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男の森の小裸-2
男の森の小裸――から)

    2
 小澤アリアはけっきょくその晩、伊鹿三等書記官と寝ることにしました。
 利用できる人間かどうか確かめたかったせいもありますが、姿を現すやたちまち青蓮閣の少女たちのお気に入りになってしまったように、彼女も気づかないセックスアピールがあるのかもしれません。
 若い男には慣れっこのつもりでしたが、経験は当てにならないものです。
 上海大厦スーペリアスウィートのダブルベッドのシーツの下で三等書記官が目を覚ました頃、小澤アリアは蘇州河畔の小路をジョギングしていました。ランニングパンツにタンクトップで走る長身の美女は人目をひきます。すらりと長い手足を見せびらかすような、露出の多い格好です。
 ほてった体を冷ますように、胸を突き出し、一心不乱に走ります。
 黒髪をなびかせ、強剪定された、数えるほどしか葉をつけていないプラタナス並木の下を駆け抜けると、老房子も、再開発ビルも、水も空もスモッグも、人も、車も、景色は流れ、ひとつに溶け合い、はじける筋肉の中では昨日の記憶、取材内容も、汗となって蒸発するようでした。
 ホテルに帰ると、和了はもう朝食をすませているでしょう。アリアは安心しました。
 朝靄にかすむ東方明珠塔の光も薄れ、外灘は本格的に目を覚まします。

 青蓮閣の正面はビルの影が落ちて、昨日よりもいっそう暗く、入り口も見つからないほどでした。
 取材班はまだ到着していません。
 青蓮閣は二十四時間コンビニエンスな売春宿なので、少女はいつでも買えます。眠っている子を叩き起こしてその場で相手をさせるのでした。先乗りした二人は、「あなたもお気に入りの小裸を探しましょう」とアリアが言うので小裸を探しましたが、建物の内部は迷宮のように入り組んでいて、簡単には見つかりません。
 宴席は閉まっていましたが、舞台ではいたいけな日本人の少女が五人の男にかわるがわる犯されていました。
 少年少女歌劇団が出し物のリハーサルをやっていたのです。
 さすがに選りすぐった美少女だけあって、見映えがします。人気があるのは頷けました。
 まだリハーサルだというのに、今からこれではそうそう体がもたないのではないかと心配になるほどの演技でした。
 樹理[トゥーリー]は舞台の花形でした。そろそろ役立たずの年齢に近づいているので、演出がだんだんハードなものになっていくのはやむを得ません。
 とはいえ遠目には、まだ彼女の幼さは完全で、近づいても吉兆の偽装(生えかかった毛を剃り、陰唇をたたんで内部に押し込んでいました)のような無理をしているわけではなかったのです。
 直前にひとりの少年とのささやかな性交場面があるところからして、日本兵に蹂躙される薄幸の美少女役のようでした。中国人の戦争犯罪に対する憎しみと侮蔑、恐怖には特別なものがあり、無惨に犯される悲劇のヒロインを演じる樹理には、日本人戦犯に対するのではないような、真摯な同情と人気が集まったほどでした。
 樹理を輪姦する日本兵役はちょんまげの鬘をかぶり、ふんどし一丁で登場します。
 背中の刺青から、元やくざのように見受けられました。
 悪事を働いたとはいえ警察官だけを粛清するのはいかにも不公平なので、警察と関係が深い暴力団や芸能関係者も、戦犯と決まったのです。
 戦争責任をなすりつけるのは、別に誰だってかまわないわけですしね。アジア・太平洋各国の人々にとっては日本人であるなら戦争犯罪者なので、同じことでした。
 同じように警察や暴力団や芸能事務所と癒着してきたマスコミが今回ばかりは政府に全面協力しているのも、この見せしめが効いたのでしょう。
 証拠の捏造、事件の隠蔽、収賄、横領、脅迫から証人の抹殺まで、悪逆非道のかぎりを尽くしてきた警察官は日本兵役にはうってつけでした。
 上官役は腹のたるみ具合からして本部長クラスでしょうか。
 職務質問するときの、横柄な態度そのままに、樹理を責めさいなみ、あげくはやくざと一緒に輪姦します。
 こんな場所に流れてきてまで人をいたぶるときだけはじつに楽しそうでした。

 リハーサルを終えて舞台から下りてきた樹理とは昨日、取材の前に二言三言挨拶をかわしただけでしたが、
「小裸をお探しですか」
 樹理は自分から声をかけました。
「あの子は特別室での接待が控えているので、今は会えません」
 伊鹿三等書記官は樹理のことをよく憶えていました。
 向こうもそうだったのを嬉しく思って、質問をみすかしたような樹理の態度も気にならないようです。
「舞台はお気に召しましたか」
 樹理はたずねました。
 どこにも引っかかりがない身体をした少年少女にとって、日本人の制服は当人に誘惑するつもりがなくてもあまりにも脱げやすく、胸ははだけて、膨らみかけた乳房が覗いています。
「ええ、あなたはとても素敵です」
 伊鹿三等書記官はうつむいて、目をそらします。
 激しい運動のあとの汗の匂いと、日本兵がだらしなく漏らした精液の匂いが入り混じり強烈な媚薬のように鼻先に香って、めまいがします。
 樹理は股間を拭う手をとめました。脚を閉じ、股間を拭っていたタオルをそっと背後に隠すのも忘れませんでした。
 幼い少女たちの間に入ると大人びて見えましたが、樹理はまだ十二歳でした。
 産毛よりわずかに濃くなりだした陰毛を他の少女たちのように剃ってはいず、それについて質問されると、
「この方が自然でいいという人がいるの」
 と年齢のわりに深いしわを目尻によせて、笑って見せるのでした。

「へん。おべっかを使ったって」
 暗い顔つきの、樹理の恋人役の少年がクッションに寄りかかって(少年はたいてい客の足もと、床に正座させられています)うめいていました。
 目のまわりに青痣をこしらえ、前歯の上一列が欠けています。
 昨晩、のどに突っ込まれた性器の大きさに思わず歯をたてて、「お客に殴られた」のでした。
 玉早[ポンセ]というのが樹理の恋人役の少年の名前です。
 彼は舞台に出演するたびに毎回ヒロインとよろしくやっているおかげで、客から妬まれていました。
 ついさっきも、リハーサルの最中に日本兵に殴られて、傷口からまた出血していました。
「二度も同じところを殴られた。あいつら、わざとやってるんだ」
「やくざに嫌がらせしたら仕返しされるのはと当たりまえよ」
 樹理がさとすと、
「だってあいつら、しつこいんだ。B優が泣いてるのに……」
 B優はさっきのリハーサルにも出ていた少年の姉役の女優で、十代の頃は童顔で人気のあったグラビアアイドルでした。
 二十歳を過ぎているので青蓮閣の商品にはなりません。舞台に出ていないときは下働きをしていて、日頃から従業員や出入り業者、成人した他の日本人戦犯のなぐさみものになっています。
 色落ちした髪はまばら、おでこは飛び出し、肌はくすみ、胸も尻もしぼんで見る影はありませんが、性格は我慢強く、こんな状況にも絶望しないもって生まれた明るさがありました。優しくて何かと面倒を見てくれるB優を、少年は本当の姉のように慕っていたのです。
 少年の姉は日本兵の拷問されても口を割らずに死んでしまいます。
 売春宿のショーにラスベガスのような豪華な舞台装置は望めません。俳優だって素人です。だったらいっそ学芸会らしくあからさまなネタバレドラマを演じた方が、観客も安心して見ていられるというものです。
 芸能関係者もいるので再現ドラマはお手の物でした。
 残虐シーンが売りなので、そこだけはリアルです。幸いやくざも警官も暴力にかんしては専門家でした。
 殴るのも蹴るのも本気。強姦も、吐瀉物も、流される血もみな本物でした。
 B優はいつ本当に死んでもかまわない屠殺要員だったのです。
「だからって、ひどい。まだリハなのに」
 少年はまた泣くのでした。
「B優は毎回排泄物を食べさせられるのよ。それでも黙って我慢してるのに。あなたは吐くのを手伝ったこともないくせに。汚い、くさい、って」
 と樹理がお姉さんぶってそう言うと、
「今さらそんなことをしてやったって、何にもならないさ」
 少年は吐き捨てるように言いました。
「あいつら殺しを楽しんでるんだ」
「なによ。まだ根にもってるのね」
 樹理が言うと、事情を知っている小澤アリアは苦笑をうかべました。

 先週のことでした。べつのテレビ局が取材に訪れたときに、
「どう、あなたたちは中国の人たちのお役に立っていると思う?」
 という台本どおりの女性レポーターの取り澄ました質問に、樹理が、
「いちばん嫌らしいのは日本人の客よ。最初から最後までこすられどうしで、クリちゃんがおかしくなっちゃう。席に着いているあいだじゅう触り続けているし、おじさんほどすぐにおちんちんをにぎらせたがるの。おしっこがでそうになるとすぐに飲ませろっていうし、直接口を当てようとするんだから。しつこくて嫌になっちゃう」
 と答えて憤激をかったのでした。
「この間なんか舞台まで上がってきて、もう少しでそのまま突っ込まれちゃうところだったんだから」
 なまめかしいというよりは露骨なだけの樹理のしぐさは、どこか人をばかにしているようなところがありました。
「なんなのよ、あなたは。自分がどうしてこんなところにいると思ってるの」
「あたしのせい?」
「まったくもう、これだから嫌になっちゃう。どうせあなたも不良教師の娘なんでしょうね」
 この新人女性レポーターにすれば、日本人の戦争責任が自分たちに負わされているという自覚がない移送日本人なんて、最低でした。
 唇をかんで、せいいっぱいの威厳を見せて、こう言いました。
「皆さんの人生はうまくいかなかったのだからそれはもう仕方がないわ。でもわたしたちには未来があります。あなたはたには日本という国の将来がかかっているの。いくらなんでもそういう態度は無責任じゃないかしら。あなたには国を愛する心がないの?」
 彼女が身をそらすと自慢の胸がブラウスの薄い生地をつきあげ、いきどおりで乳首が立っているのがわかるほどです。
「もう日本人じゃないもん!」
 樹理が無邪気ぶって言い放つと、あとは大騒動でした。コップの水をこぼす、物を投げる、泣いて、泡を吹いてキーキー声を張り上げる新人レポーターをなだめるのは一苦労だったのです。
 収録は中止になりました。
「次は僕の番だったのに。もしこれきりテレビに出られなかったら、君のせいだ」
 思い出して、少年はまた涙をこぼすのでした。
「君が生意気なことをいうからだ。日本人のお客をけなしたりするからだ」
「テレビにでたからって、誰かが助けてくれるってもんじゃないわ」
「舞台じゃ悲劇のヒロインで、可愛いがられてるからって、生意気だよ。日本人をけなしちゃ駄目なことぐらいわかってるじゃないか。おしっこなんか、そんなの馴れててなんでもないくせに……僕はここから出たいんだ。もういやなんだよ。病気になって死んでしまう」
「あんたはいつだってひーひー泣いるだけじゃない。やれ殴られた、歯が折れたって。情けないったら。毅然としてないから、殴られたうえにビール臭いおしっこまで飲まされるのよ。舞台でだってうまく立たないし。昨日だっておとといだって、あたしがうまくごまかしてあげたじゃない。そんな歯の抜けた、みっともない顔を撮られなくって、かえってよかった」
 それでも僕はテレビにでたかったんだ、と樹理を責めて、いつまでも意気地なく泣きつづける玉早をなだめて、
「誰だっておんなじよ。いずれは殺されてしまうんでしょ。だったらこんな暮しでも生きているだけましだわ」
 樹理は言いました。
「なるべく目立たない方がいいの。あなたはもう、体だってボロボロじゃない。お尻の穴も使いものにならないし。このうえテレビ出演までしちゃったら、何をされるか、わからないの。処分されるかもしれないのよ」
 玉早は気圧されたように、ビクッと肩をふるわせます。
「あなたのためを思っているのに」
 樹理はぽろぽろと涙をこぼし、少年を押しのけて立ち上がると、伊鹿の腕を取って、
「さあ、いきましょう。弱虫はほっといて」
 二人に向かって言いました。
「どこへ」
「小裸は夜になるまで部屋から出られないわ。特別室へは、時間がきたら、後でご案内します。それまではわたしの部屋でお休みください」

「ちょうどいいわ」アリアは小声で和了に伝えます。「この子たちの私室は取材禁止なの」
 舞台裏の階段を下りて地下へ、下りて、下りて、下りていくと、コンクリートが打ちっ放しの広い地下室に出ます。
 三越の一階フロアほどもあるでしょうか。
 四方を自動的に水が流れる溝に囲まれ、中心部には三角屋根の犬小屋がびっしりと並んでいました。
 これが少年少女たちの寝室で、報道陣に公開された階上の豪華な個室は客をとるとき専用です。犬小屋は子供ひとりがやっと入れるくらいの大きさでした。内部には藁が敷かれて何か巣穴のようです。縦横に列を成し、しかも十段以上積み重なっているので、危なっかしい梯子を伝ってよじ登らなければ上の部屋へは戻ることもできません。
 周囲の溝に沿って並んだ直径三十センチほどの穴が便所で、溝は洗面所と風呂場をかねていました。
 数分おきに自動的に流れる大量の水が汚れた体を洗い、穴に吸い込まれた余り水が排泄物を押し流します。
 B優が溝のわきで体を洗っていました。
 同じ日本人の制服でも成人女性は上着に銀行員のような紺のブレザーをはおり、下半身は短いのれんを前後に垂らしているだけでした。男性と違って草履を履いていましたが、残念ながら、内股で歩くのはすれ違いざまに指を突っ込まれないか警戒するときくらいでした。
 B優はしゃがんで、溝の残り水をすくって股間を洗いながら、穴に向かって何度も吐いていました。
 自由に使える蛇口は部屋の四隅にしかないのです。
 そこにはやくざや警官が陣取って、むしろを敷いて雑魚寝しています。女子供は怖くて近寄れません。
 大人には犬小屋があてがわれていないのです。
 むしろの上に上がれるのはやくざの情婦か芸能関係者、パチンコ屋の女房ぐらいで、女性や一般人出身者は仕事場の片隅かコンクリートの床にじかに寝るしかありませんでした。
 警官ややくざばかりが目立つのは身体が頑健で、権力意志が強く、すぐに徒党を組んで力を振うからで、社会保険庁や厚生省や他の省庁の役人では、彼らに寄生して生き延びるのがせいぜいでした。
 樹理の両親のような国策に反対する不良教師も戦犯にされたのですが、教師は中国でも嫌われ者でした。職業がばれて嫌われたのではなく、もともと嫌われる性格だったのかもしれません。大半が面白半分に処刑され、誰も生き残ってはいませんでした。
「こんなところに夜までいるのはたまらないな」
 伊鹿三等書記官がふうっとため息をつと、アリアは携帯電話をとりだして夢中でシャッターを切っていました。彼はあわてて、
「やめろよ。あいつらに見つかるぞ」
 といって雑魚寝するごろつきたちを流し見て、アリアに注意をうながしました。
「平気ですよ」樹理がいう。
「これはスクープなのよ」
「つかまったら何をされるか」
「心配ないわ」
 アリアは笑います。
「戦犯じゃない日本人には絶対手を出さないから」
「でも」
「そんなことしたら生かしといてくれないもの」
「もし」
「警官にそんな勇気があれば犯罪になんか手を染めないでしょう」
 部屋の四方を囲む溝に瀧のような水が流れて、アリアの声をかき消してしまいます。

 泣き疲れた顔の少年がフロアに姿をあらわしました。玉早でした。
 彼は十分にまわりを見回してからおずおずとB優に近づくと、樹理に言われたとおり、体を洗うのを手伝ってやるのでした。
 B優は上目づかいで伊鹿のほうをうかがいながら、少年のなすがまま身をまかせていました。
「ありがとう」
 とお礼をいったとたん、「あっ」と声をあげます。
 痛めつけられなれた体はやさしく撫でられるのには敏感なのです。B優は泣きながら、震えていました。
 ついには膝の力が抜けてへたへたと崩れ、軟体動物のようにぐんにゃりとコンクリートの床に這いつくばってしまいました。両目を大きく見開いたまま、体はまだぴくぴく小刻みに痙攣しています。
 B優の肛門は膿んで、ウジが湧いていました。
 それがまたちんぽにからみついて快感だ、などとうそぶいて、ごろつきたちは好んでB優を犯すのでした。
 玉早は自分の肛門が男性器を受け入れられず、いつもつらい思いをしているので、つい興味を示してB優の肛門を指でほじくり、B優に痛い思いをさせてしまい(そのひょうしにB優は正気に戻ったわけですが)、きつく睨まれて、またしゅんとしてしまうのでした。
「ごめん」
 少年は樹理のそばによってあやまります。
「ごめんよ。本当に」
「もういいの」
 顔をそむけたままの少女に無理やり頬をすりよせて、
「君は僕のためにしてくれてるんだ。わかってるけど、つらいんだ。この暮らしが嫌なんだ。だからわがままをいうんだ。ごめんなさい。だからお願い、こっちを見てよ」
 少年は樹理のまぶたにくちづけして、涙の扉をこじ開けます。
 何か言おうとするのに、何も言えないぽかんと開いた少女の口に舌をさしいれ、てのひらで顔を包んで抱きしめます。
 この茶番劇の幕ぎれは唐突でした。
 少年は少女が望んだように体をよせて押し倒し、唇から胸へむしゃぶりつき、呪文のように「好きだよ」と「ごめん」を繰り返しながら、樹理の制服を脱がすと、股間に勃起したペニスをあてがいます。
 舞台では、いつもこっそり肛門に唐辛子をねじ込まないと勃たないのに、と樹理が思ったかどうかは知りませんが、入れやすいように手をそえて、導いていたのは確かでした。
 少年少女は伊鹿の目の前でセックスを始めます。
 かすかに黒ずみはじめた樹理の陰唇にはさまれてせわしなく出入りする少年の性器はゆでたアスパラガスのように生白く、あっというまに射精して果てると、少年は十八番の泣き芸も早々に樹理の鎖骨に頭をのせてすやすやと眠ってしまいました。
 にもかかわらず、樹理は紅潮した顔で、脚をつっぱり、特有の匂いを発散して、逝ってしまったのがわかりました。
 伊鹿三等書記官はうんざりして、B優を抱いてみようかなどといういたずら心すら起きませんでした。

    3
 小澤アリアは携帯電話でスタッフと連絡を取りながら、精力的に取材を続けていました。
 和了はなんだか疲れてしまい、壊れて脇にどけてある犬小屋の屋根に坐って、頭をかかえています。
 樹理は黙って彼を見つめています。
 少女は少年を犬小屋の中に追い込んで、藁でくるみ寝かしつけてから、体を洗い身じまいを整えていました。
「そろそろ行きましょう」
 樹理が言いました。
 いつのまにか時間がたっていたのです。
 アリアに声をかけて一緒に階上へ戻ると、外はもう午後も遅く、宴席にはちらほら客が入っていました。
 伊鹿が探し物をするかのように頭をめぐらすのを見て少女が言います。
「小裸はここにはいませんよ」
 探すつもりはありませんでしたが、彼はつい少女たちを数えていました。それは熱帯雨林の水場に群れる原色の蝶を数えるほどに無益なことでしたが。
 いったい何人の子供がいるのでしょう。
 青蓮閣の日本人の制服は薄暗がりの中ではしどけなく着くずした幼い肉体の白さだけが目につきました。ちらちらと視界をかすめるおぼろげな白は幻のように、確実に性欲を刺激するものの、誰が誰やら判別はつかないのでした。
「特別室へご案内します」
「取材許可がいるのでは?」
「抜け道があります。ついて来て下さい」

 特別室を利用する顧客には年配のお金持ちも多く、ご婦人方は下品な男性客の目に付くことを嫌がるため、エントランスは青蓮閣から離れた目立たない建物の内部にあり、地下通路からじかに各部屋へ向かうようになっていました。
 青蓮閣の特別室は一般の客からは完全に隔離されています。少年少女は抜け道を使って客の相手をしに行くのでした。隠し通路は複数ありました。樹理は舞台裏のセットの一部に見せかけたドアを開けて、「ここからいけます」と手招きしました。
 コロニアル風の瀟洒な階段を上って屋根裏へでると、吹き抜けから下が覗けます。階段を下りるとボイラー室で、そこから死体置き場を通り、病院を抜けてようやく目指す特別室が並ぶ廊下にでました。
 装飾のない清潔な壁。青みを帯びた蛍光色で塗られた天井。強く踏んでも足音を立てない分厚いレッドカーペットを敷いた廊下には他に人の姿はなく、静まり返っていました。
 樹理はこっそり部屋の一つを覗かせてくれました。特別室といえども安全のため、ドアには鍵がかからないようになっているのです。
 ドアは音もなく開きました。覗きやすいように、入口の衝立は部屋の内部からはこちらが見えないマジックミラー構造になっていました。
 照明は明るく、室内のようすが手にとるようにわかります。
 裸の女の背中が見えました。ベッドに腰を下ろして、かすかに肩を震わせているようです。よく見るとひろげた脚のあいだに、少年の頭をはさんで奉仕させていました。ずいぶん長い時間そうしているらしく、汗がうかんだ女性の尻の下で窒息しかけ、ベッドに寝そべった少年は足の指をまげてひきつらせているので、かろうじて生きているとわかります。女はあまり若くはありません。金髪は染めたのかもしれませんが、白いが肌理の粗い、染みだらけの肌は白人特有のものです。

「こんなところで何してる」
 声がするほうに少年が一人立っていました。
 少年は十歳かそこらで、非常に整った体つきをしていました。涼やかな目元まで前髪をたらし、はだしで、上半身も無毛の性器も、皮を剥いたバナナのようにすっぱだかでした。
 堕仁[ダニー]は下から三人を睨みつけ、
「樹理」
 と呼び捨てにします。
「客か」
「あたしのことは、放っておいて」
 樹理が投げやりに言うと、堕仁は肩をそびやかして行ってしまいました。
 本物の美少年は貴重でした。まして日本人には稀な存在なので、表に出さず特別室に隔離していたのです。
 堕仁は高価でしたが引く手はあまたで、甘やかされ、贅沢になれ、わがままいっぱいで、おまけにとても残酷でした。そのぶん弱虫で、情けないほど苦痛に対して耐性がないので、いざ自分が何かされるとなると大袈裟に泣き叫ぶものだから、若い女性には恰好のおもちゃでした。
 おっぱいを吸わせて母親ごっこをするだけが楽しみではありません。
 自らもてあそぶことも、お酒を飲みながら少女と性交を実演させて見学することもあります。
 国際線の客室乗務員などが搭乗勤務の帰りに寄っていくと、目の前に何人か好みの少年をならべて、他のものの助けをいっさいかりず、手だけで何度逝かせられるか競い合うのが恒例でしたが、息も絶え絶えになって泡をふきながら射精する少年をまだ執拗にしごき、こらえきれなくなってくすぐり、舐めて、さすって刺激し続け、少女のように大はしゃぎする裸の女たちのようすはこっそり覗きたがる政府高官のファンも多く、女たちはうすうす見られるのを知っていながら、そのぶん格安で遊べるとあって申し込みは引きも切らないほどでした。
 死屍累々たる惨状を放ったらかしに、その場に堕仁を呼んで、全員で息があがるまで刺激し続けるのが宴の仕上げで、最高の贅沢なのでした。

「あいつは嫌い」
 堕仁を見送った樹理が言いました。
「ここにいるのはよくないわ。行きましょう」
 特別室には他にもいろいろな出し物があります。堕仁は花形でした。年配の客の中には自分では何もせず、見ているだけの人間も結構います。いけないことは他人にやらせて、それを見物して快感をむさぼるのですが、堕仁はセックスをするだけではなく相手をいじめて泣かせたり、叩いたり、髪の毛をむしったり、唾を吐きかけたり、人を貶める行為が得意でした。客の望みのままに、いくらでもひどいことをします。
 生きた猫を殺して見せたこともありました。
 献血ではなく、拷問まがいに限界まで少女の血を抜き取ることもあります。
 堕仁は専門の拷問屋よりやることが不器用で、しかも素人がなれない手つきでするときよりはるかに大胆なので、少年の針で血管をいたぶられる少女の苦痛は、それは凄まじいものでした。
 やりすぎて死んでしまった例もあるそうです。
 若い女性の中には器具からあふれ出した大量の血を見て卒倒するものもいました。しかし、拷問ショーの後で少年を抱きたがらない若い女性は、ほとんどいなかったという話です。
 そんな話を聞いているうちに、伊鹿は小裸がもう死んでいるのではないかと心配になりました。
「だいじょうぶ。殺されるのはたいてい東南アジアから密輸された子供か、間違って送られてきた不良品よ。生意気な子役の芸能人とか、客の相手もろくにできないような、聞き分けのない幼稚園児とか、自分じゃ何もできないくせに要求だけは多い車椅子の少女とか、ぶさいくな知恵遅れとかで」
 さっき堕仁と会ってから、彼女はどこか変でした。
 それになんだかおぞましいことばかり想像させようとして樹理がわざと言っているように思えて、いい気持ちはしません。
「小裸みたいなかわいい子はまだ使い道があるから。車椅子の子のときは面白かったわよ。脚がきかないので、逃げることもできないの。シーツの端をつかんでじたばたするのを追いつめて、脚が立たないくせに、生意気にお尻だけはふれるんだから。かたわが、かたわを犯すの。そりゃあ見物だった。ん? なに」
 伊鹿と小澤アリアは顔を見合わせました。
「刺青を見た?」
 樹理が言いました。
「見えなかったでしょう?」
 伊鹿はわけがわからず、アリアは、樹理にすればいないのも同然でした。
「堕仁のことよ。彼、ほんとうは左腕のひじから先が全然ないの。わかんないでしょ。二の腕に刺青がしてあってそれが光を反射して、空中に腕があるように見せているの」
 樹理は言います。
 青蓮閣にはおかかえの刺青師がいて、彼は肌を極彩色に飾るだけでなく、特殊な白彫りで傷つけた肌の模様で光を屈折して空中に幻像を投影するのだと。
 その刺青は実際にはないものをあるように錯覚させ、そればかりかあるものを消して見せることさえ可能なのでした。
「堕仁の義手はじっさいにはバイブレーターになっていて、いつもあんまし役に立たないおちんちんの代りに、女の子を犯すときに使ってる。すっごく太くて、振動がしびれるし、ぐねぐねで、だけど見えないからよけい怖いの。刺青のおかげよ。凄いでしょ。全然わからなかったでしょう? かたわじゃ、いくら美少年でも価値がないですもんね」
 と熱狂的に言います。
 それは奇跡のような技術で、体を美しく見せるのはもちろん、顔かたちを変えて、まったく別人に仕立て上げることもできるし、姿が見えないようにもできるらしいわ。
 整形するわけじゃないから後で崩れる心配はないし。
 服を着たら消えちゃうけど。
 顔は化粧をしなけりゃ平気。
 美少年がいないぶん、透かし彫りでペニスがあるように見せかけて、美少女をそれらしく仕立てて使うことも、日本人を白人にすることも、東南アジアの子供を日本人に見せかけることだってできる。
 レーザーなんかじゃなく、手彫りで、それはそれは痛いらしいけど、まったく別人になれるのよ。
 だって、今殺されるのは私たちじゃないけれど。
 子供の密輸は規制が厳しくて、車椅子の子はどうなったのか、あたしだっていつどうなるか、わからない……
 心配しないで。
 小裸は、きっと犬だか、サルだか、ブタだか、鳥の相手をしているだけよ。もしかしたらネズミかゴキブリかも。
 特別室では動物愛護団体の目をぬすんで、こっそり獣姦ショーが行われているという噂があったのです。
「ああでも、電気ウナギだったらまずいタイミングね。しばらくは足腰が立たないし、話をしようにもうまくしゃべれないでしょう。水槽室じゃなきゃいいけど」
 樹理はうわごとのようにしゃべり続け、先へ行ったアリアが小裸を見つけたことを伝えると、憑き物が落ちたみたいに呆然として、黙り込んでしまいました。

 小裸は鳥芸人の部屋にいました。
 鳥芸人は体中に這わせた青虫やイモ虫、脚をむしったバッタ、ミミズ、ウジの他にも、すりつぶした果物や蜜をぬった小裸の体を、客の目の前で小鳥についばませていました。
 小鳥はよく仕込まれていて、乳首や陰核を上手につつきます。
 小裸は敏感な部分をつつかれるたびに身をよじっていました。
 猿轡を外されているのでよほど歯をくいしばっていないとかすかな声がもれるのですが、小裸がやせ我慢をするのを面白がって、大勢の客が「声をたてたらお仕置きだ」と脅かしています。
 日本人の団体客でした。女体盛りとまちがえて、どこかの建設会社の慰安旅行が大金をはたいて貸し切ったのです。
 少女ひとりに三十数人では満足できない、と次々に要求をエスカレートさせ、無理難題をふかっけて、鳥芸人に「おまえじゃなまぬるい。俺にやらせろ」と言いだす始末。
 青蓮閣では接待がうまくいかなければ責任は少女が負わされます。どんな仕打ちでもおとなしく受けるしかないのでした。
 客の要望で小裸は口いっぱいに青虫をくわえ、性器と肛門にもぎゅうぎゅう押し込んで、鳥芸人は小鳥の大群をけしかけます。
 こうなると、たいてい収拾がつかなくなって、男たちは大声を出して騒ぎだし、少女は身をよじって金切り声をあげ、傷を負って、血を流すことにならなければ幸い、青虫の色素で染みだらけになるのは間違いありませんでした。
 払ったんならやらなきゃ損だ、と虫の汁まみれの小裸に何人もの男が挑みかかります。酔っているので人目なんか気にしません。
 小裸が性交するところを実際に見るのは初めてでした。
 あれは昨日の小裸だろうか。伊鹿はふと、考えていました。刺青の話を聞いたからかもしれませんね。
 とっかえひっかえ何人もの男に抱かれ、もとからの青虫汁や蜜に加えて、汗まみれ、よだれまみれ、いかにも演技な鼻にかかった声であえぎながら、身をよじり、性器から精液をあふれさせる小裸の姿を見る限り、体にはまだ何の手も加えられていないようでしたが、じつは巧妙な偽装がされていて、彼女を昨日と同じ小裸と思わせているだけだとしたら、どうでしょう。彼には判別する手段がないのでした。
 男たちは小裸を奪い合い輪をかけて大騒ぎです。
 宴会はそのあと三時間も続きました。

 特別室から戻ってきた小裸は、踵までべとつく蜜と小鳥も無数の足跡を洗いおとし、湯上りの肌から石鹸の匂いをさせていました。伊鹿三等書記官を見つけると小走りに駆けよります。疲れたようすも見せず、
「がんばったの。見てくれた?」
「うん」
 最後まで泣かなかったものな。
 頭をなでてやると小裸はにっこり笑います。
「ありがとう」
 小裸が笑うと、生えかけの永久歯が歯茎の上でキラリと光るのに、彼はそのときはじめて気がつきました。


男の森の小裸――3へ)

【事務局注】
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このため、先頭エントリ部分のみトラックバック/コメントを受け付けるとともに、先頭以外のエントリではトラックバック/コメントを受け付けないようになっています。
これはエントリーblogのCGIの仕様上の制限に基づく特別措置であり、「男の森の小裸-XX」を全て合わせて1ファイルの単独作品であるとして、先頭エントリ部分にのみトラックバック/コメント講評を頂戴いただけますようお願いします。

なお、正式タイトルは「男の森の小裸」で、XX部分の数字はエントリ分割に伴う、事務局による補足的なものです。

22:55, Tuesday, Sep 15, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 携帯

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