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あいつと約束していたのに、あいつは1時間待っても来ない。もうすぐ9時になる。 都会ではヒートアイランド現象で夜になってもまだまだ暑い。立っているだけでじっとりと汗がにじんでくる。 駅前のロータリーにはビルが立ち並び、色とりどりのネオンが光っている。電車が着くたびに大勢の人が流れ出てきて、ちらほらと千鳥足の人も見える。客待ちのタクシーは無数に止まっている。夜になっても人が途絶えることこなく、アブラゼミだろうかどこかで鳴いている。 今日、必ず来ると言っていたのに俺は裏切られた。あいつとは小学校からの親友だった。俺と違い、あいつは良いとこ出のおぼっちゃまで何不自由なく育ってきた。大学にも進学したし名前を聞けば誰もが知っている大企業に就職し、嫁さんにも恵まれた。家も建て子供も授かった。 かたや俺の父親は飲んだくれで、何かあるとすぐに暴力を振るってきた。ろくすっぽ仕事もしていない父親でいつまでも一緒にいる母親も次第に嫌いになり高校を卒業すると家出同然で飛び出した。就職も転々としたし、行ってはいけない刑務所にも入った。家には一度も帰っていない。ろくな人生を歩んでいない。 そんななかであいつとは唯一の親友だった。 先週飲んだ日、あいつは珍しく今日の飲み代は悪いが貸しておいてくれと言ってきた。あいつにしては珍しい。いつもきっちりと割り勘でやっていたのだが、財布を会社に忘れてきたとかでその日は俺が全部払った。来週の月曜日に必ず返すからと約束したのにもう一時間たっても来ない。 もういちど電話をするがあいつは出ない。約束をすっぽかしておいて更には電話にも出ない。もう俺とは付き合えないというサインだったのか。 目の前にある喫茶店に入る。空いている席に座り、無駄と分かっていても留守電にメッセージがないかとチェックするがやっぱり入っていない。もう一度電話をする。あいつは電源を切ったのか通じなくなった。 店内にいた数人の客が荷物を持ち、レジに向かい始めた。もう閉店の時間か。それにしても俺が入った時に、もうすぐ閉店ですと言ってもいいのではないか。お冷すら持ってこない店員に怒りを覚えると同時に疎外感を感じる。 俺は喫茶店を出た。 外はあいかわらず蒸し暑い。 行くあてもなく歩く。
プルルルルルルルルル 携帯が鳴った。
「あ、通じた。俺だ。本当に通じてるのかなこの電話。まあいい、一方的にしゃべらせてもらう。まず、お前と付き合っていた亜矢さんだが、ショックで入院していたがいくらか良くなったようなので今日、車で彼女の実家の方に送り届けた。まだ時間はかかると思うけどいずれ立ち直ってくれると思う。心配するな。あと、お前の両親に合った時、お父さんもお母さんも泣いてたよ。俺も泣いたけどな。まさか最後に会った次の日にあんなにもあっけなく死んじまうなんて……。でも心配するな。俺もあと、何年、何十年か分からんけど、いずれお前の所にいくから。それまで待っててくれ。墓参りには必ず毎年くからな!じゃあ、元気でな!!!俺のこと忘れんなよ!あ、そうだ。お前から借りた金、ちょっと迷ったけど墓の中に入れておいたから心配するな。俺が行くまでそこでたっぷりと遊んでいてくれ。じゃあな〜」 電話はそこで切れた。 都会では夜になっても気温は高く、ネオンや街灯で明るい。そのため、蝉は昼と勘違いして鳴き始めるという。 死んだことに気づかない人が現生を彷徨い続けるのはよく聞く話だ。 今宵も蝉が夜とは気づかずにあちらこちらで鳴いている。
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» 【−3】夜の蝉 [もけもけ もののけから] × う〜ん。独自の世界というか…。やはり、この作品もどこか淡々としています。山となるポイントが欲しいです。【アイデア】0、【描蜀... ... 続きを読む
受信: 00:40, Tuesday, Sep 15, 2009
» 【+1】夜の蝉 [せんべい猫のユグドラシルから] × 着眼点はものすごく良いです。 事実を主人公に気づかせるための「主なき電話への伝言」という発想も悪くはありません。 が、その電話�... ... 続きを読む
受信: 22:37, Thursday, Sep 17, 2009
» 【−2】夜の蝉 [日々、追憶…から] × これも主人公が亡くなっていた作品ですが、最初を読んですぐに「亡くなっている」ということが分かってしまい、その通りの展開になってしま縺... ... 続きを読む
受信: 16:08, Friday, Sep 18, 2009
» 【0】夜の蝉 [峠の塩入玄米茶屋/2009から] × 発想は悪くない。が、ミスリードに失敗している。電話が掛かってくるギリギリまで、オチを悟らせないようにしてほしかった。また、携帯に掛けてきた親友の電話も不自然な気がする。主人公が何度も電話を掛けているところから、親友の携帯には主人公からの着信が多数残って ... 続きを読む
受信: 02:55, Monday, Sep 28, 2009
■講評
返答しようのない電話を通じて全部しゃべちゃうことで、見えてる世界をぐるっとひっくり返す手法に感心しました。 いい意味で力技。長さもちょうどいいですね。 その分、前半部で主人公は死人ではないと思わせる工夫がほしかったです。幼馴染との対比は必要ないかと感じました。
構成+1 長さ+1 描写-1
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名前: もりもっつあん ¦ 00:22, Friday, Sep 18, 2009 ×
発想0 文章ー1 構成0 恐怖0 主人公のせつなさ、むなしさといったようなものを強調したほうがもっと味のある作品になったかもしれません。
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名前: 戯作三昧 ¦ 23:46, Tuesday, Sep 22, 2009 ×
・アイディア±0 語り手が実は死んでいる、というのは、とてもよくある話に思える。内容もよくある感じかと。 虫の使い方……、遺伝元の設定を考えるに、死者=蝉、という扱いで、これは虫を使っている、と考えるべきなのだろうか。関係ないが「怨み死に」と並んでいるのが面白い。 ・描写と構成±0 可もなく不可もなく。それほどオチを隠す意志はないとみた。「お冷すら持ってこない店員」などは、基本を押さえている、くらいの域かと思う。 どうでもいいこと。これは講評に関係ないただの好奇心なのだが、幽霊と思しき主人公は、どうやって電話をかけてみているのだろうか。かけた気になっているだけ? 携帯も幽霊化? ・怖さ±0 友情加減にしんみりとしたが、怖くはないと思う。 ・買っても後悔しない魅力±0 可もなく不可もなく。悪くはないと思う。 |
名前: わごん ¦ 06:57, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
うーん。 まあ、最後にある通り、「死んだことに気付かない人のよく聞く話」ですね。 通じるかどうかも解らない電話に別れの言葉を入れる、というのはちょっと味がありますが、それも所詮、主人公に死を気付かせるためだけのものであり、都合良く出てきた印象しかありません。 もう少し、読ませ方を工夫する必要があったんじゃないかなぁと思います。
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名前: PM ¦ 19:47, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
恐怖度0 文章力0 構成力0 アイデア0 説明不足の感じを受けたので主人公が死者であっても衝撃が少なかったように思いました。蝉が絡んでくるのが少し唐突だった様な気がしました。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 20:30, Thursday, Sep 24, 2009 ×
>お冷すら持ってこない店員に怒りを覚えると同時に疎外感を感じる。 この一文に、前半で語られた主人公の境遇が重なってグッときました。そのため、主人公が実は死んでいるということに気付くのが遅れ、親友からの電話でハッとしました。この親友が、彼にとって本当の意味での「親友」に思えて、いい話しだなと思うと同時に、とても切ない気持になりました。 ラストの一文がなんとも象徴的で、とても好きです。
*構成+1 |
名前: げんき ¦ 00:04, Sunday, Sep 27, 2009 ×
惜しい。本当に惜しい。死んだ友人に掛けた電話を当人が聞いているという発想は、巧くやれば切なくて堪らない話に持って行けるのに、と思います。 あと一つ、味が足らない。 それが何か判れば苦労しないのですが…
発想・1 構成・0 文章・-1 恐怖・0 |
名前: 三面怪人 ¦ 00:07, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
この作品の無常感は成功しているように思います。夜の蝉との絡め具合も説得力は増しているような。 細かい文章の直しを経ればぐっと良くなるのではないでしょうか。
アイデア 1 文章 0 構成 0 恐怖度 0
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名前: 鶴の子 ¦ 08:14, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
丁寧に状況説明されているせいで、逆に何があるんだろう? って想像させられておもしろかったですね。
文章には知らずに書き手の本心が出てしまう物です。 「死んだことに気づかない人が現生を彷徨い続けるのはよく聞く話だ。」 良く聞く話と御自分でもわかってらっしゃる。 だとしたらそれを、良く聞かない話に上手く曲げてやる必要がある。 頑張ってください。
【アイデア】0、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0 |
名前: ユージーン ¦ 20:10, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
実は主人公が何々だった・どうかなってた、の作品は、怪集では思い出すところで「ジュブナイル」「薬と異常者」があるのですが、いずれもオチに向かってばれないように騙すしか方法が無く、これ一本で乗り切るのはしんどい事かもしれません。 どうせ分かるオチなら、もう死んだところから幾つか違うネタを合わせていくしかないようにも思えます。
アイデア・−1 |
名前: 気まぐれルート66 ¦ 20:56, Wednesday, Sep 30, 2009 ×
この作品は、主人公が死んでしまっているとわかるまでの伏線を密にする事でもっと光ると思いましたが、残念な事にこのままでは少々粗過ぎて、何回か時列系を読み返し反芻することとなってしまいました。 独特の哀愁漂うラストが勿体無いと感じました。 |
名前: 籠 三蔵 ¦ 23:58, Wednesday, Sep 30, 2009 ×
これは知ってる話です。と断言できてしまうので、新作の中ではちょっと苦しいかと。
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名前: 読書愛好家 ¦ 20:49, Thursday, Oct 01, 2009 ×
「実は死んでた」二連作ですね。 正直言うと「あれ、コレも?」と思ってしまいました。怨み死にのほうと違う作者さんだったら申し訳ないのですが、題材が被るかどうかという運の要素も、なにげに大事なことだと思いますので……。 |
名前: あおいさかな ¦ 23:43, Thursday, Oct 01, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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