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蜘蛛と害虫
 昔、家にいた蜘蛛を殺したことがある。その時、俺はばあちゃんに「これでもか!」というほど怒られたのを覚えている。
 ばあちゃんは「蜘蛛は家の守り神。害虫ではなく、害虫を食べてくれるんだよ」と、いつも俺に優しく言っていた。
 俺が大学を卒業した翌年、ばあちゃんは死んでしまった。
 癌だった。
 ばあちゃんが死んだ時、俺はその『蜘蛛』の話を思い出していた。
「敦、明日には向こうに帰るんでしょ?」
「いや、明後日まではこっちにいるよ。仕事もあるし早めに帰らないといけないけど、一応四日間は休日もらってあるしね」
 ばあちゃんの葬儀のため、俺は実家に帰ってきていた。
 大学を卒業した俺は、就職難の中でもなんとか就職することに成功。中小企業でなんとか生活を繋いでいる。
 葬儀が終わり、家族との久しぶりの団らんに興じると懐かしい気持ちになる。帰れば一人なのを考えると、少し寂しく思う。
 夜も更け、俺は元々あった自分の部屋で眠る準備を始めた。
「あ、蜘蛛」
 十年も前の雑誌で、布団の上にいた蜘蛛を叩く。
「あれ? 確実に仕留めたはずなんだけど……」
 布団に染みははく、雑誌にも死骸がついた様子はない。
 不思議に思い、首を傾げながらも俺は眠ることを優先した。
 その夜、俺はばあちゃんの夢を見た。
 幼い頃の俺に蜘蛛の話をするばあちゃん。その姿を見ると、懐かしさのあまり涙がでそうになる。
 しかしなんだろうか。過去には見たこともないほどに激昂し、顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らしているのだ。
「あれほど蜘蛛を殺すなと行っただろう!」
 俺は、怖くなった。
 ばあちゃんの起こり方は異常だった。
 狂ったように「蜘蛛を殺してはいけない」や「何故私の言うことが聞けなかったんだ」とまくし立てる。
 脳裏に焼き付いたその姿に恐怖し、後ずさった。
「……!」
 足が地面を擦る音が響き、ばあちゃんがこちらを向いた。横からでは分からなかったが、目は空洞になっており、俺は引き込まれるような感覚に襲われた。
「はっ!」
 そして、目覚める。
「なんだ、今の……」
 本来あるはずの眼球はなく、暗い暗い闇だけが広がっていた。思い出すだけで寒気に見舞われてしまう。
「忘れた方が、よさそうだな……」
 その時、左手の甲に違和感を覚える。次の瞬間にはチクリとした痛み。
 蜘蛛が噛みついていたのだ。
「この野郎!」
 右手で思い切り叩くが、昨日と同じように、死骸は見あたらない。
「なんだってんだよ、これ……」
 俺は一日中それしか考えられなかった。

 明日帰るとなると、早めに寝て早めに起きるのがいいと、十時前には布団を被る。
 夢と蜘蛛の出来事が頭をよぎり、俺は少しだけ不安になる。
「夢だ、きっと悪い夢だ」
 無理矢理自分に言い聞かせると、微睡みで身体がどんどんと重くなってくる。
 単純なのか、俺は昔から思い込めば眠れた。それがこんなところで生きるなんて、ちょっと複雑だと思いながらも夢の世界に飛び込むのだった。
 夢の中は昨日と大差はなかった。あるとするならば、子供の俺がいた場所に、今の俺がいる。
「ばあちゃん……」
 昨日とは違い、ちゃんと目はある。
「お前、昨日蜘蛛を殺したね?」
「殺してないよ。叩いたかもしれないけど、蜘蛛の死体がなかった。たぶん逃げたんだよ」
 言い訳のつもりはない。現に蜘蛛の死体がなかったのだから、そう思うだろう。
「昔、蜘蛛は害虫を食べるという話はしたね。では害虫とは誰の目線からみて害をなすんだい?」
「それは人間から見てでしょ?」
「蜘蛛はね、自分の目線から見て害があると思ったモノに対しても、ちゃんと行動を起こすんだよ」
 それだけ言って、ばあちゃんは俺の前から消えた。
 煙になって空へと消えてしまった。
「いてっ!」
 無数のチクチクとした痛みに目を覚ます。
 掛け布団を蹴飛ばして、俺は知った。
「うわあああああああああああああああああああああああ!」
 蜘蛛の大群が俺の身体に群がって、それぞれが思い思いに噛みついているのだ。
「やめろ! やめろ!」
 立ち上がり、必死になって蜘蛛を払い落とそうとする。
 腕にいる蜘蛛を払った時、ヌルッとしたモノに触れた。
 月明かりに照らされた指先には、赤い液体が光っている。腕を見れば、蜘蛛の群れは俺の身体をついばんで、かなりの出血を伴っていた。
 蜘蛛たちは皮膚を食い破り、そこに身体を埋めていく。一匹ではなく、群れになって俺の身体に侵入してきている。
 腕、足、顔とあらゆる場所で痒みが生まれる。
 顔を思い切り叩いても、手に残るのは自分の血だけだ。
 皮膚の内側が違和感の塊で浸食されると、もう何も考えられなくなった。
 俺は転がるように部屋から出て、階下に向かう。その間、俺は体中の蜘蛛を払い続けた。
 階段を転げ落ちる。痛みなんて気にしている場合ではない。
 一階に辿り着いた時、母さんが俺を見下げていた。
 我が子ながら可哀想な人を見る目だった。
「アンタなにしてるの?」
「蜘蛛! 蜘蛛に食われる!」
「蜘蛛? 蜘蛛なんてどこにもいないじゃない」
 そう言われて、痛みが無いことに気付いた。
 蜘蛛もいなければ出血もない。でも、夢でもない。
「何だったんだ、さっきのは……」
 怪訝そうな眼差しを向けていた母さんは、首を傾げて寝室に戻ってしまった。
 俺は不思議に思うより、恐怖で頭がいっぱいだった。
 その日は自分の部屋には戻らず、居間で朝を迎えた。
 初めて、眠れない夜を過ごしてしまった。

 帰りの電車の中で、俺はばあちゃんの言葉を思い出していた。昔言われた『蜘蛛』に関する話だ。
 昔、この土地は土蜘蛛に守護されていたらしい。だから今でも蜘蛛は様々な力を持っているらしいかった。
「蜘蛛は殺すな……か」
 俺はその日を境に、蜘蛛を殺さなくなった。それが実家でなくてもだ。
 俺が蜘蛛を厭わしく思えば、きっと蜘蛛も俺に敵意を向ける。結果として蜘蛛から見て害をなす存在になってしまうだろう。
 今でも、最初からばあちゃんの言う通りにしておけばよかったと、胸を痛めている。




10:58, Monday, Sep 14, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(14) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯


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蜘蛛に襲われる場面は気持ちが悪い。体の中に入り込まれるのは勘弁してほしいと思った。ただ、実話怪談だったら文句なく四点付けるのだが、創作として考えた場合、これだけではインパクトが薄い。せめて、ハッとするような展開がもう一つほしかった。たとえば、夢だと思っ ... 続きを読む

受信: 22:30, Saturday, Sep 26, 2009

■講評

禁忌の存在、それを破るまでの流れと、大群に襲われる描写は良いのですが、主人公が無事に日常に戻れた点で、どうしても他の話よりインパクトが薄いです。すうっと通り過ぎていった印象でした。
一個の不思議体験を描くだけでなく、そこから何が起こるのかを描いて欲しかったです。

文章+1
恐怖-1

名前: もりもっつあん ¦ 23:53, Thursday, Sep 17, 2009 ×


・恐怖-1 
気持ちは悪いかもしれないが、怖くはなかったかなーと。

・描写-1 
全体的にアッサリしすぎている。

・文章+1 
よくまとまっていてわかりやすい。

・アイデア±0 
ありがち。可もなく不可もない。

・雰囲気+1
重く気持ちの悪い感じは出ていた。

名前: メタ郎 ¦ 02:26, Monday, Sep 21, 2009 ×


発想0 文章0 構成+1 恐怖0
ありきたりなコメントで申し訳ないんですが、実話なら面白かったんです。
雰囲気もあっていいんですが。

名前: 戯作三昧 ¦ 01:02, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


・アイディア±0
 啓蒙的な話で面白いと思ったが、プラスにするほど独創的かと問われると。
・描写と構成±0
 可もなく不可もなく。
・怖さ±0
 蜘蛛の大群に襲われるのはいいのだが、そこで終わって欲しくなかった。もう「害」と見なされていて手遅れ、襲われ続けるとか。
・買っても後悔しない魅力±0 少し襲われただけで、その後、何事もなく終わっているのが、とても不満。啓蒙的な部分が面白いと思ったので、マイナスにはしないが……。

名前: わごん ¦ 06:27, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


なんだか実際にあってもおかしくない話ですね。
これが実話なら良かったんですけどね…。
折角の創作なので、もう少し、大胆な展開をしても良かったかなぁと思います。


名前: PM ¦ 19:31, Wednesday, Sep 23, 2009 ×


無数の蜘蛛に身体を食い破られていくくだりが、非常に恐ろしかったです。叩き落とそうにも、皮膚の内側に逃げられたら! 想像したことを後悔する羽目に陥っています。

*恐怖+1

名前: げんき ¦ 00:25, Thursday, Sep 24, 2009 ×


恐怖 1
雰囲気 2
現実味 1
少しあっさりしすぎているようにも感じましたが、実話のような語り口で、興味深いと思いました。通常は人間の目線で決められる「害虫」が、蜘蛛の目線で決められる、という発想は面白いです。また、蜘蛛に食い破られるシーンはとても気持ち悪くて、それが神罰のように描かれるのも、逆に恐ろしく感じました。

名前: 白長須鯨 ¦ 17:03, Thursday, Sep 24, 2009 ×


恐怖度0
文章力1
構成力0
アイデア0
あっさりとした教訓めいたお話ですね。良く書かれてはいましたが、これといった山場がなかったようにも思われました。

名前: 妖面美夜 ¦ 20:17, Thursday, Sep 24, 2009 ×


雰囲気もよく、何より、ちゃんと怖い。 今回数多ある蜘蛛話でも断トツの気持ち悪さがあります。
折角ここまで書ける方なので、もう少し広げてくれても良かったのでは。

発想・1 構成・0 文章・0 恐怖・1

名前: 三面怪人 ¦ 23:39, Monday, Sep 28, 2009 ×


基本、蜘蛛の意趣返しに、おばあちゃんが絡んでいるだけなのでどうも惹かれるところはなかったです。
文章的にも引っかかりが多く、読みにくさがあります。蜘蛛にチクチク噛まれる感じは、よく出ていましたが。
あと、土蜘蛛の話は本来なら真っ先に思い出すのではないかと思いました。

アイデア    0
文章     −1
構成     −1
恐怖度      0


名前: 鶴の子 ¦ 07:45, Tuesday, Sep 29, 2009 ×


 他の作品の講評にも書いたんですが、主人公の心の変化を軸にしたのはいいと思います。
 物語の本質は出来事そのものではなく、出来事によって人がどう感じ、どう変わったか、という事だからです。

 後はですね、クモが悪役で、やっぱりクモだった、だとちょっと弱い訳です。
 主人公とおばあちゃん+クモで、この物語は2つの要素でできている。
 ここに、この調和を壊す第3の要素を入れ込んだ時に、物語が回りだすんですよ。
 そうなると物語を考えてるだけで、たまらなく楽しくなってきますので、ぜひ試してみて下さい。
 (^^;
 2.4点ぐらいですね。あとちょっとで3点なんだけど。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 19:17, Tuesday, Sep 29, 2009 ×


小さい頃から話を始めてしまったせいでしょうか、ずっと子供が喋っているような感じがあり、結果的にはこの作品を普通のお話にしているように思います。
子供向けの戒め話なら良いのでしょうが、ちょっとこれだけでは読み応えのあるホラーとしては厳しいのではないかなという気がします。
所々で作品のメッセージが受けとれるのですが、これだけ主張が濃いと、真っ直ぐすぎてちょっと響いてこなかったです。

アイデア・−1

名前: 気まぐれルート66 ¦ 18:09, Wednesday, Sep 30, 2009 ×


実話風に纏めてあるのがなかなか面白かったです。
ただ、蜘蛛に齧られるシーン、折角の創作世界なのですから創作ならではの「仕掛け」を施して欲しかったなあと。それによって大化けする様な可能性を秘めている作品かも知れません。

名前: 籠 三蔵 ¦ 19:32, Wednesday, Sep 30, 2009 ×


「……!」とか「はっ!」は台詞にしないほうがいいですね。「うわああ」とかも。
蜘蛛からの敵意がいつまで続くのかが気になるトコロです。

名前: あおいさかな ¦ 23:58, Thursday, Oct 01, 2009 ×


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