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それは舞い踊る翅のように
 遠くから、ひぐらしの鳴く寂しげな声が微かに聞こえてくる。
 すだれ越しに、夕日が室内を照らす。
 茜色に照らされた文机に向かい、私は万年筆を手にする。
 黒地に蒔絵で施された銀色の蝶が映える、愛用の万年筆だ。
 原稿用紙に大きく題名を刻む。
 駆け出しの頃、枠をはみ出す題字を書くのが恥ずかしく、尻すぼみな字ばかりを書いていたのを、ふと思い出す。
 その頃、先輩の女流作家からプレゼントされたのがこの万年筆だ。
「作家というスタイルを自分で演出するのよ。なりきってしまえば何て事ないわ」
 自信満々の彼女に私は、そんなにうまくいくものなんでしょうかと訪ねた。
「私もそうしているもの。これ、私とお揃いよ。私は金の蝶、あなたは銀の蝶。あなたがいっぱしの作家になった時に、改めて金の蝶を送るわね」
 そう言って笑っていた彼女は数年前に鬼籍に入った。
 ひとり残された私は、それからもずっと作家を演じている。
 用紙をめくると次々に物語が溢れ出してくる。
 人物は生き生きと動き、それぞれの生活スタイルを交錯させながら物語を紡いでいく。
 喜び、怒り、泣き、楽しむ。
 その中で事件が起こり、当たり前の物語が歪み始める。
 歪めているのは他ならぬ、私自身だ。
 筆を持つ私は、物語の行く末を握っている。
 どの人物を殺し、どの人物に疑いをかけ、どの人物が解決に導くか。
 私が原稿用紙に記す次の言葉ひとつで、物語が壊れてしまう可能性もある。
 慎重に、かつ大胆に。
 私は筆を踊らせる。

 気づくと、室内は闇夜に包まれていた。
 原稿を書き上げ、そのまま眠ってしまったらしい。
 朦朧とする頭を上げてデスクスタンドのスイッチを入れると、書き上げた原稿を見直す。
 この時は作家という仮面を外し、私は只の読者になる。
 一字一句を確認しながら、物語の展開と登場人物の心理に心を躍らせる。
 伏線の処理、じわじわと追い詰められる主人公、そして迎える大詰めと大団円。
 読み終えた原稿用紙をそっと文机の上に戻すと、ふぅと溜息をつく。
 ようやく満足のいく話が出来た。
 畳みに寝転がり天井を見上げる。
 そこに、小さな光点が漂っているのが見えた。
 親指の先端くらいの小さな金色の蝶がひらひらと、金色の鱗粉を撒きながら円を描くように漂っている。
 はっとして起き上がり、文机の上を見る。
 原稿用紙がぱらぱらと風にめくられ、そこに書かれていた文字が用紙を離れてふわふわと舞い上がる。
 全てのページから解き放たれた文字は、金色の蝶の後に続いて舞う。
 部屋を何周かした蝶はそれらの文字を連れて、窓の外へと飛び去っていった。

 ああ、また彼女に持って行かれてしまった。

 真っ白の原稿用紙の上で、銀色の蝶は寂しげに輝いていた。



08:09, Thursday, Aug 20, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(16) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯


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» 【+2】それは舞い踊る翅のように [せんべい猫のユグドラシルから] ×
 ラストのビジュアルを描くためだけに紡がれた話のように思います。 怖さと言うよりはもの悲しさが強いです。 銀の蝶は一緒に飛びたい�... ... 続きを読む

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» 【+3】それは舞い踊る翅のように [日々、追憶…から] ×
あぁ、綺麗で雰囲気のある作品ですね。好みです。哀愁というかもの哀しさを感じました。恐怖こそ無かったものの、これはこれで良い雰囲豌... ... 続きを読む

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» 【+3】それは舞い踊る翅のように [もけもけ もののけから] ×
なるほどねぇ〜。雰囲気たっぷりに書かれています。文字が用紙(巻物や紙)から離れて舞い上がる、という描写は結構使われているもので縺... ... 続きを読む

受信: 21:49, Tuesday, Aug 25, 2009

» 【+2】それは舞い踊る翅のように [峠の塩入玄米茶屋/2009から] ×
幻想的な情景を綺麗に描いている。恐怖というよりは不思議な雰囲気の漂う作品である。文字が紙を離れて去っていく事自体は、どこかで見た事があるような展開だが、高い文章力で仕上げられているため全編通して安定感がある。個人的にこの世界観はど真ん中に好みである。こ ... 続きを読む

受信: 00:55, Wednesday, Sep 23, 2009

■講評

昨年の遺伝記「闇に背を向けて」でも出てきたメタフィクションですね。
こちらの「それは舞い踊る翅のように」では先輩の女流作家が鬼籍に入り、その分身と思われる蝶を使った仕掛けに工夫を感じました。むやみに大風呂敷を用意しなくてもここまで出来る見本のような作品ですね。無駄のない文章も良かったと思います。

良く分からなかったのは蝶の姿=死後の化身という解釈で読むのが本来は正しかったのでしょうか?
この解釈で読んでいくと最後が銀色の蝶ではシックスセンスとなり、死してもなお作中の私が作家を演じている話ではという気がしてきます。
ここまで考えてやっと「それは舞い踊る翅のように」の面白さが成立するのかもしれませんが、そうなるとちょっと仕掛けすぎかなあと思わないでもなかったです。
ただ、「真っ白の原稿用紙の上で、銀色の蝶は寂しげに輝いていた。」を見ると、死んだ私が自らの化身である銀色の蝶を眺めるのは少し変に受け取れるので、生死関係なく単に蝶がそれぞれの象徴であると考えるのが妥当かもしれません。もしそうであるなら、構成としては凝ってはいるけど案外普通のようにも思います。

つまりは分身である蝶が片方は生者(に見える書かれ方がされている)のものであり、片方は死者のものであるために、蝶のルールが定かではなく、どっちつかずな感覚を受けるのではないかと思います。
「作家というスタイルを自分で演出するのよ」が最近話題の女流作家の件をモチーフにされたかどうかは定かではありませんが、作中の私に対しては、演じるのはやめにして本音で突破し、先輩を打ち負かすくらいの兆しが見たかったですね。

アイデア・1

名前: 気まぐれルート66 ¦ 15:06, Thursday, Aug 20, 2009 ×


恐怖度0
文章力0
構成力0
アイデア1
虚無な感じは伝わってくるのですが、恐怖感が伝わらない。
作家の書けない苦しみとか哀愁をドロドロとしつこく書いたほうが良かったと思います。万年筆モチーフは面白いですね。

名前: 妖面美夜 ¦ 21:20, Thursday, Aug 20, 2009 ×


……!?
せっかく苦労して書いた文章が飛んでってなくなっちゃうんですか!?
それは怖い! マジで怖い! 勘弁してください!

美しいですね。「虚無感から来る美」というものの表現がなかなかだと思います。
ただ「ようやく満足のいく話が出来た。」という境地に私自身立てたことがナイので
ここがどうしても引っかかってしまって……(個人的な話で申し訳ありません)。

私見ですが、この語り口から連想される主人公の「作家像」がどうしても仙川環になってしまうw。

怖さ―0
文章―1
構成―0


名前: あおいさかな ¦ 01:02, Friday, Aug 21, 2009 ×


決して怖くないけれど引き込まれる物語でした。
この文章力で恐怖譚を書いて欲しいです。

恐怖 −1
文章力 +1

名前: もりもっつあん ¦ 11:49, Tuesday, Aug 25, 2009 ×


 雰囲気があっていいですねえ。
 勉強になりました。

 でも、いい作品ができるたびに先輩に持っていかれちゃお手上げだね(笑)。
 冗談はともかく、おもしろかったです。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【センチメンタル度】+1

名前: ユージーン ¦ 23:39, Wednesday, Sep 02, 2009 ×


なんだか妙に綺麗な情景が浮かびます。
雰囲気もあって、文章も巧みなのですが、恐怖感が薄いのも否めませんね。
そりゃまあ、折角書いた文章持ってかれたら、イヤですけどね…。

名前: PM ¦ 19:20, Tuesday, Sep 08, 2009 ×


幽玄、夢幻、そんな言葉がぴったりな本当に美しいお話ですね。読後感は「うっとり」の一言です。読み進めながら、自然に映像が頭に浮かんできました。

*文章+1 *描写+1
*雰囲気+1 *恐怖−1

名前: げんき ¦ 00:06, Friday, Sep 11, 2009 ×


・アイディア+1
 書かれていること全体が、幻想的で良いと思う。ただ、書かれていた文字が独りでに動き出すというのは、漫画だとよくある表現(例:講談社「xxxHOLiC」7巻)なので、斬新ではないと思う。
・描写と構成+1
 流れるような文章というのだろうか。内容の是非はともかく、上手いと思った。
・怖さ−1
 怖がらせようとした結果、力及ばず怖くなくなっている作品とは違って、この作品は最初から怖がらせることを放棄しているように思える。
・買っても後悔しない魅力±0
 どうも文章の雰囲気に誤魔化されているようで、この作品を恐怖小説として誉めるのは釈然としない。雰囲気については「描写と構成」で加点したので。また、物書き業を美化している感じが、少し鼻についた。

名前: わごん ¦ 15:30, Friday, Sep 18, 2009 ×


読むだけで気持ちが洗われるような文章でした。恐怖というよりは幻想小説ですが、ここまで情景を描ききった作者の力量に拍手をおくりたいです。

発想・0 構成・1 文章・1 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 15:13, Friday, Sep 25, 2009 ×


作品を持って行かれるのは、かなりイヤなのですが、作中の作家さんがあまり艱難辛苦して書いてないので、それが肝心なところで切迫感を生んでいないのだと思います。渾身の一作だと言うことを強調すべきだったのでは。
逆に、スラスラと作中人物を操り、流麗に文章を紡ぎ出す様はうまく書けており、嫉妬を覚えるほどでした(笑)


アイデア   1
文章     1
構成    −1
恐怖度     0


名前: 鶴の子 ¦ 05:02, Saturday, Sep 26, 2009 ×


発想0 文章+1 構成0 恐怖0
「あなたがいっぱしの作家になった時に、改めて金の蝶を送るわね」
というのは後輩を潰すと宣言していた訳ですね。
こういう幻想的な雰囲気を前面に出す話には正直抵抗がありますが、実は嫌な話、というのがいいです。

名前: 戯作三昧 ¦ 09:58, Saturday, Sep 26, 2009 ×


恐怖 1
雰囲気 2
物悲しく、綺麗な物語だと思います。書き上げた物語が持っていかれてしまうのは困りますが、それは金の蝶の姿をした先輩の魂が、その作品を認めたからと考えればいいのでしょうか。もしそうなら、とても神秘性を含んだ物語だと感じました。

名前: 白長須鯨 ¦ 16:54, Saturday, Sep 26, 2009 ×


美しく幻想的な話ですね。
もし自分がこの蝶のアイデアで話を作っていたら、スランプの先輩作家にアイデアを
持っていかれるドロドロした話になっていたと思います。(笑)

名前: 水本しげろ ¦ 22:35, Sunday, Sep 27, 2009 ×


文章1 雰囲気2

ビジュアル重視の文章ですが破綻もわざとらしさもなく、はっきり言って好みの雰囲気を持つ文章です。

雰囲気のある文章を書く人は好きです。
コレばっかりは鍛錬で身につく物でもないと思うので、
誇るべき才能、長所だと思います。

また読ませてください。
楽しみにしております。

名前: ほおづき ¦ 21:40, Monday, Sep 28, 2009 ×


綺麗ですね。
恐怖はなく、不可思議だけなものですが、情感よく纏めてある事に驚きます。
マイナスポイントは感じなかったものの、プラスのガッツン!も今ひとつでしたのでこの評価でお願いいたします。

名前: 籠 三蔵 ¦ 21:54, Thursday, Oct 01, 2009 ×


余韻が美しいです。
どことなく星新一の世界に近いようなそうでないような・・・。
文字が蝶になるという表現の難しさを描ききれていて○です。

名前: 六条麦茶 ¦ 22:58, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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