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2023年9月 |
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赤地に金糸の刺繍で双頭の蝿を浮き上がらせた幟が、荒廃した都市の街角で風にはためいている。 湿った舞々風が一際強くなり、ぴんと張り詰めた幟の生地の中で、その蝿がひととき、生き生きと飛翔しているように見えた。 風音に混じるようにして、遠くから蜻蛉の羽音が聞こえた。 低く垂れ込めた灰色の雲の間から、体液循環器で連結され、十二枚羽に大型化された輸送用生体機が重々しく姿を現した。 生体機関部から吊り下げられた籠型客室の側面には、やはり双頭の蝿の紋章が精緻に描かれている。 ダンピリオダ異世界侵略帝国の定紋だった。 巨大な蜻蛉は、かつて人間が作り上げた円柱形をした高層建築物の屋上に、神経質なまでに異様にゆっくりと客室籠を下ろした。 接地の衝撃は皆無だった。 待機していた甲虫兵が、するすると緋色の巻絨毯を広げ、その両端に沿ってずらりと居並んだ。 喇叭兵が歩兵操典の中でも最高に優美な信号譜を奏でる。 「イベイオン大僧正閣下、御成!」 籠の壁がスライドして、ねっとりと体液で濡れそぼった紫の聖衣を引き摺りながら、象牙色の巨大な蛆が現れた。 同じような形貌の従僧を引き連れて、それは兵を睥睨しながら絨毯の上を這い、建物の中へ姿を消した。
甲虫騎士、名誉自由戦士であり無領地貴族、侵略候ボントン・チシア・ロッヘルは不機嫌だった。 急な呼集がかかり、高価な蜻蛉を四機も飛び潰して馳せ参じてみれば、何か勅命を下さるという「高貴なお方」の到着は丸一日も後だという。 辺境府の官吏に文句を言うと、 「まあまあ、どうぞその間はご存分に飲食を」と、やたら背が高い建物の中段くらいにある大広間に案内された。 飲食? どうせ不味いものしかこの辺境にはありはしない。 厭な期待に違わず、広間の扉を開けると、安っぽい人間の脂の匂いがむっと臭覚器を刺激した。 ボントンと同じく、この辺境に散って各々人間の武装集団を退治していた甲虫騎士の面々が、そこかしこで人肉を囓っていた。 白っぽい、過剰に脂の乗ったふにゃふにゃの肉。 地下の飼育槽で養殖した、魂の抜けたような奴でちっともうまくないはずだ。 仕方なく隅の卓について給仕に甘露を注文した。 薄暗い室内――本能的に感覚器が周囲を探る。 複眼の一部が見覚えのある瘤だらけの体躯を見つけた。 相手も気づいたようで、啜っていた人間の頭蓋骨の半欠けを放り出して、近づいてきた。 「ボントンではないか」 「おお、これはキデラウラヌス候。相変わらずご壮健で何より」 キデラウラヌスの一族は蠍を祖とした遺伝子プールに属する闘争家系であり、その獰猛な天資は良くも悪くも帝国軍属の中では目立つ存在だった。 彼はボントンと同じく、戦地での単独行動を許された自由戦士であり、帝国とは契約で結ばれた朝臣の関係にある。 既に幾つもの戦役をくぐり抜け、大いに敵を殺し、名を馳せていた。 武術の修行にも余念が無く、独自に賦性のキチン質の鋏を改良、一芸として発達させていた。相手をぶった切ること以外に使い道のないそれは、今は折りたたまれて頭部の後ろ側に半分くらいが隠れている。 あれが、抜き打ちの際どう飛び出してくるのか、ボントンはまだ見たことはなかった。 お互い中脚を人間の腕のように使って、握手をした。 「お主も、鼻が効くからな。器用にこんな辺境でうまい甘露を見つけおる」 「いやなに、うちの親族が教会にいるのだが。ソルビロの総本山なのだがね」ボントンは椅子を勧めた。 「何やら上層部が騒がしい。それはここいらあたりに原因がある、と思念を送ってきたのだ。網を張っていたら、この急な呼集だ」 「……そいつは、反則なくらい上等な情報源だな」 「まあ、勘に近いくらいの曖昧な話だから教会の思念統制を潜り抜けてきたんだろうけどな」 ボントンは出家し、一生芋虫の姿のままで過ごすことを選んだ変わり者の弟のことをふと思った。 幼形成熟し、およそ同族とは思えない、ぬらぬらとしたあの僧形の姿にもう変容しているのだろうか。 「だが、果たして何事が起こったのか」 「さあ。しかし、帝国本土から第一軍団がこの世界に乗り込んでくるらしいぞ」 「……侵攻本隊ではないか。どこで、そんなことを聞いた?」 「それは言えん。それに……これは親族からの話ではない。どのみち、これは今日明日中にでも広まる類の情報だ」 「何にせよ、大規模侵攻作戦がらみの下拵えってところか。我らの仕事は」 「多分な」 ボントンが杯の甘露を飲もうとしたところに、給仕が二人がかりで大皿を運んできた。 「お待たせしました」 山盛りになった人間の手足の焼き物が卓の上にどしりと置かれた。 焼き色はいい。 ボントンはようやく食欲を覚えた。
結局、さんざんキデラウラヌスと飲み食いした後、ボントンは割り当てられた部屋でぐっすりと睡眠をとった。 いつの間にか帝国の超大型蜻蛉が上空を旋回しており、半覚醒でその羽音に気づいたときには、もう最上階で甲虫騎士の集会が始まる寸前だった。 まさに押っ取り刀で駆けつける羽目になった。 そして、殺伐とした武具に身を固めた連中の、普段にない礼貌の向こうに、ニュース映像でしか見たことのないイベイオン大僧正の巨躯を認めた。さすがに驚いた。 ……こんな辺境に……大物過ぎる。 「帝国を支える騎士の皆様」 やんわりとした、しかし透き通った、仄かに紫色の共感覚を沸き起こさせる甘い思念がボントンらの神経細胞を震わせた。 「私ども教会に属します多くの僧が、この辺境、この地方の何処かに〈穴〉が開くのを感知しました。これは、我々教会の僧侶団が祈念して開通させる方法とは違う、異なった……おそらくは異世界の未知のテクノロジーによる開通です」 室内がどよめいた。 「だとすれば、我々ダンピリオダ帝国が初めて遭遇する、我々と同等に異世界侵略を行う能力を持った種族である可能性があります」 「それは虫の種族でありますか?」 我慢できなかったのだろう、誰かが声を発して訊いた。 場にいる者全員が固唾をのむ中、イベイオン大僧正は少し悪戯っぽく答えを躊躇した。 が、間をおいて皆が期待する返答がはっきりと送波された。 「……いえ。どうやら人間です。……とうとう、強い人間の種族と出会うことになるのかも知れません」 喜色という色が本当にあるならば、それは今この場に立ち込めた濃密な空気のそれかもしれない。 初めて異世界に〈穴〉を開通して以来、開いても開いてもそこにいる人間達。一方的に殺戮されるしかない貧弱な、見窄らしい、唾棄すべき絶対弱者。 ボントン達のような仕合に喜びを見いだす戦闘種族にとって、それは退屈な侵略だった。 退屈な戦争、退屈な歴史。 百戦百勝。喜びのない勝利の積み重なり。 教会によって、たまに遭遇する昆虫種族との戦いは禁じられており、彼らの秘儀による遺伝子融合が、それらをことごとく帝国の遺伝子の海に取り込んできた。 無制限に膨張する帝国。しかしそれは、ある意味好敵手を探索する異世界への旅でもあったのだ。 「皆さん!」 空気に当てられたのか、高揚した様子でイベイオン大僧正は象牙色の体躯を捻った。 「〈穴〉を見つけてください。それさえ確保すれば開通先が分かります。そして、真の侵略を。帝国に勝利の歓喜を。戦闘種族のいのちを燃やすにふさわしい新世界を我が手に!」 怒号のような歓声が沸き起こった。 「双頭の蝿に栄光あれ!」 「イベイオン大僧正閣下万歳!」 「帝国万歳!」 そして、一斉に騎士達は各々の騎乗する蜻蛉の元へと散っていった。
渺々とした風の唸りが、陰鬱な背景音となって耳にこびり付く。 視野の中には崩れかけたコンクリートの半廃墟があった。 数キロメートル先の、その開いた窓から黒い影が飛び出し、跳躍して反対方向へと凄い早さで去っていった、 志田は防振双眼鏡から目を離し、ずるりと身を捩って岩陰に滑り降りた。 置いておいた自分のアサルトライフルを拾い上げる。 「どうだ?」今回、調査隊のリーダーを刑吏から指名されている中村が訊いた。 お互い偽名であるし、異世界探索機構と重罪院の規則で顔も変えられている。 身元はさっぱり分からないものの、明らかに軍事組織で訓練された動きを垣間見せる髭面の男。 何か機密を漏らした自衛官とか、そんなところだろうと志田は目星をつけていた。 「……やっぱり、ここは最低最悪の世界のようだ」 「うん。本当に最低最悪だ」 スパイカメラのチューブ状の受像部を手繰りながら、オリベが横槍を入れた。 「あの人型をした昆虫野郎は、女子供に交尾器を突き立ててヨガってやがったぜ。その後、頭から喰いやがった。へっ、……人間のやることとあんまり変わらないな」 志田は思わず笑った。確かにそうに違いない。 オリベは、どう見ても十五歳くらいの少女にしか見えない。その歳で終身刑務所に投獄されているというのは、志田にはちょっと事情が想像できなかった。 もし、驚異的なアンチエイジングを施しているにしてもだ。 考えられるのはネット犯罪あたりだが、今携行している馬鹿でかいマシンショットガンの扱いにも手慣れているようで、荒事に精通している気配もある。 「うむ」中村は臭い消しのハンドスプレーを使うと、それを首筋に塗りながら、 「昨日見た巨大な飛行機械等から鑑みると、やはりここは文明を持ち高度に発達した昆虫種族が、人間を食用支配する領域だと判断されるな」 オリベが吹き出した。 「分かりきってんじゃん。穴から出たとたんに老若男女の死屍累々。ルイルイときたもんだ」 「……そう言うな。最低四十八時間は滞在義務があるんだ」 中村は志田の方を見た。 「現時点をもって撤収を判断する。異議はないか?」 「異議なし」志田は言った。 「異議なーし」と、オリベ。 「記録しました」と、背後にいた四足歩行ロボット、通称「ロバ」が立ち上がりながら言った。 大きさは正に驢馬かポニーくらいの、軍用輸送ロボットだ。 背部に積んである弾薬と食料の詰まったコンテナの間から、砂が流れ落ちる。 「では、帰投する」 三人と一台は、この異世界への入り口〈穴〉へと向かった。
〈穴〉。 それは何の前触れもなく十数年前東京の街中に忽然と開いた。 そして、その果てしない内部の闇の中から人を襲う巨大な蝿が大量に這い出してきた。 混乱の極地を味わう数ヶ月が過ぎ、だが人々は蝿の退治と、穴の確保に成功した。 大規模な研究組織が結成され、多大な犠牲を出した調査の結果、それは平行世界に通ずる廻廊であることが分かった。 穴の向こうには、別の可能性である地球の同じ場所が存在する。 蝿のいた世界は、人類と蝿の死闘世界であった。 なぜ穴が開いたのか、開けたのは人類なのか蝿なのかは分からなかった。 長い議論の末、人類は蝿と戦う異世界の人類を見捨て、穴を塞いだ。 それに関わり合うのはあまりに危険であったし、既に穴を再び作り出す技術は獲得していたのだ。 やがて、穴の位相を変える技術が発見、体系化され、別の可能性に穴を開けることが可能になった。 人々は、知的生命体のいない地球というものを夢想した。もしそれを見つけることが出来れば、手つかずの資源を手に入れることが出来る。 だが、世界が注目する中、再び開いた穴の向こうには、知能を獲得した昆虫が中世暗黒期のような異様な文明を築いていた。 そこでは人間は滅亡していた。 あわてて穴を塞いだ。 次の穴も。その次の穴も「人類対昆虫」の図式が呪縛のように続いていた。 人々は失望した。だが、諦め切れないほど魅惑は大きく、探索は続けられた。 危険だという者も多かった。もし、穴を制御できるほど高度に発達した昆虫がいる世界が存在したら、こちらの位相が知れたらどうするのだと。 だが、その可能性は限りなく小さいと、何故か政治家や高名な科学者は口を揃えて反論するのだった。
「なあ、志田さんよぉ」 オリベが歩きながら言った。さっきからずっとぼやいている。 「平行世界っていうのは無限の可能性があるわけだろ。どうしてこう、何度穴に潜っても糞忌々しい虫の野郎がいるんだ?」 「それはな、虫と人類が不倶戴天の世界が無限にあるからだ」 「はあ? 無限の中に無限があるってか?」 「まあ、そうだ」 「さっぱり分かんねえ!」 下唇を突き出して天を仰ぐ。 妙に可愛らしく感じた。 そして、オリベは例によって何かくだらないことを思いついたらしく、ニヤニヤと悪戯っぽく笑った。 「俺たちの刑期が加算式で理論上無限だけど、結局寿命の範囲内でしかお勤めできないのと、なんか似ているなあ」 「……なあ、オリベ」 「なんだよ?」 「お前一体何をやらかしたんだ?」 前を歩いていた中村が仰天したように振り返った。それは禁句だった。 だが、中村が規則違反だという前に、 「それは聞かない約束でしょう?」妙にしなを作ってオリベは答えた。 「言っとくけど、聞いちゃった人は皆さん漏れなく特別ボーナスが重罪院からプレゼントされるという、なかなか他にいない類の人なんだよ、俺って。でも志田さんなら聞いてくれるかな?」 「……」 「聞きたい?」 「……」 「聞きたい?」志田の眼前に回り込んできた。 酷く邪気のない褐色の瞳に見つめられて、柄にもなく面映ゆさを感じた。 志田は目をそらした。 「……いや、刑期を増やされるのはご免だ」 中村が呆れ果てたといった様子で、また歩き出した。 そして、わざと聞こえるように独りごちた。 「こんなところでイチャイチャ出来る神経は、さすが重犯罪者だな」 「イチャイチャ? ちゃうちゃう、俺はこんな筋肉ガチムキのオッサンは趣味じゃねえ。メリケンサックをペンダントにしているなんて、俺の美意識からしたら――」 「……分かったから黙れ」 中村は帽子の鍔を引いて、会話に参加したことを恥じるように呟いた。 重犯罪者。――〈穴〉の向こうの世界の探索は往々にして危険極まりなく、最初意欲的であった研究者や軍属でも志願者はやがて皆無となった。代替としてロボットが使われたが、これは即時的な状況判断に難があり、大抵の場合破壊されるか捕獲されてしまい、どんな世界なのかという肝心なところが把握しにくかった。 そこで活用されたのが服役している重犯罪者、主として終身刑の者達であった。 死刑は一部の国を除いて廃止され、世界にはある意味暇を持て余している人材で満ちていた。 そして、減刑を餌にしたところ、志望者が現れ結構な成果も上げたため、このシステムが確立された。 任務以外のトラブルを防止するため、彼らは顔を変えられ、個人情報は全て隠蔽された。それを漏らせばただ働きの上、もう二度と声はかからない。 経験を積んだ者は、優先的にまた仕事が回ってくる。 だが、志田の刑期は後三百五十年。この探索行で十五年減刑になるとして、あと何回〈穴〉に潜ることになるのか。 他の二人も同じような境遇だろう。 志田は胸に下げたメリケンサックを爪繰った。 「……でもなあオリベ」 「はあ?」 「いざという時には、こういうものが結構役に立つんだぞ」 志田の意味ありげな笑いに、オリベは戸惑った。 だが、負けずにニヤリとほくそ笑み、 「俺には、いざというときには女の武器があるわ」と言った。 「虫には通用しないだろう?」 「いやいや、女の股の力を舐めちゃいけない」 中村がまたチラリと振り向き、 「下品だな。まあ努力はかうが」と嘯いた。 「……洒落かよぉ。オッサン臭いこと。やだやだ」 その後は、皆黙って歩いた。 やがて、荒野の中に目立たないよう巧みに半地下式に作られた人間のコロニーが見え始め、その中を通った。 最近、襲撃を加えられたらしく、干涸らびかけた屍体がまだ強い腐臭を放っている。 それが堆く積み上げられた中心部。 そこここに単発式だがそれなりの性能を持っていそうなライフル銃が転がっていた。だが、おそらく相手には効果が無かったのに違いなかった。 コロニーの反対側の岩場が見えた。あそこの棚岩の影に〈穴〉がある。 皆ほっとしたその時、一番後ろを歩行していた「ロバ」が鋭い警告音を発した。 「レーダー反応! 低空で本隊に急速接近中!」 「走れ!」中村が叫んだ。 「〈穴〉に逃げ込め!」
廃村の中に、芥子粒のような動くものを見つけた。 数は四つ。 見慣れない装束の人間と四つ足の何か。 「異世界の人間か!」 ボントンは騎乗した蜻蛉の操作紐を手繰り、一気にその方向へと飛ばした。 蜻蛉の羽音がバリバリという乾いた響めきにまで高まる。 その動きに何かを感じた周辺の他の蜻蛉が、あちらこちらから方向転換して蝟集してくるのが分かった。 さっきまで近くにいたので、キデラウラヌスのそれも混じっているのに違いない。 だが、この大手柄は自分のものだ。今回だけは譲れない。 ボントンは中脚で蜻蛉を操りながら、手槍を両方の前脚で掴んで、威嚇音を吼えながら急降下した。 四方に散った人間の一人が銃をこちらに向けて撃った。 そんなものは、大したダメージにはならない――はずだった。 だが、蜻蛉の羽が瞬時にズタズタに射貫かれ、コントロールを失った。 初めて経験する連射だった。 そのまま転覆するように、蜻蛉は泥で出来た村の家屋に激突した。 ボントンは弾き飛ばされて岩場に消えた。
「まだ来るぞ!」 上空を巨大な蜻蛉が三つ飛び過ぎ、奇怪な人型のものが降ってきた。 志田は最初に着地した、やたら虹色に輝いているけばけばしい一体に、アサルトライフルの弾倉が空になるまでフルオートで銃撃を加えた。 が、貫通弾は確認できず、せいぜい体液が滲む程度なのを見極めて、ライフルのハンドガードに付いているグレネードを発射した。 爆音と一緒に血リンパが飛び散り、甲殻が弾けてそれは前倒しになった。
中村は〈穴〉のある棚岩の近くまで来ていた。が、後肢の太い飛蝗の化け物のような奴が、すぐ背後まで迫っていた。 鎌のような得物を持っている。 「糞っ!」 アサルトライフルを乱射するが、相手の動きが素早い。 目前まで迫られ、弾が尽きようとしたその時、爆音がして飛蝗が吹っ飛んだ。 横っ面から、オリベがマシンショットガンを連射していた。 十連射を越えた辺りで形が崩れ、全身から体液を流して、そいつは動かなくなった。
キデラウラヌスは愉快だった。 「こ奴ら、やりおるわ!」 かつて無く血がたぎった。 「キデラウラヌス・バイオス・ヘリンガス参る!」 中脚で掴んだ大矛を振り回す。 近づく前に銃撃が加えられたが、人一倍分厚い外殻はそれに耐えた。 一番体格の小さい人間に迫る。 「駄目だ! こいつ銃が効かねえ!」 小さい人間が何か吼えた。 右手で体格のいい人間が銃を構えた。さっき、仲間を爆殺した奴だった。 あれはいけない。キデラウラヌスは矛に渾身の回転をつけて、そいつに投げつけた。 生憎、矛の石突きの部分しか当たらなかったが、そいつは銃を吹っ飛ばされ、回転の勢いに巻き込まれて地面をぐるぐると転がった。
「畜生!」 オリベは駆けだしたが、もっと猛烈な勢いで、その他の奴の倍はでかい蟹か蠍の化け物は追いすがってきた。 目の前で中村が手榴弾を投げつけようとしている。 だが、袈裟懸けの線で四五本刃物が突然生え、途中でくずおれた。 化け物の投げた手裏剣だった。 すぐ背後に化け物が迫った。 追い詰められたオリベは、突如身を翻すと、マシンショットガンを放り出し、その化け物の甲羅の突起を伝って体を駆け上った。 肩口に立ち、ホルスターからハンドガンを抜き、脳天を狙う。 ――だが。 化け物の背中に折りたたまれていた巨大な鋏が壮絶な早さで一閃し、オリベは横隔膜のあたりから胴体を両断された。
骨が軋むような痛みを堪えて、志田は身を起こした。 敵の位置を掴む為の瞬刻の藻掻き。 奴はいた。しかし。 オリベが真っ二つにされて、血飛沫と一緒に宙から降ってきた。 本能的に、その上半身を滑り込んで受け止めた。 「オリベ!」 オリベは、ひゅうと一息空気を吸った。 急激な血圧の低下で生気を失いながら、しかし驚いたことに言葉を発した。 「……脚を絡ませようと思ったが……間に合ったかな?」 オリベの下半身は、化け物の背中の鋏を納める瘤状の部分に、逆さまになりながらも、膝を曲げて足首でロックする形で引っかかっていた。 ぞろりと臓器の塊がこぼれ落ちそうになっている。 化け物は振り払おうとするが、手が届かない。 と、その臓物の腸の部分が蠢動し、白い紐状のものがわらわらと這い出した。 化け物の体表へと凄い早さで移動していく。 寄生虫? 「……そうか。オリベ、おまえ、千百秋(ちおあき)だったのか」 「……へっ」 ――世界の重犯罪者の中で、たった一人、刑期が千年を超える囚人がいる。それは女だ。日本人で、ついた仇名が千百秋。刑期千百年ってことだろうな。 志田は、もう何年も前に特別刑務所で格子越しに聞いた、他愛のない噂話を思い出していた。 ――そいつは、生物工学の専門家だったが、探索隊が異世界から持ち帰ったサンプルを無断で弄り、自分に寄生させた。 人類と虫との初めての共生体となり、結果、そいつは細胞老化を克服した。 寄生した虫の寿命と同期したらしいのだが、虫が代替わりしても宿主はそのまま維持されるため、事実上の不老不死の達成だと言われている。 大発見だが、いけなかったのは、なまじ証拠隠滅を謀ったことだ。 幾らでも重罪院との取引材料に使えたろうに、研究データはおろか、それに関する自分の記憶まで消してしまった。 寄生した虫は突然変異していて、千百秋の体の中でしか生きられない特異性を帯び、技術はそこで途絶えてしまった。 ――刑期千百年は、危険な虫をさらに遺伝子操作した罪と、たぶん不老不死の罪に対する罰だ。だが、人間の嫉妬の大きさの反映でもある。 「……ちっとやそっとじゃ死なねぇが、あれは物がサナダムシだ。腸があっちに全部持って行かれちまった。これはさすがにいけねえ」 「……」 「あいつらは俺の体の外に出ると、強力な蛋白質分解酵素を生成して消滅するように、昔の俺が細工していたらしい」 化け物の体から、白い煙が沸き立ち始めた。 そして、見る間に猛烈に泡立ち、あれだけ堅かった甲殻が流れ落ちる雫と一緒に蕩けだした。 悶絶し、ボトボトと脚や鋏を落としながら、蠍の化け物はのたうち回った。 オリベの下半身は振り回されながら、それでも奇跡のようにその背中にくっついていた。 「……へっ、女の……股の力を……舐めちゃ、いけねぇ……」 オリベの呼吸が止まった。 「オリベ! オリベ!」 半眼の、どこか満足した表情で、オリベは死んだ。
ボントンは我が目を疑った。 手練れの騎士が二名も凄絶な死骸になっており、キデラウラヌスに至っては、溶け崩れて体の芯まで晒している。 ボントンが近づいても認識できないほどに破壊された肉体の機能。 ただただ身悶えし、苦痛の叫びを上げ続ける哀れな存在に、ボントンは手槍の一撃でとどめをくれてやった。 痛みと苦しみの気が抜け、それはどこの厨房にあっても違和感のないであろう、ただの肉塊に変わった。 それもまた、じわじわと蕩けていく。 「……」 敵も死闘の果てに仲間を失ったらしい。 半分に切断された屍体を前に、男が屈んだままじっとこちらを見ていた。 少し離れた場所にもう一人倒れていたが、キデラウラヌスにやられたのか、体の前面に何本も刃物が突き刺さっている。 死んでいるのか、重傷かだが、もう、あれでは動けないだろう。 つまり、双方一対一だった。 さっき吹っ飛ばされた岩場で、ボントンは〈穴〉を既に見つけていた。 一見、本当の岩穴と見間違えそうになったが、その内部に揺らめく艶めいた暗黒は、この世にはあり得ないものだ。 教会の僧侶が司る領域のものだと、あらためて思えた。 人間が立ち上がった。 〈穴〉は見つけたので、この人間を捕らえて案内させるといった手間はもう必要ない。 すぐに殺してしまっても差し支えなかった。 ボントンは、手槍の握りを持ち替え、人間の方に向き直った。 男は丸腰のようであった。 が、胸のペンダントを引きちぎり、その先に付いていた金属製のサックを拳に嵌めた。 「……ほう」 拳闘術を使うのだろうか。ああいった道具はどこにでもあるのか。 ボントンは、あの類の武具を使う手合いとは散々仕合ったことがあった。 それこそ、駆け出しの頃から。 だが、負けたことはなかった。 ――酷く血が騒ぐ。 「これは尋常に果たし合うのが作法」 ボントンは手槍を放り出し、 「いざ!」招き手をして、相手を誘った。 双方がじわじわと距離を詰めた。 背丈、体格ともほぼ同じのようだった。 だが、決定的に違うのが外骨格だ。 この硬い複合キチン質の鎧を、人間の腕力でどうにか出来るわけがない。 ボントンは意気に免じて、一撃であの世に送ってやるつもりだった。 探りのジャブを出す。 人間の顔の側面がつるりと弾けて、赤い体液が迸った。 ――何と柔らかい。 暗い衝動が沸き上がった。 ――真っ赤に砕けて死ぬがよい! やや大降りの右上脚の打撃。だが、相手は老獪な呼吸で身を沈め――。 途轍もない衝撃が、ボントンの腹を突き上げた。 人間の一撃は、ボントンの腹の外板を突き破り、臓物を破壊し、背中側を走る循環器を掻き回した。 いきなり、視覚が真っ暗になった。 死が、猛烈な早さでその羽を瞬かせるのが分かった。 「……お、お見事……」 ボントンは最後に蝿の羽音を感じ、幼い頃に聞いた蝿の神様の話を思い出し、弟のことをふと思った。 そして、完全に死に、くずおれた。
その人型の虫は、最期にヤスリ器を震わせてか細く鳴いたようだった。 そして、志田が腹から腕を引き抜くと横倒しに折れ伏した。 志田の右腕は折れ曲がり、明らかに何カ所かで骨折していた。 激痛と目眩、そして異様な空腹感が志田を襲った。 分かってはいたが、しばらくぶりに味わうそれは冷や汗が吹き出すくらい耐え難かった。 目の前で死んでいる虫の体から溢れ出る血リンパ液の、つんとする甘酸っぱい臭いで吐きそうになった。 「志田」 背後で中村の声がした。 振り向くと、血だらけのまま胡座をかいて手を振っている。 膝の間に、いくつもの使用済みのディスポシリンジが散乱していた。 モルヒネのそれだった。 中村は麻薬酔いして機嫌が良く、しかし力なくヘラヘラと笑った。 「お前の正体が分かっちまったよ」 「……」 「元ミドル級世界チャンピオン。しかし、高分子系の人工筋肉を腕に仕込んだのがばれ永久追放。さらには、その人工筋肉が使用後に血中の糖分を取り込む際、低血糖性の人格変異を引き起こし、異食症となっていたのが分かる」 「……」 「人肉異食症。喰った女の数が当時世界記録だったかな」 「……去年、更新されちまった」 「そうかい。まあ、なんだ、そこで死んでいるオリベでも喰ったらどうだ? 文句は言わないだろう」 「……屍体は好かんのだ」 「……躍り食いか。酷い奴だ」 「そこらへんで、百年以上は加算されたな」 中村は、胸のポケットから小さな金属の筐体を出し、志田に手渡した。 動く度に血液が滴った。 「〈穴〉の閉塞器だ。中に入って、ここのナンバーキーを押すだけでいい。番号は666だ」 「不吉すぎて、涙が出るな」 「……じゃ、頼んだぞ。必ず穴は塞げよ……」 中村の頭がグラリと背後に垂れ、それが前に回ってきたときにはもう呼吸は止まっていた。
オリベの半身を左手で抱えて、志田は〈穴〉に足を踏み込んだ。 冷やっこい、気体とも固体とも付かない影のような壁面。 黒々とした、黒曜石の断面のような床面がか細く奥に続いている。 前方に「ロバ」が待機していた。いち早く逃げ込んだらしい。 志田を急かすように地団駄を踏むと、〈穴〉の奥へと駆けていった。 志田はオリベを一旦床に降ろし、左手で閉塞器を持った。 オリベの下半身は、あの化け物と一緒に消滅していたし、中村の屍体は、この右手ではここまで運ぶのは無理だった。 何故か、せめてオリベの上半身だけは持って帰ってやりたかった。 キーを打とうとしたその時。 〈穴〉の出口の真正面。全く何もない空間に、突如別の〈穴〉が開いた。 そして、信じられないくらい馬鹿でかい蛆虫が大入道のように顔を覗かせた。 「お待ちなさい。異世界の人間よ」 志田の頭の内部で声がした。酷く心地よい、性別不明の声だった。 「おお、大廻りして開通させるのに苦労しましたが、何とか間に合いました。――異世界の人間よ。私にはあなたの心が見えます」 「心?」志田は、どうしてもその声に聞き入るのを拒めなかった。 「あなたの心の闇が見えます。……あなたは、あなたの社会では生きていけない獣性を自覚していますね? どうです。我が帝国に属して、思い切りその衝動を開放してみませんか?」 「……開放」 「人間を思うがままに殺戮、蹂躙。あなたの気に食わないものは全て手に掛けて憂さを払ってはどうです。帝国に属せば、それが可能です」 「……帝国に属す」 「そう。もし同族殺しに抵抗があるのであれば、我が教会の秘儀を持ってすれば幾らでもその肉体の変異が可能です。どうです? 不死身の肉体を持った、世界最高の戦闘種族になりませんか? 一緒にありとあらゆる弱者を思うままにする、貴種の悦楽を謳歌しましょう」 「……」 「いかがです?」 イベイオン大僧正はほくそ笑んだ。この人間の心は掴んだ。 我が教会の巧妙な心理攻撃に耐えられた種族は、かつていない。 だが。 「……馬鹿じゃねえのか」志田は毒づいた。 「はあ?」 「お前は、俺の心の闇なんか全く理解していない。いや、俺達を理解していない。人類を理解していない。……何が戦闘種族だ。俺達人類の、黎明から同族で殺し合ってきた糞みたいな歴史を知らんだろう。これは確信できるが、俺達人類は糞も糞、この平行世界でも多分比類する者がないくらい、とにかく糞ったれな種族だ」 イベイオンは、この男の反応を全く理解できなかった。 「それに虫風情が何をほざく。――やってみろ。お前らなんかより、よっぽど殺戮を積み重ねてきた世界に、本当の戦争の味を教えてもらえ!」 志田は閉塞器を投げつけた。 それは、イベイオン大僧正の皮殻を覆う膨大な粘液の層に張り付き、その海の中を揺蕩った。 志田はオリベの半身を抱え上げると、後ろも見ずに歩き出した。 オリベの俯いた顔を覗く。 ……オリベの罪は千百年か。 これは、一体どのくらいの罪になるんだろうな? 志田は、昏く嗤った。
「ロバ」は、自分の周辺での知的生命体の想念データの収集を全て完了したと判断した。 体内にある閉塞器を稼働させる。 〈穴〉は途中部で消滅し、位相が分からないよう相手先からの部分には無限迷路を形成させた。 今回のコンタクトでは、まあまあ劇的な反応が双方に起こったようだ。 これは異世界探索機構のデータバンクに保管され、貴重な資料となることだろう。 有能な研究者の目にとまればの話だが……。 「ロバ」は駆け足で、〈穴〉の出口を目指した。
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■講評
長く複雑な話でしたが、非常に楽しめました。 高度に進化した蟲族の外観・文化・体制に至るまで、細かく構築されているところがとても魅力的で、コンテストを通じ貴重な戦闘描写も新鮮です。 ラスト、やや難解でしたが、生き残りの志田も帰れなくなったという解釈でよろしいでしょうか。
文章+1 キャラクターの魅力+1 設定+1 |
名前: もりもっつあん ¦ 18:28, Thursday, Sep 17, 2009 ×
良いですね。 ファンタジーの迫力が表現出来ていて、面白かったと思います。 ただ、蟲側視点の話が冒頭から長く続いたので、人間側視点に移った時に唐突な印象を受け、少々戸惑ってしまいました。 この辺の視点の移り変わりを視点の配分調整する等でバランスを取ってもらえれば、より読み易くなったかなぁと思います。
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名前: PM ¦ 18:39, Monday, Sep 21, 2009 ×
どれくらいの作者の方が書かれているのか分かりませんが、レギニータといいこの作品といい、今年はファンタジー系の作品が多いですね。 セリフ回しや設定も普段からこの手の小説を手がけておられるのか、重厚な出だしで始まる文章も作り方も自家薬籠中の物としている感じがしました。 恐らく作者の方の頭の中にはこの手の小説のテンプレートが既に存在していて、落とし方もセリフ回しも結構パターンとして定着しているのではないかなと、読んでいて思ったりしました。
最後はホラーというよりも完全にSFの落とし方で、作品全体を通してみても、本来ならこの作品はホラーと呼ぶには少ししんどいのですよね。 怪集に投稿される作品に対して、読者が何を持って恐怖小説と見なすか(または求めるか)は人それぞれでしょうが、例えば仮にこの作品が映像作品であった場合に、ジャンル分けされた時にはホラーにカテゴライズされるかどうか、ちょっと微妙に感じるのです。 レギニータ同様にこの「千年の罪 永遠の罪」もホラーと呼ぶよりは、近未来SFやファンタジーのジャンルが最もしっくり来るでしょう。
ただ、この長さにしてどこかで見たような、よくある手のラストにはしなかった所はなかなか評価できる点だと思います。 長さと文章がほどほどにバランス良く配分された、その点でも佳作であるとは思います。 仮にこの作品が傑作選の候補に選ばれた場合、作品全体を通して果たしてホラーであるのかどうか、そこだけはちょっとした瑕疵になるかもしれません。
アイデア・1、構成・1 |
名前: 気まぐれルート66 ¦ 23:16, Monday, Sep 21, 2009 ×
・アイディア±0 甲虫騎士と帝国、遺伝子の海などは独創的で面白いと思った。人間の方は、そうにも感じなかった。それらの恐怖への関わりが薄いため、プラスには出来ない。 ・描写と構成±0 描写。甲虫騎士など、異常な設定に対する分かりやすい説明は良く出来ていると思う。「〜出家し、一生芋虫の姿のままで過ごすことを〜」は、やたら面白い。バトル物としてみれば、描写も上手い。 しかし人間を侮り過ぎてどんどん負けていく(相打ち気味ではあるが)甲虫騎士たちは、戦闘種族という設定や強敵を待ち侘びていたという設定から見て、どうかと思った。結局、身体能力に任せて弱者を虐めていただけなのかな、と。大僧正の台詞的にも。ただの引き立て役だったのなら、扱いが酷すぎる。 また、他作品を引き合いに出して申し訳ないが、同系統の「レギニータ」に比べると、描写から恐怖作品にしようという意志が伝わってこないように思う。 構成。可もなく不可もなく。
・怖さ−1 分類するならダークファンタジーでバトル物になるかと思う。そう見ると、怖がらせようとしている部分が無いように思う。切った張ったが日常の世界観だと、読み手の私もそれに対応して身構えるので、恐怖を感じるハードルは跳ね上がる。異形と人間が戦ったり死んだりしているだけで、怖がったりはしない。話の展開そのものが怖くないと。 結末も、無情と感じるのが精一杯で、怖くはなかった。 ・買っても後悔しない魅力−1 人類至上主義的な志田の台詞による終わり方が、とても悪印象。逆に言えば、虫蔑視になる訳で。テーマに対して、人間の方が凄いですよ? と言っているような作品には、好意を持てない。 |
名前: わごん ¦ 21:35, Tuesday, Sep 22, 2009 ×
発想+1 文章+1 構成−1 恐怖−1 緻密な文章でしっかりとした世界観を構築、確かな筆力を持った方なのだと思います。結構おもしろかったんですが、まだほんの序章で終わってしまっている感じです。 ルールなんてちょっと掠ってればいいと僕は思うんですが、一番肝心な、ホラー大会であるということから離れすぎてしまっている話には強い抵抗と反発を覚えます。 それでも面白ければつい高得点をつけてしまうタチなんですが、そこまでの魅力は感じませんでした。
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名前: 戯作三昧 ¦ 04:19, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
面白かったです! もっと長編で読みたかったですね。 虫側も人間側も非常にキャラクターたちが立っているのが、壮大な設定のお話にリアルな説得力を与えていてよかったです。全員が違う魅力をキチンと備えているのもいいですね。
視点が虫側からと人間側からと移行する手法が、この物語にはよく合っていると思いました。スピード感溢れる戦闘シーンも楽しく、また想像しがたい表現もなくスムーズに脳内で映像化されて素敵でした。
あと、虫が「焼いた」肉に食欲を感じるという設定がツボに入りました。進化してるんだなぁと、しみじみ感じさせられて。
*文章+1 *描写+1 *キャラクター+1 *設定+1 *恐怖−1 |
名前: げんき ¦ 21:27, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
恐怖度0 文章力0 構成力0 アイデア1 私にはあまり好みのタイプやジャンルの話ではないので、ちょっと読むのが苦痛でした。 もう少し、短いと読みやすかったかもしれません。世界観は確立されていると思います。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 02:18, Thursday, Sep 24, 2009 ×
これ、すごく好きです。よくぞやってくれた、って感じです。 せっかくフィクションの催しなんだから、こういうのが読みたいって思ってました。それについては意見が分かれると思いますけどね。 ただ、もうじき怪集が終わるという時期に、中途半端な長さで区切られてしまったことが惜しい。だから満点から一点引きます。
[追記] ↑って一度は言ったんですが、やっぱり面白かったのでもう一点つけます。 |
名前: あおいさかな ¦ 18:52, Sunday, Sep 27, 2009 ×
ファンタジーというよりチャンバラですね。虫の陣営の特殊性を出す為にファンタジーの要素をとってつけた感じがします。 また、展開はSFではよくあるものであり、あまり新味はありませんでした。 ただ、映像として情景を思い浮かべることにおいて、ほぼストレスなく進んでいるとは思います。 恐怖度は弱めでした。
アイデア 0 文章 1 構成 0 恐怖度 0
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名前: 鶴の子 ¦ 19:17, Monday, Sep 28, 2009 ×
丁寧に構築された世界観と、独特の流れを持つ文章により、他人が真似できない作品になっています。 ただ、残念ながら全く怖くありません。つまりは、怪集という名前に馴染まない作品だということです。 違う場所でなら、かなりの評価を得られたのではないでしょうか。
発想・1 構成・0 文章・0 恐怖・-1 |
名前: 三面怪人 ¦ 20:37, Monday, Sep 28, 2009 ×
おもしろかったです。 良く書けてる。 すごく勉強になりました。 アイディアを出し惜しみせずにどんどん放り込んでくるのがよかったですし、単に虫を倒して終わりにしなかった手腕はおみごとです。 私にはほめる資格さえないでしょう。
唯一の難点を上げるのなら、登場人物が多すぎて感情移入する対象が絞り込めなかった所ですね。 アイディアをどんどん入れるのと相反する要素なので両立させるのは難しいですけどね。
【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】+1、【恐怖度】0 |
名前: ユージーン ¦ 18:05, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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