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「君は、大罪を犯しタ」
その男は突然、私の研究室に現れた。 完璧なロックをすり抜け、最新鋭のセキュリティさえ作動させず、影から生えたように。 「貴様は誰だ」 「つかいのモノ、と言っておこウ」 抑揚の狂った金属の擦れるような声。 ロングコート、手袋、帽子を深く被り、うつむいた顔は見えない。 ひょろりとした長身から男と判断したが、その実性別もはっきりしない。 「貴様が誰であろうと、研究データは渡さんぞ」 「君は、二つノ、大罪を犯しタ」 怒声を無視して、男がすっ、と、私を指差した。 そこではじめて、私は息を飲んだ。 男の指は長さが滅茶苦茶で、中指の2倍はある人差し指が手袋を突き破っていた。 「まず、君は、我々の同胞の命を愚弄しタ」 「同胞?あんな微生物が?」 男はゆっくりと頷いた。金属が擦れる音がした。
緩歩動物。通称、クマムシ。 私は長年、この生物の研究に携わってきた。 全長1ミリの微生物ながら、代謝を抑え休眠状態に入ることで、乾燥、極低温、放射線、果ては宇宙空間まで耐えることができる神秘の生物。
「君は研究のために、幾多の同胞の命を犠牲にしタナ」 「ふん、その通りかもしれん。だが、とやかく言われる筋合いはないね。 おまえのその同胞とやらは、陸にも海にも山ほどいる。 もっと希少な生物を死なせてる奴こそ裁かれるべきだろうが」 私は相手を恫喝した。怖れることなどなにもない。 この下等生物め。ご丁寧に人間様の形をとりやがって。 見ろよ、出来損ないの体が、崩れかかってるじゃないか。 「…君の、二つ目の罪ハ」 男が顔を上げた。 そこに表情はなかった。目も鼻も口もなかった。 テレビの砂嵐のように、無数の小さな生物が蠢いているだけだった。 「神を、超えてしまったことダ。 君は、作り出したナ。不死の生命ヲ」
私の背後。冷凍庫に入ったシャーレの中。 そこで私の研究成果は、静かに休眠している。 遺伝子改良と交配を繰り返し誕生させた、突然変異体。 各種耐性を限りなく強化し、アキレス腱だった急激な乾燥さえ物ともしない、真の「不死身の生物」
「神は、お怒りダ。生命を愚弄すル、君の愚行ヲ」 蛍光灯の明かりが点滅しだした。男を中心に、陰が広がっていく。 沢山の微生物が男の体から湧き出し溢れ、部屋を埋め尽くしていく。 この非日常の中にあってなお、私には、高笑いする余裕があった。 「私を殺すつもりか。ははは、無駄だ無駄だ。 研究成果のデータは既に!まさに今日!送信が終わったんだ。 不死身の技術はもはや人類全体の財産ってわけだ。ざまあみろ、下等生物ども!」 黒い渦に飲み込まれ、全身を噛まれ刺されながらも、私は哄笑した。 男の姿は完全に崩れ去り、いまや黒い本流にロングコートが漂うのみ。 「神は処遇しタ。人類には罰ヲ。 そして君には更に重い罰を、ト」 耳元で聞こえた囁きは、羽音に似ていた。 瞬間、轟音、目の前が真っ赤に照らされ、私の意識は途絶えた。
今、私は薄暗い闇の中、脚を抱えてうずくまっている。 外部の状況を知る手段はない。が、大体の想像はつく。 意識を失う寸前の爆発…あれはおそらく、核の炎だったのだ。 不死の技術を見つけかけた人類を「神」とやらが力技で抹消した、ということだろう。 そして、私は…。
意識を取り戻してすぐ、『更なる罰』とやらは理解できた。 目が殆ど見えず聴力はなくなっていた。 体は膜に包まれ身動きはとれなかった。 腕がなくなった代わりに、脚が八本あった。 私は研究成果に、不死身のクマムシに、意識を転送させられたのだ。 あれから何百年立ったのだろうか。人類を絶滅させた罪悪感と、永遠に続く孤独感が、身動きできない私を延々と攻め立てる。かといって休眠が終わったところで、一体何ができようか。発声器官も生殖相手も存在しない終わらない命の中で、私の意識だけが永遠に苦しみ嘆き悶え続ける。 いつまでも、いつまでも、いつまでも、いつまでも。
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受信: 20:46, Thursday, Sep 24, 2009
■講評
なるほどって感じですね。
主人公がお仕置きされるのはいいんだけど、その過程をいかに考えるかが問われている訳で、ちょっと安直なんじゃないですかね。 また、お仕置きされて終わりじゃなくて、もうひとひねり欲しい。
【アイデア】0、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0 |
名前: ユージーン ¦ 22:14, Thursday, Sep 03, 2009 ×
恐怖度0 文章力0 構成力0 アイデア1 なるほど、ミイラ取りがミイラになったんですね。 しかし、つかいのモノは一体何者かもう少し正体を明かして欲しかったかなあ。 文章はかっちり書かれていていいのですが、ちょっと難しいのでとっつきにくかったです。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 21:49, Saturday, Sep 05, 2009 ×
遺伝記にも似たような話がありましたね。 巷に溢れている不死の恐怖を描く作品を超えられなかった印象です。 描写が凝ってるわりにアイデアを練り損ねた話に思えます。
描写+1 アイデア-1
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名前: もりもっつあん ¦ 18:18, Wednesday, Sep 16, 2009 ×
昔、なんかの漫画でこんな話を見ましたね。 まあ、展開としては良くあるかなぁという印象でした。 あともう一展開、欲しいところですね。
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名前: PM ¦ 19:15, Wednesday, Sep 16, 2009 ×
・アイディア±0 不死エンドは、とてもよくあると思う。クマムシを使ったことの独自性を鑑みても、どうにも普通。 ・描写と構成±0 可もなく不可もなく。 ・怖さ±0 身動きできない狭い牢に閉じ込められていると、囚人は精神に変調を来して発狂するらしい。そういった怖さがラストから伝わってこないように思う。読者に想像させるための工夫が足りないのではないかと思う。 ・買っても後悔しない魅力−1 似た話が巷に溢れかえっている上、それらの域に達していないように思えるので。 |
名前: わごん ¦ 22:30, Sunday, Sep 20, 2009 ×
>人差し指が手袋を突き破っていた。 >見ろよ、出来損ないの体が、 この二つの部分がすごく印象に残りました。 この正体不明の「男」の得体の知れなさが巧く表現されていて、いいなと思いました。
予想できたオチだったのですが、「いつまでも」が四回続いてるというラスト一文が、私の怖さのツボにハマりました。
*ラスト一文に感じた恐怖+1 |
名前: げんき ¦ 00:25, Tuesday, Sep 22, 2009 ×
発想ー1 文章0 構成0 恐怖ー1 永遠に続く孤独感、怖い筈なんですが、そのあたりの表現をあっさりすませてしまったかなと思います。 |
名前: 戯作三昧 ¦ 06:08, Friday, Sep 25, 2009 ×
恐怖 1 雰囲気 1 アイデア 1 私も、生物の授業で初めてクマムシを見て、その可愛らしいフォルムと驚きの耐久性から大変興味を引かれた存在でしたので、それを物語の中心に取り上げていた事でとても面白く読むことができました。「不死」というものが人間の禁忌である事を織り込んだ点も、意外性には欠けましたが、良かったと思います。 |
名前: 白長須鯨 ¦ 16:56, Friday, Sep 25, 2009 ×
>「まず、君は、我々の同胞の命を愚弄しタ」 「同胞?あんな微生物が?」
この部分がどうしても飲み込めません。申し訳ありませんが、この点数で。 不死の命=永遠の牢獄、という図式もありふれています。 いつか、その図式を越える解釈に出会いたいものです。
発想・-1 構成・-1 文章・-1 恐怖・0 |
名前: 三面怪人 ¦ 20:35, Friday, Sep 25, 2009 ×
オチはよくあるもので特に恐怖を感じませんでしたが、えらくアッサリ切れて人類を滅ぼす神様は何だか怖いですね。
アイデア 0 文章 0 構成 0 恐怖度 1
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名前: 鶴の子 ¦ 05:05, Sunday, Sep 27, 2009 ×
人類を滅ぼさずとも主人公を殺せば済む話のような気が……。 |
名前: あおいさかな ¦ 19:03, Sunday, Sep 27, 2009 ×
こ、これはちょっとどうですかね・・・。 もはやコミックがどうのという以前に、アイデアをとりあえず、どんどんくっつけたのかなという感じがしました。 主人公とつかいのモノだけでは大きな流れもないですし、この作品の設定自体が袋小路になるしかなかったのかな、とも思います。
構成力・−1 |
名前: 気まぐれルート66 ¦ 15:58, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
いや困りました。タイトルとクマムシでラストが読めてしまいます…。暗黒神話の某御大のホラーで、このようなラストもありましたので、私の琴線を動かすまでにはいたりませんでした。 申し訳ありませんがこの評価で。 |
名前: 籠 三蔵 ¦ 20:33, Thursday, Oct 01, 2009 ×
不死身の生物にクマムシを持ってきたところは面白いと思います。 ただ、クマムシだと物語が閉じてしまうので、ここはやはりゴキを持ってきて別の展開にして欲しかった。 不死身のクマムシに脅えて人間を滅ぼしてしまう神のムチャぶりに+1 |
名前: 水本しげろ ¦ 22:34, Thursday, Oct 01, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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