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祖母の、幼い頃の話である。 当時、材木商を商っていた曽祖父の家には、大きな庭があった。 裏山と地続きになった庭園には、石灯籠に築山、池もあり、遊び場としては十分すぎる広さだったらしい。 お転婆だった祖母は友人と、主に虫捕りに興じていた。 とりわけ秋の夜長、そこかしこで澄んだ声を響かせる鈴虫が、祖母のお気に入りだった。 昼間の戦利品である鈴虫を籠に入れ、胡瓜など与えながら部屋で一人声を聴くのが、毎年の楽しみだったという。
さて、祖母が九つの頃。 例年通り秋が来るなり愛用の虫かごを片手に草むらへと飛び込んだ。 が、いくら探しても鈴虫が見つからない。 11月上旬となっても未だ一匹すら見つけられなかったという。 「このまま秋が終わるのか」と、落胆した気分が続いていた。 その晩、寝付けずにいた祖母の耳に、鳴き声が聞こえた。 (みてみい、やっぱり鈴虫はおったんや) 祖母は嬉しさを抱えながら、隣で寝ている親を起こさぬよう、こっそりと布団を抜け出した。 庭を一望できる縁側に出た。 何かが、ゆるゆると動いている。 目を凝らしてみると、それは虫捕り網だった。 当時の祖母と同い年くらいの少年が、背丈より大きな網を振っている。 季節はずれの白いランニングに半ズボン、麦藁帽子を被り、何故か必死の形相で、ふらふらと網を振り回していた。 少年はやがて森へと去っていった。鈴虫の声は消えてしまっていた。
翌朝、祖母の話を聞いた曽祖父は、近所を回って人を集めてきた。 茶を出しがてら話を聞くと、何処の庭でも鈴虫が鳴いていないという。 大人たちは曽祖父の指示で、薮漕ぎ用の棒を携え、森へ入っていった。 枯れ葉を踏みしめつつ先導していた曽祖父の耳に、甲高い声が聞こえた。 音を頼りに駆け寄ってみると、そこには古井戸があった。 上板の右半分が割れていた。悲鳴のような音はその下、井戸の中から聞こえる。 もしや子供が落ちたのかと、慌てて何人かが中を懐中電灯で照らした。
照らし出された井戸の中はゆるゆると蠢いていた。 誰かが挙げた悲鳴を、反響する甲高い鳴き声の渦が掻き消した。 何万という鈴虫が壁面に張り付き、羽を震わせている。 水面には力尽きた鈴虫の屍が堆積し、茶色くたゆたっている。 その底から突き出していたのは、ぼろぼろの虫捕り網と白骨化した腕。
「夏、遊びに来て、そのまま行方不明になった子やったそや。 お前の話聞いて、ピンと来たわ。ええ供養したな」 事情聴取を終え帰宅した曽祖父は、そういって祖母を褒めた。 「きっと、見つけてほしかったんやろ」 「せやけどお父ちゃん、なんであの子幽霊やと思ったん?」 「お前、網振ってた子が必死な顔やった、言うたやろ。 昨日は新月やったんやで。何で真っ暗闇で顔まで見えんねん」
「それ聞いて初めてぞおっとしたわ」 祖母は震えてみせながら、鈴虫を入れた籠に胡瓜を入れた。
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» 【+1】虫捕異聞 [もけもけ もののけから] × 上手く纏まった実話怪談のようです。でも雰囲気のみで、コレというところがありません。もっと、意外性があっても良かったのでは?縲... ... 続きを読む
受信: 15:52, Wednesday, Sep 16, 2009
» 【0】虫捕異聞 [せんべい猫のユグドラシルから] × ああ、これが実話怪談で、この大会が超−1だったなら。 実話怪談なら文句なく満点ですが、創作ではちょっと弱いです。 私だけかも遏... ... 続きを読む
受信: 22:53, Thursday, Sep 17, 2009
» 【+1】虫取り異聞 [日々、追憶…から] × あぁ、これが実話怪談の大会での講評だったらなぁ…。とっても雰囲気もあり、長さも好みです。しかし創作だからこそ、もう少しインパク... ... 続きを読む
受信: 18:30, Saturday, Sep 19, 2009
» 【+1】虫捕異聞 [峠の塩入玄米茶屋/2009から] × うあぁ。これが実話の大会なら、間違いなく高評価なんだがなぁ。創作となると、このままではやはりインパクトが弱い。もう一つ何か展開があればよかったかな。これが種とか、大会序盤で出されていたらもう少し評価が高かったかも。この時期ではちょっと厳しいかな。私 ... 続きを読む
受信: 02:57, Monday, Sep 28, 2009
■講評
正直、地味な印象です。 が、実話怪談への熱いリスペクトを感じます。 「新耳」よりは「『超』怖い話」寄りですかね。 まとまってはいますが曲者ぞろいのコンテストではインパクト不足かと。
文章+1 インパクト-1 |
名前: もりもっつあん ¦ 00:25, Friday, Sep 18, 2009 ×
発想ー1 文章+1 構成+1 恐怖0 そつのない文章でうまくまとまっているんですが、創作ならではの面白さを感じることができませんでした。 |
名前: 戯作三昧 ¦ 23:25, Tuesday, Sep 22, 2009 ×
・アイディア+1 普通に実話怪談本に収録されていそうな話を思いついたことを評価して。ただ、同傾向の作品が大量に投稿されていたら、これに点をつけたかは怪しい。 ・描写と構成±0 文章はそれっぽく書けていると思う。だが、「幽霊やと思った」や新月の要素を最後まで出さないのは、ミスリーディングの誘い方として、少しずるい。 構成。特に悪いとは思わないが、オチがあっさりめなので、それに合わせて全体も縮めた方が、もっと纏まりが出るかと思う。 ・怖さ±0 実話怪談として見ても、オチはよくある普通な感じなのではないかと。綺麗な終わり方ではあるけれど。 ・買っても後悔しない魅力±0 普通かな、と。 |
名前: わごん ¦ 07:22, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
ううーん、これも実際にありそうな話なんですよね。 やはり、実話だったら・・・と思います。 折角の創作ですので、もっと思い切った展開をしても良かったんじゃないかなぁと思います。
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名前: PM ¦ 19:48, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
少し前に「アリとスズメバチ」を読んだのに、ここにも必死の形相の人が・・・。 それはさておき、「虫捕異聞」と期待させる題名が付いていると、どうしても実話以上の、小説ならではの旨味を求めてしまうんですよね。 最後の祖母の様子は、なかなかいい感じに書かれていて良かったと思いますよ。 ただやはり、話としては小さいですよね。
実話らしく書くこともなかなかの筆力だとは思うのですが、現実をもう少しだけ超えたところで「虫捕異聞」の題名に見合うだけの盛り上がりがあったら一層良かったかと思います。
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名前: 気まぐれルート66 ¦ 20:01, Wednesday, Sep 23, 2009 ×
恐怖度1 文章力0 構成力0 アイデア0 ノスタルジックな感じはあるのですが、死に方と鈴虫の小道具としての使われ方が予定調和かなあと思いました。 |
名前: 妖面美夜 ¦ 20:53, Thursday, Sep 24, 2009 ×
書き出しがすごく好みで、すぐに物語世界へ引き込まれました。読みながらスムーズに映像が浮かんできて、とても気持ちよかったです。 特に井戸の中の描写が凄まじく、これもリアルに脳内で映像化されましたので背中まで鳥肌が立ちました。怖かったです。
*文章+1 *恐怖+1 |
名前: げんき ¦ 00:12, Sunday, Sep 27, 2009 ×
多少読み疲れた頭に、するすると入ってくる文章でした。滞る箇所が一つとしてなく、かなりの巧者ではないでしょうか。 これ、本当に今年の超-1で読みたかったです。
発想・1 構成・0 文章・1 恐怖・0 |
名前: 三面怪人 ¦ 00:12, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
珍しい怪談作品ですが情景も美しく、機転の利く曽祖父など人物が記号にならずにうまく動いている印象でした。 このまま怪談話としての生命を持ってしまいそうな完成度があるのではないかと思いました。
アイデア 1 文章 1 構成 1 恐怖度 0
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名前: 鶴の子 ¦ 08:25, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
鈴虫を使ったのは良かったですね。 雰囲気も良く出ていると思います。 きっと、鈴虫の声からお話を思いつかれたんでしょう。
でもお話としては何かひとつ足りない。 鈴虫がなぜ集まったのか。 もちろん、少年の無念の思いがそうさせたのはわかるんだけど、おもわずヒザをポンと打ちたくなる要素がもうひとつあれば、と。
あるいは少年の無念を思わせるような何か。 何か思い残した事は無かったのか。
そうしたひと工夫でお話としてはぐっと雰囲気が変わると思います。
また、少年の幽霊が出てきたと思ったら、やはり遺体が見つかった、ではちょっと弱い。 幽霊が出てきたら少年は死んでいると思う訳で、そこからもうひとつひねりが欲しい。 たとえば少年は死んでいたけど、祖母に何か危険を知らせるためにやってきた、とかね。
【アイデア】0、【描写力】+1、【構成力】0、【雰囲気度】+1 |
名前: ユージーン ¦ 20:19, Tuesday, Sep 29, 2009 ×
井戸と死体って古典ですけど怖いです。新しい話が多い中で素直に怖く思いました。 |
名前: 読書愛好家 ¦ 20:48, Thursday, Oct 01, 2009 ×
ああ、いいカンジですね。 ただ昔の人が井戸を迂闊に放置しておくかなぁー? とは思いました。 |
名前: あおいさかな ¦ 01:32, Friday, Oct 02, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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