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喧噪
仕方なく、天井からぶら下がっている首つり死体を抱きかかえ、そっと床に下ろした。
絶命時に漏らしたであろう汚液がパシャンと跳ねて、仕事でくたびれたスーツを汚した。

なんだってわざわざ俺の部屋で・・・。
完全に瞳孔が開いている。口元に手のひらを乗せた後、ぴくりとも動かないまぶたを指でなぞる。
ふぅ、と、小さなため息がこぼれる。
遺書らしきものが机の上にあるが、読む気はしない。書いてある内容はおそらく昨日全て聞いたから。
汚臭とわずかな腐臭。蒸しかえるような暑さ。窓の外からは狂ったように赤く照りつける夕暮れと、脳を沸騰させるような不和響音。
蝉の鳴き声って、こんなに大きかったっけ。

『カナカナカナカナ・・・』

ひぐらしの鳴き声だ。子供のころはカナカナ蝉って言っていたな。
加奈・・・小さい頃はカナカナ蝉の鳴き声を聞くたびに「私のことを呼んでいる」って喜んでいたね。
中学の頃はカナカナ蝉の話題を振ると、「ただの鳴き声だろ、バカ」なんて少し怒り気味に顔をそむけたっけ。

『ニイニイニイニイ・・・』

ニイニイ蝉の鳴き声もする。加奈は僕の事を「にい」とか「おにい」って呼んでたよね。
年が少し離れているからって、いつも甘えたりすねたりばかり。正直、面倒だなと思うこともあったよ。
でも、世界にたったひとりの妹だから、俺はずっと加奈の幸せばかり考えていたつもりだったんだ。

それなのに・・・。
酔った勢いで手を回してきたのは加奈からじゃないか。やっぱりダメって、そこまで本気にさせといて、酔った男が止まるわけないってことくらいわかるだろう。
でも、俺は昔から加奈のことが好きだったから。もう抑えていた何かが外れてしまって、それから何度も関係を持ってしまったね。
加奈はいつも終わってから、笑ったような泣いたような顔で「にい、これで最後だからね」って言うから、いつも罪悪感と寂しさで胸がキリキリと痛んだんだ。


でも、産むってどういう事だよ。兄と妹だぜ?親になんていうんだ。絶対無理。ちょっと常識を考えろって。
どれだけ論理的に説明しても、的外れな「命の尊さ」や「ごまかせばなんとかなる」ということを壊れたテープみたい延々と繰り返すから、思いっきり頬を平手で叩いてしまった。
ごめん、つい。でも仕方ないだろう?冷静になれよ。明日一緒に病院へ行くんだ。必ずだぞ。
そう言い残して俺はアパートを出て、ただ時間を潰すためだけにパチンコをした。
2時間ほどしてアパートに戻ると、加奈はいなかった。

そして今日、いくらかの中絶費用を支払って、ここ何カ月かの背徳と混乱のすべてが解決するはずだった。
わざわざ会社を早退したのに、計算違いもいいところだ。
加奈、まさか誰にも言ってないよな・・・。

『シネシネシネシネ・・・』

よく聞く蝉の鳴き声だ。名前は思い出せない。
夕日が沈みかけ、窓の外が薄暗くなってきた。時間帯によって飛び交う蝉が違うのか、さっきからこの不吉な蝉の鳴き声ばかりが聞こえる。
そういえば加奈は、夜の蝉が嫌いだったけ。なんでだったかな・・・。


(にい、夜中に蝉が出る時は、誰かが殺されているんだよ。知ってた?)

冷や水を浴びせられたように現実に戻った。部屋に籠った熱と悪臭が、一気に五感に溢れ込こんでくる。
とにかく、窓を開けよう。ふわふわとして平衡感覚のない足を引きずるように窓際に近づき、鍵をガシガシと外し、窓を勢いよく開けた。


不意に感じる違和感。


その刹那、首に圧迫を感じた。10本の指が絡みついて、締め付けてくる。ぞっとするほど冷たい肌の感覚。
う あ あ
締め付けられ、唸ることしかできない。息も苦しい。
背中にもじっとりとした重さを感じる。本来動くはずのない何かが、全身で寄りかかってきている。
首筋に長い髪がしなだれてくる。
もし首を動かすことができたとしても絶対に後ろは見たくない。
延々と続く背後からの囁き声。それは情念の籠った呪詛ではなく、全く無機質でリズミカルな喧騒だった。

『シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ・・・』

首が限界まで絞まる。
意識が消える直前、窓を開けた時に感じた違和感を理解した。


蝉なんて一匹も鳴いていなかった。



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受信: 00:59, Wednesday, Sep 23, 2009

■講評

おお。良いんじゃないですか?
何か、あまり私にコメントできるようなことはないので、短文にて失礼します。

文章―+1
構成―+1
恐怖―+1

名前: あおいさかな ¦ 00:12, Saturday, Aug 22, 2009 ×


失礼ながらこの作品は最初、真面目なタイプなのか笑うタイプなのか判断に迷いました。
恐らく真面目っぽい話だと思うんですが、こんな悲しいときに作中の僕はカナカナ→加奈やニイニイ→にいのダジャレのような連想をしていて、ややアンバランスに感じました。
また、僕がこの作品を語るのなら「首に圧迫を感じた。10本の指が絡みついて」をリアルタイムに察知するのは困難かと思います。絞められているこの時点の俺では後ろから(絶対に後ろは見たくない、と書かれているので後方から攻撃されているのでしょう)10本の指が首にあるのを瞬時に見ることはできないでしょうから、指の本数は書かない方が無難だったかと思います。

作中の俺はカナカナ→加奈やニイニイ→にいの連想がすぐ出来るのなら、シネシネの鳴き声ですぐにその意味を連想できないのはちょっと変に感じます。これは先の10本の指と同じで、作者の方はこの作品の結末を知ってて書かれているのですが、作中での俺の感じ方や認識が早まったり遅くなったりと、一人の人物としての実際の行動に作者の方が意識されていないズレがあるように思います。

蝉なんて一匹も鳴いていなかった、といういいオチがあるのですから、もっと作中の俺の心理にもあせらず付き合ってあげてほしかったかなと思いました。

名前: 気まぐれルート66 ¦ 01:54, Saturday, Aug 22, 2009 ×


私的にはこういったドロドロした感じの話は好きです。

SF的な作品が多い中、久しぶりに王道の怪談を読んだ気がする。
特に、オチは怪談らしくあり、秀逸である。

若干、最後の妹(?)の描写が短いように思える。クライマックスなのだから、
もう少し詳しく書いてもよいのではないか。

名前: 六条麦茶 ¦ 03:47, Saturday, Aug 22, 2009 ×


恐怖度1
文章力0
構成力0
アイデア1
近親相姦の悲しさが伝わってきて、それなりに怖かったです。
この主人公が最後どういったラストを迎えるのかおおよそ検討がつきましたが、スタンダードな怪談としては良く出来ていると思います。

名前: 妖面美夜 ¦ 19:46, Monday, Aug 24, 2009 ×


 丁寧に書かれていますね。
 雰囲気があっていいと思います。
 セミの鳴き声の使い方も悪くないんじゃないでしょうか。

 以前に違う作品のところでも書いたんですが、登場人物が2人ではどうしても展開に限界があり、仮にオチをすごく工夫しても、読者は読めたと思ってしまう。
 ここにいかに第3の要素を入れ込んでいくのかがポイントだと思います。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 00:04, Thursday, Sep 03, 2009 ×


ラストの一文に痺れました。
主人公と加奈の、双方の想いのギャップが哀しくてやりきれない読後感を抱きました。主人公、最低だなとは思いましたが、現実に沿って考えればこれが普通の考えになるだろうなとも思いました。どちらにも感情移入はできませんでしたが、二人それぞれの心情を想像させてしんみりと怖いお話だと思います。

*恐怖+1

名前: げんき ¦ 22:13, Monday, Sep 14, 2009 ×


途中から先が読めてしまいますが、なかなか面白かったです。
内容的には結構ドロドロなのですが、妙にあっさりした風味があって、逆にそれが良かったように思えました。


名前: PM ¦ 19:53, Tuesday, Sep 15, 2009 ×


「シネシネ」の時点で結末は見えるのですが、描写の凄まじさで読まされた感じです。
首吊り死体と怨霊のインパクトもさることながら、これだけの事しておいて全然悪びれていない主人公も不気味ですね。

描写 +1
恐怖 +1

名前: もりもっつあん ¦ 01:42, Wednesday, Sep 16, 2009 ×


・アイディア+1
 怪談として、普通に良いと思う。すぱっとしたオチも、ベタながら良い。
・描写と構成+1
 蝉の鳴き声と回想や舞台説明を絡めていく書き方が、興味を引かれ、テンポもあって、良い。文章自体は普通に感じた。+0.5くらいだが、四捨五入。
 初読時、「シネシネ」を蝉の鳴き声と捉えるのは苦しい気もしたが、「よく聞く蝉の鳴き声だ。」が、現実の話ではなく、作中の話(町に死人の声「無機質でリズミカルな喧騒」が溢れている?)だと気づいたので、OK。
・怖さ+1
 王道的な怖さを感じた。ありがちと紙一重ではあるが、そこから評価が脱したのは、文章や見せ方が工夫してあったから。
・買っても後悔しない魅力+1 創作怪談として、シンプルな魅力があると思う。

名前: わごん ¦ 19:18, Friday, Sep 18, 2009 ×


恐怖感が伝わり良く書けた作品でした。欲を言えば個人的にはもう少し妹の自殺後の詳しい描画がされていた方がよかったですが。
近親相姦について、どうしようもない悲しさが表現されている部分が○

表現力 +1
恐怖  +1


名前: ktbk ¦ 10:49, Monday, Sep 21, 2009 ×


ああ、いいんじゃないですかね。別に近親相姦でなくとも良かった気はしますが。最後の切れ味と余韻はなかなかのものです。

発想・0 構成・0 文章・1 恐怖・0

名前: 三面怪人 ¦ 15:22, Friday, Sep 25, 2009 ×


加奈さんが呟いている「シネシネ」が喧噪ってことでしょうか。
雰囲気はあるのですが、どうも主人公の思考の流れに乗れませんでした。

アイデア   0
文章     0
構成    −1
恐怖度     1

名前: 鶴の子 ¦ 06:46, Saturday, Sep 26, 2009 ×


発想ー1 文章+1 構成0 恐怖0
『シネシネシネシネ・・・』がよく聞く蝉の鳴き声だ。というのは腑に落ちません。
セミの鳴き声と好きだったはずの妹の声を間違えるでしょうか。それとも兄の自責の念からくる幻聴だったのでしょうか。
よく聞く、ということは妹の自殺以前にも聞こえていたのでしょうか?
気になって混乱しました。
近親相姦ネタというのも、恐怖を演出するにはお手軽感があってちょっと安易な気がしました。


名前: 戯作三昧 ¦ 09:32, Saturday, Sep 26, 2009 ×


上手くまとまっているし、男の身勝手さもよく書けていると思うが、
ラストの「シネシネ」がどうもベタ過ぎる気がした。
もっとセミの鳴き声らしいものだったら、よかったのだが。

名前: 水本しげろ ¦ 19:24, Wednesday, Sep 30, 2009 ×


ホラーのカテゴリーよりは怪談に近い感じの作品です。しかし、そつなく仕上がっているという印象を受けました。ラストは予定調和といえばそうですが、世界の歴史だけ物語はあるといっても過言ではなく、そのどれかにラストが似通ってしまうのは仕方ないこと。たくさんの作品を読まれている方ほど陥り易い錯覚です。
トータルバランスとしてこの評価でお願いいたします。

名前: 籠 三蔵 ¦ 21:50, Thursday, Oct 01, 2009 ×


死んだ女に首絞められたり、セミがシネシネ・・と鳴いたりしたら怖いです!作者の方はなんて怖いことを考えるのだろう・・と感心しました。

名前: 読書愛好家 ¦ 23:35, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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