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「ぼうず、カブトムシいるか。カブトムシ」。
オレがまだ小学生だった頃だ。確か三年か四年。 夏休み、ばあちゃんちに行ってたときのことだ。 裏山で夢中になってカブトムシを探してたオレに、そのおっさんが声を掛けてきたんだ。
「え、いるよ! 欲しい! オス!」。 山の中で、突然背後に現れたおっさんを怪しいなんて思わなかった。それくらいカブトムシくれるって言葉が魅力的だったんだ。 なんたって土地の子供と違って、オレはずっとただの一匹も取れなかったんだからな。
「よしよし。オスか。オスが人気だな」。 おっさんはそう言って、ニヤッと笑った。 オレもつられて笑ったことを覚えている。
と、おっさんが長く垂れてた前髪を、ふぃっとかきあげて、そのまま顔を俺に近付けてきた。
「さぁ、ちょうどオスが入ってる。取りな」。
おっさんの右目、いや、右目の穴には見事なオスのカブトムシが縦に収まっていた。太い角がオレをまっすぐに指していた。おっさんの眼の縁にかぎ爪状の手をちょこんと乗せてるのが、媚びてるような可愛らしさを場違いにも感じさせていて、それをはっきりと覚えている。 悲鳴をあげそうになったけど、これは大人のイタズラかもしれないって思って、ここで怖がると負けかもしれないって必死で口を閉じた。 あのカブトムシは作りものだ。きっとそうだ。 眼鏡かなんかみたいになっていてきっときっと。
「どうした、ぼうす。立派なオスだぞ」。 おっさんの左目が、ぎょろりとオレを見た。 見たと思った。 違った。 おっさんの左の眼窩に収まっていたものは、丸まってぎっちりと詰まっていたそれは、カブトムシの幼虫だった。そいつが穴の中でぐるりと身悶えたんだ。
今度こそオレは間違いなく悲鳴を上げて、一目散に山を走り下りた。ばあちゃんや、母ちゃんにその話はしたかどうかは覚えていない。 なんで20年以上前のこと、今夜に限って思い出したかも判らない。
なんであんたにこんな話してるかも判らないよ。 なんでばあちゃんちの裏山に、今、オレがいるのかとか、さっぱり判らない。ばあちゃんはあれからすぐに死んだ。あれからオレがここに来ることはなかった。だから判らない。なんで今。
あんたの前髪をかきあげると、あのときの幼虫が立派なカブトムシになってるのかとか。 いや、判らない。 判らない。
ああ、この穴の中はすごく気持ちがいいな。 暖かくて柔らかい。 懐かしいにおいがするし。
それ以外はもう、判りたくないな。 おやすみ。おっさん。
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受信: 20:16, Tuesday, Sep 15, 2009
■講評
恐怖度1 文章力0 構成力0 アイデア0 目の中にカブト虫の幼虫っていうのがゾッとして大変良かったのですが。 おばあちゃんが亡くなったのも不明なら、ラストの意味不明…。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 00:32, Wednesday, Aug 12, 2009 ×
なるほど。 兜虫と少年でひとつって感じですね。 おっさんが実に気味悪くてすばらしいです(笑)。
誰に話しているのかってのがもうちょっとはっきりしない。 もちろん、そこに意図的に罠を仕掛けているのはわかるんだけど、罠の意図がもうちょっと絞り込めていない。 物語が大きな循環になっているのなら独り言で無ければいけないし、誰かに話しかけているならその人が循環に引き込まれていなければいけないし、おっさんに話しかけているのなら、冒頭で「そのおっさん」とはならない。 実にこの部分が最後の読者への引き込みになるので、ここは絞り込んだ方が私は良かったかと思います。 物語の意図が結果的に散漫になってしまったのではないかと。
【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0 |
名前: ユージーン ¦ 21:42, Wednesday, Aug 12, 2009 ×
「なんであんたにこんな話してるかも判らないよ。」の「あんた」は単に読者への呼びかけとも考えられるし、作中のオレが錯乱して喋っているようにも考えられます。 オレの入った穴も同様に何の穴であるかは書かれてないのですが、作品が指し示す以外の穴ではオチらしいオチにはならず、作品が指し示した穴であるならそこまで驚きのオチではなかったです。 作中のオレ以上に読む方も判らない事が多すぎて、読者もやはりこの作品を判ろうと思わない事が案外正しい読み方なのかもしれませんね。 |
名前: 気まぐれルート66 ¦ 00:28, Thursday, Aug 13, 2009 ×
なかなか味がありますね。 思い切った急展開ですが、そらが逆にラストの意味不明さに活きているようにも思えます。 個人的にはこの奇怪さ具合が好みですね。
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名前: PM ¦ 19:46, Sunday, Aug 16, 2009 ×
……? 二回読んだけど状況が理解できません。 穴が暖かくて柔らかい? オッサンの目の穴に指でも突っこんでるってわけでもなさそうだし……。 「それ以外はもう、判りたくないな。」と主人公は言いますが、読者は解りたい。
文章―+1 構成―−1 恐怖―0(前半のオッサン描写で+1、後半の不可解さで−1) |
名前: あおいさかな ¦ 02:13, Saturday, Aug 22, 2009 ×
雰囲気は幻想的なのに、おっさんの映像を想像すると一気に大変な世界へ行きそうになります。 終盤、説明文ぽくなってるのが恐怖を削いだ感じがします。
*おっさんの造形+1 |
名前: げんき ¦ 00:34, Wednesday, Sep 02, 2009 ×
両目カブトのおっさんは単純に気持ち悪くていいですね。 ラストのふんわりした感じは、賛否両論あるみたいですが逆に恐怖を覚えました。 何にも分からず喰われるんでしょうか。 |
名前: もりもっつあん ¦ 00:58, Wednesday, Sep 16, 2009 ×
・アイディア+1 カブトムシがおっさんの目の穴に入っている、その一点のみにおいて。 ・描写と構成−0.5 カブトムシが目の穴に入っている描写は良い。しかし、「ああ、この穴の中はすごく気持ちがいいな。」前後から、面倒臭くなって適当に終わらせているように見える。書いた人間にその気がなかったとしても。シュール系を狙っていたとしても、こういう物ではないと思う。 細かいこと、「どうした、ぼうす。〜」、誤字発見。方言ではないよね? ・怖さ±0 初読時、目の穴にカブトムシが入っている所で「怖っ」(+1)となって、終わり方で「なんだこりゃ」(−1)となった。 ・買っても後悔しない魅力−0.5 前半だけでいい。 |
名前: わごん ¦ 15:38, Thursday, Sep 17, 2009 ×
イメージ先行で書き出されたのでしょうか。 途中から急に、立ち位置が判らなくなりました。それも狙いとは思いますが、読者を補助する一文が欲しかったところです。
発想・1 構成・0 文章・-1 恐怖・0 |
名前: 三面怪人 ¦ 02:32, Friday, Sep 25, 2009 ×
なんだか世間に疲れて、思い出の山で死んでるのかなとも思いましたが、やはりどうもよく分かりませんでした。 居心地のいい穴というのは、やっぱり胎内回帰を思わせるのですが、この場合カブトムシの幼虫にでも回帰したのでしょうかねえ。
アイデア 1 文章 0 構成 −1 恐怖度 0
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名前: 鶴の子 ¦ 08:34, Friday, Sep 25, 2009 ×
カブトムシの幼虫が眼窩に収まっている描写が良いだけに、 ラストの唐突さが勿体無い。 もう少し違った書き方をすれば大化けしたかも知れない作品ではあると思います。 (具体的に何処を? と言われると困りますが)
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名前: 水本しげろ ¦ 22:56, Friday, Sep 25, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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