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愛ざれる
 いつもの餓鬼の鳴き声、イヌの遠吠え、学生のダベリ・・・そんな騒音ではなく、何かしら妙な気配を感じて、オレは飛び起きた。
 見知らぬ美女が正座していた。
 四畳半の部屋、壁、天井にも、重力を無視してぎっしりと。
 飛び起きようとしたが体が動かない。金縛りだ。
 美女たちは見た目はバラバラ、全員が茶や黒や灰色の地味な着物を着ていた。
「このような無礼な振る舞い、どうぞご容赦くださいまし」  
 震えた声がした。眼球だけ動かして様子を見る。
 枕元で、一際背の高い美人が額づいていた。
「我々、今日はあなたさまに、御恩返しをしとうて参りました」  
 恩返し?いや、別に何も助けちゃ居ないが。
「我々は皆、貴方様の施しで生きてきたのでございます。 己が生きながらえる食料を、我が子を生み育てる棲家を、提供していただきました」
 どういうことだ。だ、誰だお前らは。
 枕もとの美人が再び頭を下げた。
「申し遅れました。私の本当の姿は、ゴキブリでございます」
 げぇっ、という前に枕元によってくる美女たち。
「私は蝿」「私は蚊です」「蚤です」「挟虫です」「蜘蛛」「紙魚」「」
 俺は失神しそうだった。こ、こんなに虫が居たのか、うちには。
「我々は忌み嫌われ虐げられる存在でございます。己が腹癒せの為に我々を捻り潰し、躊躇いなく毒を撒き散らし微笑む者が殆ど。しかし貴方様は、我々を、生かしてくださった。ほんに心より、感謝しておりまする」
 一同が啜り泣きを始めた。
 いや、別に見逃がしたんじゃなく、疲れてて気が回らなかっただけで…。
「今宵、貴方様の望みを叶えたく、人の姿を取って参りました。夜伽などしとう存じますが… あいにくわれわれの生殖は哺乳類とはまるで別物」
 これには震え上がった。やめてやめて想像させないで!
「ご覧の通り仲間も増えました。これも皆貴方様のおかげ。 どうしても一つ、ご恩返しをしとう存じます。 なにか我々に、願うことはありますまいか」
『ありますまいか!』
 全員が凛とした表情で、こちらを見つめてきた。
 よく見ると全員、複眼だ。中に写るたくさんの俺の顔。
「え、えーと、ええい!もういい!ぐっすり眠らせてくれ!」
「かしこまりました。それでは、ご機嫌麗しゅう」
 深々と礼をした和服の美女の姿、それが一瞬砂嵐のようにぶれて、崩れた。
 美女を構成していた大量の小さい生命は、羽音と這う音と共に去っていった。
 それから一週間、毎昼夜、俺のマンション付近からは悲鳴が上がり続けた。 
 盛りのついた犬はフィラリアに。
 ばたばた騒いでた上の階の餓鬼はマラリアに。
 学生は玉突き事故を起こした。噂では、メットに隠れてた黒い虫に目玉を齧られたそうだ。
 アパートが近所で「虫屋敷」と怖れられるに至り、俺は遂に安眠を取りもどした。
 以前と代わって静かな夜、甲高い羽音が聞こえたら、布団から腕を出してやる。
 頼もしい同居人たちは増え続け、いまや豆球で照らされた部屋の壁は真っ黒。
 翅の擦れる音を聞きながらオレは熟睡。
 来る秋の、ススキの野原の夢を見た。



01:11, Sunday, Aug 09, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(12) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯


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 こういう設定、嫌いじゃないです。 40が近づいてくると、「虫でも幽霊でもいいから、美人に化けて出てきてくれさえすれば大歓迎!」って�... ... 続きを読む

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» 【−1】愛ざれる [もけもけ もののけから] ×
アイデアは、面白いと思います。ただ、本当に面白い話になっちゃった。もう少し、最初と最後の虫の描写を濃くしても良かったのでは?そ... ... 続きを読む

受信: 14:33, Monday, Aug 10, 2009

» 【+2】愛ざれる [日々、追憶…から] ×
テンポよく進み、読みやすく面白かったな、という印象です。最後の文章などはとても雰囲気があって好みですね。ただ勿体無いことに恐怖縺... ... 続きを読む

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» 【0】愛ざれる [峠の塩入玄米茶屋/2009から] ×
設定は面白い。が、コミカルに仕上がっていて、怪奇譚ではあるが恐怖譚ではない。主人公が「騒音」と感じている事柄を具体例として列挙しても良かったかも。たとえば「夜中だというのに親は何をしているのか、今日も上のガキの泣き声が響いている。向かいの家では盛りの .. ... 続きを読む

受信: 15:50, Monday, Aug 17, 2009

■講評

恐怖度1
文章力1
構成力0
アイデア1
蟲の恩返しとは…。
皮肉にも面白お話ですね。なんか爆笑してしまいました。しかし、相手が蟲となると可愛らしいというより、やはり気持ち悪いものですね。一つのお話として完成度が高いと思います。最期のびっしりと黒い壁で眠る主人公に狂気を感じました。

名前: 妖面美夜 ¦ 03:24, Sunday, Aug 09, 2009 ×


虫の恐怖を描く作品の中で、虫と共存する男を主人公にした作品は珍しかったです。
ただ、ホラーとしてはオチ、およびそこへ持っていく展開が甘いように感じました。
もう少し主人公が常軌を逸していく過程を描ければ、恐怖を煽る文章になったと思うのですが…

名前: もりもっつあん ¦ 03:54, Sunday, Aug 09, 2009 ×


変に丁寧な虫たちのやりとりが面白いですね。楽しめました。
以前と代わって〜以降の終わり方がそれまでの濃さに比べると、やや粗く感じるので、最後まできっちり仕上がっていればもっと良かったかなと思います。

アイデア・1

名前: 気まぐれルート66 ¦ 18:24, Sunday, Aug 09, 2009 ×


惜しいですね。
主人公が、犬とか学生とか餓鬼とかでどれだけ眠りを妨げられていたかをもう少し強調しておけば、オチがもうちょっと活きていたかと思います。
流れと書き方は非常に良いんですけどねぇ…。

名前: PM ¦ 19:55, Monday, Aug 10, 2009 ×


 なかなかブラックユーモアが効いててニヤリとさせられましたね。

 この人のところには恩返しにきたけど私のところには来ない。
 その違いを上手く説明できたらさらに良かったかな。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【ユーモア】+1

名前: ユージーン ¦ 20:51, Wednesday, Aug 12, 2009 ×


来る秋の、ススキの野原の夢を見た。

この一文がすっご――――――く好きです。お話がシンプルなだけに活きてる。

文章―+1
構成―0
恐怖―0

名前: あおいさかな ¦ 15:22, Saturday, Aug 22, 2009 ×


ラスト間際までは普通の青年っぽかった主人公が、すっかり虫に取り込まれてしまったのは怖かったです。「虫屋敷」の住人に近所の人が向ける目はいかなるものか等、想像させられるところがいいですね。恐ろしい部屋の描写の後の、ラストの2行がとても綺麗で素敵です。

*文章+1 *恐怖+1

名前: げんき ¦ 00:05, Monday, Aug 31, 2009 ×


・アイディア−1
 虫の恩返しをネタにしたことは良いと思うのだが、恐怖小説としては、主人公の要望通りのことをして幸福な結末になったら駄目なのではないか。「眠れ静かに」との、題名で絡めていると思しき遺伝の使い方は面白かった。
・描写と構成+1
 冒頭、主人公の安眠を妨げる環境をさらりと、かつ効果的に説明している所は良い。話の流れも、特に無駄がないように思える。文章全体・会話などは、可もなく不可もなく、な印象。+0.5くらいだが、四捨五入。
 細かいこと、「」は書き損じだろうか。etcという意味は無かったかと思うが。
・怖さ−1
 虫屋敷のくだりでホラーな要素は多少あるが、ハッピーエンドなので評価できない。
・買っても後悔しない魅力−1 ラストの室内の光景が異常かつ近隣住民からすれば怖い話なので、±0にするか迷ったが、幸福な結末は求めていないので。

名前: わごん ¦ 21:48, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


恐怖度1
発想1
物語性2
私は昔話の中でも「異類婚姻譚」の類が好きなので、この物語はとても好きな作品のひとつです。害虫と呼ばれる虫たちの心が、人間が通常考える以上に温かい事を語る、優れた物語だと思います。

名前: 白長須鯨 ¦ 19:25, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


なかなか面白いですね。ラスト、虫達と共存している主人公に、ある種の狂気を感じさせる構成が上手い。

名前: 水本しげろ ¦ 20:30, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


やはり最初の騒音被害をより強調しておくと、ラストの眠りももっと生きてくるのだと思う。
でも、せっかく夜伽に来たんだから相手してやればよかったのに……。

アイデア  1
文章    0
構成   −1
恐怖度    0

名前: 鶴の子 ¦ 02:50, Thursday, Sep 24, 2009 ×


目に余る欠点も無く、文章も万全です。足りないとすれば流れと進行への気配り。
他の方の講評にもありましたが、後半を活かす為の工夫が今ひとつでした。

発想・1 構成・-1 文章・1 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 01:02, Friday, Sep 25, 2009 ×


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