す音との整合性が難しかったでしょうか。

 親切心と害意が背中合せになってる構造は良かったと思います。
 この害意の存在を冒頭で上手くネタフリできるとなお良かったと思います。
 冒頭にぬいぐるみをもらうエピソードを入れて、「なぜ夫が中身を詳しく知っているのか?」とかちょっと不思議に思うとかね。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 20:29, Wednesday, Aug 12, 2009 ×


奈央が電池ボックスを開けるまでが怖かったです。育児疲れの若いママがとてもリアルに表現されていると思います。「吉川真美」の表し方も、いろいろと憶測できるところが好みです。
スズメバチの登場にちょっと面くらいましたが、スピード感があって面白いと思いました。

*文章+1 

名前: げんき ¦ 18:47, Sunday, Aug 30, 2009 ×


・アイディア±0
 惜しい。電池ボックスの中にいるのが遺伝元でも使われているスズメバチではなくて(単に違う種類の蜂でも印象は違ってきた)、縫いぐるみの仕掛けや物語中での使い方にもう少し悪意を感じれば、+1にしていた。スイッチをONにしていたら、どうなっていたのだろうか?
・描写と構成±0
 奈央の疲弊している感じは良く出ていたと思うのだが、それが結末に絡んでこないのが勿体ない。また、縫いぐるみの出す「赤ん坊が聞くと寝てしまう音」というのは、電池ボックスに入っていたスズメバチの羽音だろうか、それとも、スイッチを押すと生じる別の何かなのだろうか? 読み終えて、そこで非常に混乱した。
・怖さ±0
 知らない相手から悪意のある贈り物が送られてくる、というのは怖いが、結果的に縫いぐるみの仕掛けが不発に終わっている(?)のが残念。普通にスイッチを押してしまって中からスズメバチが出てくる、または暫く赤ん坊に音を聞かせていて、ある日それがスズメバチの羽音だったと知る、というような展開でも怖くなったかと思うのだが、如何だろうか?
・買っても後悔しない魅力±0 全体的に好印象でプラス点を付けられそうなのに、気になる所が多くあって踏み込めない感じ。

名前: わごん ¦ 00:51, Sunday, Sep 06, 2009 ×


やはり単純に「虫に刺される」というのは怖いです。
しかもスズメバチだったり、それが誰かの悪意だったり、また自分が知らない間にそのような悪意を受けているという事実がまた怖いです。
そのような人間が怖いと感じる要素をさらっとお話にまとめていて、良い作品だと思います。

名前: 読書愛好家 ¦ 22:46, Tuesday, Sep 22, 2009 ×


短く纏められた文章ですが、色々な裏が読み取れる作品だと思います。夫は、贈り主と何かしら関係があるのでは、とか、追い詰められた母親の心境とか。
最後、どうなったかを想像に委ねるのは短い作品では良い選択肢だと思います。

発想・1 構成・0 文章・1 恐怖・1

名前: 三面怪人 ¦ 00:39, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


旦那と吉川真美の関係について、もう少し記載があるとよかったですが・・・。
なぜスズメバチがぬいぐるみの電池ボックスにいるのかが良く分かりませんでした。
アイデア 0
文書構成 0
恐怖感  0
描画力 0

名前: ktbk ¦ 15:36, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


吉川真美の人物像が分からない為、周到に計画された罠というよりは、通り魔に襲われたような印象を受けた。吉川が何故、悪意を抱いていたかを読み手の想像力に委ねた、もしくは遺伝させるためにあえて詳しく書かなかったかも知れませんが、全体的に消化不良に感じました。

名前: 水本しげろ ¦ 18:29, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


夫と同僚の関係をもう少し匂わせると作為的な蜂の仕込みがネタバレしてしまうのでこの描き方なのでしょうね。
現実のスズメバチがそううまく相手を刺してくれるのか、そこまで狙っていない嫌がらせのレベルのものがたまたま惨事を引き起こしているのかが分からず、モヤモヤした読後感が残りました。

アイデア  0
文章    1
構成    0
恐怖度    0

名前: 鶴の子 ¦ 02:13, Thursday, Sep 24, 2009 ×


恐怖 2
雰囲気 1
疑問点 −1
育児ノイローゼに陥っていく母親の心理状態も恐ろしければ、善意に偽装した悪意を羊の縫いぐるみに隠して送りつけてきた、吉川という人も恐ろしいと思います。ただ、その吉川真美の人物描写がよく判らないのが、残念な点だと思いました。

名前: 白長須鯨 ¦ 16:54, Monday, Sep 28, 2009 ×


 読んでみるまで長らくこれを『黙れ静かに』だと思い込んでいました。えらい大胆なタイトルだなぁとw。いえいえスミマセン。
 この流れで娘を亡くすことになったら、きっと主人公は育児ノイローゼになっていた自分を責めてしまうんでしょうね。厭ぁなお話でした。

名前: あおいさかな ¦ 20:12, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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