← |
2022年5月 |
→ |
日 |
月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
土 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
|
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
24 |
25 |
26 |
27 |
28 |
29 |
30 |
31 |
|
|
|
|
|
「このやろ!へへ、やってやった」 「蚊か?」 「うんにゃ、蜘蛛」 「ああそう…朝に殺したら祟られるぞ」 「今、午前四時。朝に入るのか、午前四時って」 「どっちだろ、あああ、結局一睡も出来なかったな。 …なあ、蜘蛛で思い出したんだけど」 「うん?」 「先週の晩、前島と二人で巡回だったんだよ」 「マジかよ。あのネクラ生真面目と?そいつはご愁傷様だな」 「…アイツな、噂以上にぶっ壊れてるぜ」 「なんかあったのか」 「一晩中ずっと無言も辛いからさ、俺からぽつぽつ喋りかけてたんだ。 そしたら突然、アイツ猛然とまくし立てだしてさ」 「うへえ、暑苦しい野郎だ。どうせ上への愚痴か自慢話だろ」 「いや、都市伝説」 「都市伝説ぅ?」 「やっこさん失業してた頃、ネット通じてドハマリしたらしい。 いろいろ聞かされたよ。定番の『ミミズバーガー』やらなんやら。 俺でも知ってるような話を、唾飛ばしてずっと講釈してた」 「大分参ってんな、アイツ」 「で、一番熱く語ってたのが、合法ドラッグの話」 「ドラッグ?」 「実に嬉しそうに喋るんだよ、アイツ。 効き目が持続して作用も強い、でも正体は虫の卵なんだよ。 使用者は脳をエサにした幼生を顔中の穴から吹きこぼすんだ、って」 「おいおい…」 「『何言ってんだ、オマエ』って思わず咎めたらさ。 『噂だよ噂、ムキになることないだろ! 僕はそんなオゾマシイ薬、絶対に使わないけどね!』って逆ギレ。 結局交代まで一言も喋らないまんま、それっきり」 「なんだそれ…何だよその話!気持ち悪すぎるだろ前島!」 「だよなあ。俺も最初、耳を疑ったんだ。 『噂だよ噂』ってことは、アイツほんとに知らないんだよな。 上から支給されてる、この薬のこと」 「マジかよ…。 てことは前島は薬物無しで、ここまでやってきたってのか」 「支給されだしたのは2ヶ月前からだろ。 たぶん前島にだけ、情報が流されてないんだよ。 アイツ上にやたら歯向かうから。見せしめもあるんだろ」 「ヤク無しでこの過酷勤務じゃ、頭がイカレるのも当然だな。 でもこんな状況で、部下を切るような真似するか?」 「多分隊長に考えはないし、上層部に連絡も行ってないだろ。 こんな状況だしな。正しい判断の基準なんて誰も持てやしないよ」
塹壕の中に、しばしの沈黙が訪れた。 頭上を通過していく爆音。決戦は目前に迫っている。 日が昇る頃この駐屯地に巨大昆虫の集団がやってくるのだ。
「とにかく俺たちは…戦うだけだ。薬一粒くれよ」 「ああ。コレが最後かもしれないしな」 「あ、くそ、また目の奥から出てきやがった…こいつめ、へへ」 「もう朝だから、潰さないほうがいいな」 「ああ、安らかにいられるのはこいつらのおかげさ。異常者の前島と違ってな」
二人の兵士は穴の中、泥で汚れた顔を見合わせ笑った。 耳や鼻や口や目から、透き通った蜘蛛を無数に吹き零しながら。 目から流れる虫の体は朝日を反射して、二人の涙のように輝いていた。 敵襲を告げるサイレンが鳴る。
|
■講評を書く
■ Trackback Ping URL
外国のスパマーへのトラップです(本物は下のほうを使ってください)
http://www.kaisyu.info/2009/entry-blog/trackback.cgi20090912121748
■トラックバック
この記事へのトラックバックURL(こちらが本物):
http://www.kaisyu.info/2009/entry-blog/blog.cgi/20090912121748
» 【+1】薬と異常者 [せんべい猫のユグドラシルから] × まんまとミスリードにしてやられました。 締めのセンスの良さもいいです。 それだけに、前半の会話のみの状況がちょっとキツいです。... ... 続きを読む
受信: 19:04, Saturday, Sep 12, 2009
» 【+2】薬と異常者 [もけもけ もののけから] × ちょっとトリッキーな印象です。目を眩ませるというか、前半部では焦点を絞らせない。舞台を理解した時に味が出る。こういうトリッキー縺... ... 続きを読む
受信: 22:01, Saturday, Sep 12, 2009
» 【+2】薬と異常者 [日々、追憶…から] × あぁ、なるほど…と。あっさりしているようで、実は奥が深いという印象です。最後の締め方がとても印象的ですね。【アイデア】+1 �... ... 続きを読む
受信: 21:24, Tuesday, Sep 15, 2009
» 【+1】薬と異常者 [峠の塩入玄米茶屋/2009から] × なるほど。前島の方が正常だった訳か。これは巧いミスリードだったな。ただ、会話だけで話が進むのはちょっと辛いというか、読み難かった。でもまあショートとしては上出来の部類ではなかろうか。 発想 0 描写 0 構成 +1 恐怖 0 超ー1 ... 続きを読む
受信: 22:15, Friday, Sep 25, 2009
■講評
おお。巨大昆虫と戦う人類。 なんかこの時期になって、原点回帰しはじめてるって感じがしますね。 一方の「ミミズバーガー」と「蜘蛛」が会話の足しにしかなってないのが惜しいかな。せっかく遺伝元を意外性のある組み合わせ方したんだから、落語の三題噺のように、びっくらするような使い方 をして欲しかったです。
でも、脳をエサにされてちゃ二人とも死んじゃいますよね。「二人の涙のように輝いていた」というのが効いています。
特に新鮮さや驚きのあるものじゃないけど、終わらせ方のセンスに加点。 |
名前: あおいさかな ¦ 18:49, Saturday, Sep 12, 2009 ×
都市伝説を下敷きにしつつ、上手くまとまっていると思います。 「」内での改行は読みづらいですね。 恐怖は感じませんが、オチの雰囲気が余韻を残します。
描写+1 構成+1 文章-1 恐怖-1 |
名前: もりもっつあん ¦ 00:41, Thursday, Sep 17, 2009 ×
なるほど。そうきましたか。 じわりとくる最後が良いですね。 小ネタの部類に入るものかと思いますが、なかなか面白かったと思います。
|
名前: PM ¦ 18:26, Monday, Sep 21, 2009 ×
+3.5を四捨五入 ・アイディア+1 分解して一つ一つの要素にしてしまうと多少ベタだが、諸々ひっくるめて。 ・描写と構成+0.5 描写、冒頭の蚊や蜘蛛による普通の生活感(実は巨大昆虫?)や、都市伝説という嘘臭さ、前島の異常者扱いなど、ミスリーディングの誘い方が上手いと思う。構成、可もなく不可もなく。ショートとしては、少し尺が長いかも、とも思う。 ・怖さ+1 怖さはそこそこだと思ったが、「塹壕の中に、〜」からの絶望感が良い。脳をエサにさせないと正気を保てない、という状況も。欲を言えば、その悲惨な戦争風景などの描写も軽く欲しいと思ったが、蛇足になるか? ・買っても後悔しない魅力+1 こんな大会でもないと読めない話だと思うので。 |
名前: わごん ¦ 06:23, Tuesday, Sep 22, 2009 ×
見事騙されました! 面白かったです! 冒頭の会話から、ネタばれしてるんですね。再読で味わう快感がすごいです。ラストの一分節がとても美しくて、静かな絶望感に浸れました。
*文章+1 *構成+1 *絶望感+1 |
名前: げんき ¦ 00:12, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
発想+1 文章0 構成0 恐怖0 ミスリードを誘うやり方は素直にうまいと思いました。 でも他に惹かれる部分がありませんでした。 |
名前: 戯作三昧 ¦ 06:31, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
恐怖度0 文章力0 構成力0 アイデア0 ヤク情報をまったく同僚に知らせないなんてことあるのかなあ? 最初のちょっとおちゃらけた会話と内容から一応ギャグっぽくは書かれているみたいですが、ちょっと文章的に読み辛かったかな。この感覚はちょっと私的にわからなかったので。 可もなく不可もなくといったところで怖くは無かったです。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 00:55, Thursday, Sep 24, 2009 ×
恐怖 2 雰囲気 1 戦いという極限状態の所為で、恐怖を恐怖として感じられなくなる形の「恐怖」を、気持ち悪さに絡めて上手く描写した作品だと思います。涙のように蜘蛛を吹き零す2人が、とても哀れに思えました。 |
名前: 白長須鯨 ¦ 17:18, Thursday, Sep 24, 2009 ×
なるほど。なかなかおもしろいですね。
駐屯地は塹壕よりも後方にあるでしょうし、塹壕戦でがんばってるのにどこから都市伝説を仕入れてくるのか。 身近な戦場の噂じゃなくて遠い平和な都市のファーストフードショップの話なのか。
まあ、どうでもいいと言えばどうでもいいツッコミですが。
【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0 |
名前: ユージーン ¦ 22:55, Thursday, Sep 24, 2009 ×
冒頭部分を会話だけにしたのは、ミスリードを狙った結果でしょうか。 のべつ幕無しに続く会話というのが、現実にどのくらいあるかと考えると、少し残念な気がします。鳴りっぱなしの音楽よりも、沈黙の方が劇的効果を得る場合がありますからね。
筋立ては巧く仕上がっている作品だと思います。
発想・1 構成・0 文章・-1 恐怖・0 |
名前: 三面怪人 ¦ 13:01, Monday, Sep 28, 2009 ×
なるほど、うまく捻ってありますね。 この状況は思い浮かびませんでした。
アイデア 1 文章 0 構成 1 恐怖度 0
|
名前: 鶴の子 ¦ 19:12, Monday, Sep 28, 2009 ×
この作品と、この後に出てくる「ジュブナイル」は、いま見れば全く同じ構造ですね。 先行作品から「薬と異常者」の話を生み出したのは、なかなかのアイデアでした。 ただオチとしては、まあ、そんなものではないでしょうか・・・。 こういう面白いアイデアが出たのですし、単発ネタではなくて、それを長い話の中で使った作品として読みたかったと思いました。 |
名前: 気まぐれルート66 ¦ 23:23, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
最初のミスリードへの誘導はお見事でした。 どのようになるのかなと思いつつ、一気に「スターシップ・トゥルーパーズ」と「ターミネーター4」という展開で…。 申し訳ありません。 薬の方も某本のお話で読んだのでそこらからラストが逆算出来てしまったのもちょっとでした。 |
名前: 籠 三蔵 ¦ 19:45, Thursday, Oct 01, 2009 ×
件の戦いにおける一場面を見事に切り取ってますね。ただ「朝の蜘蛛は〜」とリンクさせないバージョンが読んでみたいと思ってしまいました。 |
名前: 読書愛好家 ¦ 23:44, Thursday, Oct 01, 2009 ×
|
|
QRコードの中に 潜む実話怪談

|
■■■ ◆◆◆
|