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バリソンは無限の夢を見る
 ――痛い。
 どこが、と絞れないほど、身体のあちこちが痛い。
 左目は像を結ぶことを許されず、ずたずたに切り刻まれている。
 残された右目も、頭部から滴る血潮のせいでぼやけ、ひりひりと乾く。
 どうにか目を懲らすと、自分の両足が見えた。
 もっとも、鉋掛けを失敗した廃材のようなものを、まだ足と呼べるとすれば、だが。
 更に原形を留めていない足先には、血溜まりが幾重にも重なり層を成している。
 その血溜まりの手前に、深紅のハイヒールが見えた。
 見なくても解る。またあの女だ。
 カツカツと耳障りな音を立ててその足が近づくと同時に、頭部に痛みが走り、強制的に顔を上げさせられる。
「なんだ、生きてるじゃない」
 ハイヒールやワンピースと同じ、下品な赤い口紅を塗りたくった唇がつり上がる。
 派手な茶髪に派手な化粧、病的に細く白い肢体。
「今日はどうしようかしら。どうして欲しい?」
 女は嘲笑を浮かべながら、俺の口元に耳を寄せる。
 その耳を噛み千切ってやりたいが、その為の歯は一本も残っていない。
 大声で怒鳴りつけてやりたいが、その為の舌も残っていない。
 残された右目で睨みつけることしかできない。
「ずいぶん反抗的ね。昨日、そんな眼をしたせいでどんな目にあったか、もう忘れたの?」
 忘れるものか。
 フードプロセッサーで粉々に砕かれた左手が疼く。
「今日はね、消毒してあげる。止血はしたけど、破傷風とか心配でしょ?」
 そう言いながら、女は右手に持った緑色のラベルが付いた瓶を俺に見せる。
「私って優しいよね。こんなに尽くす女って、今時いないでしょ?」
 女は笑いながら瓶の蓋を開けると、俺の頭上にそれをぶちまけた。
 その途端に、全身を焼き尽くすような激痛が走る。
 咆吼が室内に響く。
「あら、まだそんな声が出せるのね。さすがスピリタス、最高の蒸留酒だわ」
 ラベルを舐め回すように眺めた女は、無造作にその瓶を部屋の隅へ放り投げた。
「これで消毒完了っと。それじゃ、次はどれにしようかな、っと」
 女は楽しげにポーチの中を探る。
「やっぱりこれかなぁ?」
 かしゃっ、という乾いた音がした。
 聞き慣れた開閉音。薄暗い室内に鈍色の光を反射させる細いフォルム。
「ねえ、次は何処を刻まれたい?」
 バタフライナイフをちらつかせながら、女が近づいてくる。

 ――嫌な夢だ。
 首筋に貼り付く汗を、掌で無造作に拭う。
 拭った汗の滴が、左手の掌からこぼれてゆく。
 椅子に座ったまま眠ったせいか、体中が軋む。
 大きく背伸びをし、デスクの上のモニターを見る。
 白黒のモニターには、椅子に縛り付けられた女の姿がある。
 その足元には大きな血溜まりが出来ていて、その血溜まりの中にはあの悪趣味なハイヒールが転がっている。
 もう二度と履くことの出来ないハイヒールは、すっかりその輝きを失っている。
 女はがっくりと項垂れ、微動だにしない。
 だが、きっとまだ生きているだろう。
 新しい楽しみ方は彼女自身が教えてくれた。
 スピリタスは買い置きがある。どうせならフランベでもしてやろうか。
 そして綺麗に焼けた肌を、シュラスコのように削いでやろう。
 後ポケットに手を突っ込むと、ひやりとした感触が指先に触れる。
 ポケットから取り出し、片手で弄ぶ。
 バタフライナイフ――別名・バリソンナイフ。どちらも『蝶』を意味する。
 シャープなフォルムの折りたたみ式ナイフだ。
 軽い振動でグリップが開閉し、研ぎ澄まされたブレードが顔を覗かせる。
 かしゃっ。かしゃっ。
 その鈍色の反射光が、俺の高ぶる心を諫めてくれる。
 あの女もそうなのだろう。
 夢の中の女は、こいつを使って俺をいたぶるのがお気に入りのようだ。
 俺たちは互いに、抜けられない夢を見ている。
 もしかしたら俺たちは、どこかの誰かが紡ぐ夢なのかもしれない。
 ならば、その夢が終わるまで楽しもうじゃないか。
 この無限の悪夢を。



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ああ、これは嫌いじゃないな。文体も好み。展開も面白い。だが、やや物足りなさを感じる。大筋では良いのだが、男の時間と女の時間が交錯する痕跡があっても良いかも。男の意識と女の意識とが入れ替わり、自分の無残な姿を男は女の目で、女は男の目で見ている、とか。 ... 続きを読む

受信: 22:55, Thursday, Sep 17, 2009

■講評

2人の夢が繋がる話はとても面白くなりそうな感じがします。
この無限の悪夢はまだこれからの所で終わっているので、一読者としてはやはりこの続きが見たかったですね。

名前: 気まぐれルート66 ¦ 23:14, Thursday, Aug 13, 2009 ×


恐怖度0
文章力0
構成力0
アイデア0
読んだ時間が悪かったせいか、この世界観がよくわかりませんでした。
無限の悪夢って?雰囲気はあるけれどもう少し先を書いていただきたいものですね。

名前: 妖面美夜 ¦ 04:45, Saturday, Aug 15, 2009 ×


どこが蟲の話なんじゃい!!
と思ったら影の主人公たるバタフライナイフ、ってトコなんですね。なかなか感心しました

文章―1
構成―1
恐怖―0

名前: あおいさかな ¦ 01:46, Saturday, Aug 22, 2009 ×


面白い。こういう悪夢のような世界観は私的に大好きです。
十分に楽しめました。

ただ、今回の「蟲」というテーマをふまえると、ちょっとちがうかなという気がする。バタフライナイフが取ってつけたように出てくるが、文章的にはバタフライナイフである必要性を感じない。包丁でもレーザーメスでも話が成立してしまう。
このホームページの閲覧者も、怪集「蟲」の読者も、まずは「蟲」の話を期待して読みに来ていると思う。
あえて「蟲」を出さない以上は、「蟲」でないのに濃密に「蟲」を感じる作品に仕上げるということが大前提ではないかと思う。

内容的には配点+2なのだが、あえてその点をふまえて配点を低くさせていただいた。

名前: 六条麦茶 ¦ 04:16, Saturday, Aug 22, 2009 ×


 2つの悪夢が背中合せにつながってる訳ですね。
 なかなかおもしろいと思います。

 もうひとつ展開があればなお良かったんじゃないでしょうか。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 22:16, Wednesday, Sep 02, 2009 ×


なるほど。そういう事か。
描写も上手く、なかなか面白い発想かと思います。
ただ、少々物足りなさもありますので、ここまで世界を確立できたのなら、もう一展開欲しいなぁとは思います。

名前: PM ¦ 18:42, Tuesday, Sep 08, 2009 ×


容赦ない残虐描写と、二人の男女の関係性をいろいろと想像させるストーリーがとても素敵でした。作中のバタフライナイフにもなにか裏設定とかありそうな匂いがして、たまらなく妄想を掻き立てられました。

個人的には、あまり残虐な描写は好みではなく、むしろ興を削がれることが多いのですが、この描写に関してはすごくハマりました。怖かったです!

*文章+1 *設定+1
*恐怖+1

名前: げんき ¦ 20:45, Thursday, Sep 10, 2009 ×


なるほど、「バタフライ」ナイフですか。
独立した話としては面白いです。
が、コンセプトからは若干外れていませんか?
無限ループに嵌ったきっかけか、もしくは脱出のどちらかがあれば、残虐描写だけの話に終始しなかったと思います。


コンセプト違い−1
描写+1
構成−1

名前: もりもっつあん ¦ 01:05, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


・アイディア−1
 虫がテーマ、という大前提から外れているように思う。バタフライナイフが出てくるだけでは弱い。申し訳ないが、この時点で私の点の付け方だと−1になる。また、ナイフを軸に蝶と夢を絡めているのかとも思ったが、暗喩に用いる小道具の域を脱しておらず、その際の主役は蝶ではなくバタフライナイフになるので、やはり点は変わらない。
・描写と構成±0
 可もなく不可もなく。よくある展開。
・怖さ±0
 よほどでないと、残虐描写だけでは怖くない。また、主人公が状況を楽しんだまま終わるのもよくない。無限の悪夢としての怖さも薄いかと思う。
・買っても後悔しない魅力−1 虫がテーマの傑作選を買って、虫との関わりの薄い話が載っていたら、損をした気分になると思うので。

名前: わごん ¦ 15:45, Thursday, Sep 17, 2009 ×


冒頭の独白で自分の体の状態を冷静に話しているのですが、これは冷静すぎて現実味がちょっと乏しくなっているように思いました。
結局夢オチの一種なのですが、この段階ではリアルさが大前提だと思うので。
それと無限の悪夢ということですが、体をどんどん削っていくといつかは終わってしまいそうな気が。
リセットされるのでしょうか。


アイデア  1
文章    0
構成   −1
恐怖度    1

名前: 鶴の子 ¦ 09:15, Friday, Sep 25, 2009 ×


二つの世界を繋ぐ切欠が「嫌な夢を見た」だけでは弱いと思います。
読者はそこで一旦、醒めてしまいます。折角、リアルな残虐シーンを描いているのですから、(フードプロセッサーで手を粉々に出来るかどうかは別として)もう少し工夫が必要ではないでしょうか。

発想・1 構成・-1 文章・0 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 13:26, Friday, Sep 25, 2009 ×


なかなか良いと思います。
この2人の存在も誰かが紡ぐ夢なのかもしれない、というラストは、ただの悪夢の連鎖を超えていて秀逸に感じた。
ただ、虫の使い方はかなり厳しいと思います。
バタフライナイフを「蝶」として使うなら、もっと作中で存在感を持たせて欲しかった。-1

名前: 水本しげろ ¦ 19:53, Saturday, Sep 26, 2009 ×


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