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ニュースの真相
「止められない?サラリーマン連鎖自殺の真相」
「惨劇!イケメン社長(46)の残虐殺害現場」
「相次ぐ蒸発〜欲求不満妻が家庭から消えるとき」
毒々しい見出しが並ぶ中吊り広告。 全く、この国のモラルは一体どうしちまったんだ! と憤慨する権利は、オレにはもう一片もない。

実は昨日、妻を庭に埋めた。
結婚して5年め。妻が変りだした。
深夜帰宅するたびに少しづつ、ほんの少しづつ、太っていったのだ。
よく気がつくところが魅力だったが、自分の体型には頓着しないらしい。
いや、それどころか太っていくことを喜んでいる気配すらあった。
もともと痩せていたし、まあ、いいかと軽んじたのが大間違い。
皮下脂肪が溜まっていくに連れ、徐々に生活さえも常軌を逸しだしたのだ。
朝。始発に乗るために目覚めると妻は猛然と食事を取っている。
朝食は準備されているが、猛然と食事をする妻を見ると食欲が失せる。
レタス丸々一玉に齧り付く妻を横目に家を出て会社へ。
残業、付き合いを経て千鳥足で帰宅は深夜1時ごろ。
鍵を開けると聞こえる咀嚼の音。
袋から出したままの乾燥麺を貪り食う妻を前に、無言で茶漬けを流し込む。
テーブルの上の食料が無くなると、妻はシャワーを浴び、家事をし、床に就く。
ここ数ヶ月、物を食う妻しか見ていない。
問い詰めても、冗談を言っても、懇願しても空返事ばかり。もはや女ではなく、血液や内臓や脳味噌まで脂肪に漬かった肉の塊だった。 今更オレ一人で家事が出来るはずもなく、再婚できる相手もいない。
なし崩し的に家事ができることだけを認めて、暮らしていかざるを得なかった。

が、疲れ果てて帰宅した昨晩。
食べ差しのピザに突っ伏し、チーズまみれで幸せそうな寝顔を晒す妻の姿を見て、オレの中で何かが壊れた。 気がつくと鉄アレイを握っていて、妻の呼吸は止まっていた。

庭に妻を埋めて眠り、普段どおりに出社し、普段どおりに退社した。
あれだけの大事を起こしながら普通に暮らせることに我ながら驚いた。
妻の存在はもはや、そこまで軽いものとなっていたのだろう。
オレはコンビニで夕食を買って帰宅し、リビングの電気を付けた。
妻が居た。
腰を抜かしたオレに嫣然と微笑みかけた妻はほっそりと痩せていた。
出逢った頃のように、いや、出逢った頃よりずっと、顔もスタイルも美しくなり、高貴なオーラさえ溢れている。
ぶかぶかのTシャツにジーンズ姿、手には半透明の袋を提げていた。
「お、お前は死んだんだ」上ずった声が出た。
「南無」
「ちょっと、落ち着きなさいよね」
妻は白い歯を見せて苦笑した。
「私はお礼を言いたいの。あなたのおかげで『羽化』できたから」
「羽化?」
「こうゆうこと」
妻が掲げた半透明の袋を観察し、私は再び金切り声をあげた。
中身のない人の皮膚だった。
「実は貴方にはナイショでね、すごい薬を手に入れたのよ。『羽化丸』っていう、秘伝の丸薬。服用すると昆虫みたいに、醜い姿から脱皮して、綺麗になれる薬なの」
「人間が脱皮?そんなこと、あるわけない」
「現に出来てるんだから仕方ないでしょ。ただ変身のために、どうしても栄養が必要だったの」
「…それで、あんな量の食事を?」
「ええ、大変だったわよ! 説明書お勧めのエサを食べれば、もっと早く成長できたんだけど」
「お勧めのエサ?」
「人間のオスよ」
唐突にフラッシュバックする今朝の中吊り広告。
『惨劇!』『残虐殺害現場!』
「そんなに怯えなくてもいいじゃない」
部屋の隅へ飛び退き小便を漏らした私に、妻が頬を膨らませる。
「オレを喰うつもりか」
「もう脱皮したんだから意味ないわよ。 貴方には感謝してるの。最終的に土に埋まらないと、脱皮できなかったから。 うっかり地上でさなぎになっちゃったときはホント、どうしようかと…」
快活に喋る妻に、年甲斐もなく熱い気持ちがこみ上げてくる。 美しくなるために、こんな努力をしていたなんて。
その姿を、わたしに見せてくれるなんて。
一段と磨かれた、かつて恋焦がれた女神の姿。
私は初恋の頃のようにどきまぎと、妻に問いかけた。
「どうしてオレを喰わなかったんだい。 埋めた恩があるからか」
「それもあるけれど、一番の理由は別ね。 説明書には『魅力的な人間のオス』って書いてあったのよ。あなたって、身長もルックスもセックスもユーモアも人望も優しさも体臭も髪型も実績も地位も名誉も将来性も、何一つ人より優れたトコロないんだもの。食べても吸収できないなあ、って。それだけ。綺麗になって賢くなって分かったけど、あなたってほんっと、何にもないわね。  いままでも、いまも、いまからもきっと絶対、何っにもないわ。間違いなく。  あ、無駄よ無駄。『羽化丸』は女性しか使えないのよ。  そんなことよりこれ、離婚届。サインしてもらえる?」
妻は最高級のスマイルで微笑んだ。

全く、この国のモラルはどうなってるんだ!
と憤慨する権利など、オレには全くないらしい。爪に残った朱肉のインクを眺めていたら、電車がやってきた。俺は短い脚で助走をつけ線路に身を躍らせた。
せめて、新たな三面記事の材料になったら、報われるなあ。


02:55, Wednesday, Aug 19, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(15) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯


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発想は面白い。展開もなかなか興味を惹かれたが、若干妻が饒舌な気がした。ちょっと引っ掛かったのは、「最終的には土に埋まらないと脱皮出来ない」という所。この場合、内緒で薬を飲むのは良いが、一人でどうやって土に埋まるつもりなのかと。結局土に埋めてくれる協力者 ... 続きを読む

受信: 00:53, Wednesday, Sep 23, 2009

■講評

爪に残った朱肉のインクを眺めていたら、電車がやってきた。

この文章いいですね。何かを見て思い出すさりげなさが出ていて気に入りました。
作品自体も手が込んでいて工夫があったんですが、いけてない作中の俺に比べると妻の書き方がちょっと薄っぺらいかなと思いました。
結末でべらべらと喋り出すと推理する楽しみもなくなってしまうので、妻にはもうちょっとだけ言葉少なにしてほしかったかなと感じました。
この作品の場合、その作者の方ならではの持ち味が俺の語りに出かかってるのに、定型的な妻の登場で打ち消されたのがとても勿体なかったです。気取らない自然体の書き方で作品全体を通して書かれていたら、もっと良かったかなとも思います。

アイデア・1

名前: 気まぐれルート66 ¦ 14:47, Wednesday, Aug 19, 2009 ×


ブラックジョーク度1
文章力0
構成力0
アイデア0
なかなか面白く読ませていただきました。夫婦と結婚生活って怪奇がいっぱいなんですね。最後の自殺は予定調和的ですがお話としてはうまくまとまっていると思います。

名前: 妖面美夜 ¦ 21:18, Thursday, Aug 20, 2009 ×


文章から生々しい時間が感じられないなぁ。
例)「部屋の隅へ飛び退き小便を漏らした私に、妻が頬を膨らませる。」
  「唐突にフラッシュバックする今朝の中吊り広告。 」
これは行動と感情の隙間をうまく埋められてないからだと思います。「小便を漏らす」とあっても、自分が漏らしていることに気付いてから(あるいは「やべぇ漏れる」と思ってから)漏れ切るまでの間には数秒の時間があるじゃないですか。その時の主人公の体感とか、妻の表情の変化とか、そういうのが一文あるだけで、かなり印象が変わるはずです。あるいは「小便を漏らしながら広告のことを思い出す」方向で纏めちゃってもいい。そういうことができたら「お話」は「小説」まで昇華できる――んじゃないかなぁ……と思います。

文章―−1
怖さ―0
構成―0
大食い描写―+1

名前: あおいさかな ¦ 01:24, Friday, Aug 21, 2009 ×


 おもしろいね。実に。
 変に無理をしないで奥さんが逃げて終わりって所が。
 みんなが食われてるのに主人公だけが食われないってところがこの物語を完成させてるんだよね。

 でも、できる事なら、主人公は死なないで欲しかった。
 その方がみじめで笑えて、このお話にはふさわしかったと思う。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 23:28, Wednesday, Sep 02, 2009 ×


なるほど。
ちょっと展開に無理矢理感がありますが、なかなか意外で面白かったです。
脱皮後の妻が妙に説明的なのが気になるので、そこだけもうちょっと自然に、こう主人公が説明書読んじゃうとか、そんな感じになんとか運べたらなぁと思いました。


名前: PM ¦ 19:16, Tuesday, Sep 08, 2009 ×


主人公の男の悲哀さがユーモラスに描写されていて、そこがまたこのお話の救いのなさを強調していて面白かったです。
羽化するまでの奥さんの描写がすさまじく、とてもリアルで素敵です。反対に羽化後の奥さんの魅力はあまり伝わってきませんでした。(個人的な好みかもしれません)

*描写+1 *構成+1

名前: げんき ¦ 23:57, Thursday, Sep 10, 2009 ×


ストーリーはちゃんとまとまっており、面白かったです。
ただ主人公が自殺に追いやられるまでの逃げ場のない切羽詰った感じがもう少しあるとよかったかも。これだけだとなぜに自殺までしてしまうんだろう・・・という感じが残ってしまいました。

アイデア +1

名前: ktbk ¦ 21:33, Saturday, Sep 12, 2009 ×


とりあえず、一人称がぐちゃぐちゃです。ちゃんと推敲しましょう。
「喰われない」パターンの絶望は斬新ですね。後半に若干の説明臭さがありますが、夫の立場になったら僕も人生に迷うと思います。

文章−1
アイデア+1
構成+1

名前: もりもっつあん ¦ 01:36, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


 1.5点を四捨五入
・アイディア+1
 羽化丸が独創的だと思ったので。ニュースの真相、という部分は普通に思った。
・描写と構成+0.5
 描写、太っていく妻の描写に嫌な力があると思う。チーズまみれの寝顔など。これは誉めざるを得ない。そして、美しくなった妻への描写がそんなでもない所に、勝手に悲哀を感じた。それら以外の部分は、普通かそれ以下に感じる。構成、可もなく不可もなく。
・怖さ±0
 妻帯者なら怖いのだろうか。私にはいまいち。
・買っても後悔しない魅力±0 それほど欲しくはないのだが、高い合計点に。笑い話要素が強いのは難かと思う。

名前: わごん ¦ 02:52, Friday, Sep 18, 2009 ×


視点も文体も設定も、芯がぶれてます。種明かしを奥さんの饒舌にだけ頼るのも些か工夫が足りないのでは。
終わらせ方は良いと思います。

発想・0 構成・-1 文章・-1 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 15:05, Friday, Sep 25, 2009 ×


もし「羽化丸」が現実にあったら、大抵の家庭がこうなっちゃうんでしょうね。
そういう説得力はありました。

アイデア   1
文章     0
構成     0
恐怖度     0


名前: 鶴の子 ¦ 04:51, Saturday, Sep 26, 2009 ×


恐怖 1
ユーモア 2
脱皮する為の食料とさえ見なされず、あっさりと離婚という普通の方法で捨てられてしまう主人公の姿に、ブラックユーモア的な面白さを感じました。彼が「自分には何の魅力も無い」と悟ってしまうことこそ、この物語の「絶望」なのではないかと感じます。

名前: 白長須鯨 ¦ 17:02, Saturday, Sep 26, 2009 ×


発想+1 文章0 構成0 恐怖0
どこか滑稽な主人公のキャラクターが味があっていいですね。
最後の妻のセリフはもう少し短くしたほうが綺麗にまとまったかなと思います。
自殺すればスパッと終わらせやすいとは思うんですが、もっと主人公の滑稽さやみじめさが際立つような結末を捻出して頂きたかったです。

名前: 戯作三昧 ¦ 14:37, Sunday, Sep 27, 2009 ×


土に埋めなければならなかった、というのはやや苦しい展開ですが、『羽化丸』のアイデアはなかなか独創的で面白かったです。
ラストの主人公の情けなさに悲哀を感じました。

名前: 水本しげろ ¦ 22:22, Sunday, Sep 27, 2009 ×


面白かったです。
前半の展開から後半の持って行き方はなかなかなもので。
ただ、これは自分のこだわりで、架空の魔法の薬ではなく、実在の何かを小道具に使ってこの展開に持ち込めたら完璧でした。
そもそも妻、なぜそれなら結婚した?と僅かながらの突っ込みも。

名前: 籠 三蔵 ¦ 22:01, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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