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(男の森の小裸――2から)
4 「困ったことになったわ。ちょっと」 電話にでていたアリアが不機嫌な顔で言います。 「どうかしたんですか」 「スタッフがホテルで足止めされているのよ」 本当なら今頃は上海市内の撮影を終えて、青蓮閣に向かっているはずでした。 現地のコーディネーターを通しての話なのでもう一つはっきりしないが、どうも大規模なデモがあるらしく、取材が規制されているのだとか。 「抗議デモですか?」 「さあ。わからないわ。領事館からは何か聞いていないの?」 「特別何も。あれば連絡があるはずですが」 携帯をかけても領事館には通じません。 「青蓮閣での撮影は無理ね」 と言った小澤アリアの顔には、不測の事態になれたジャーナリストらしい、ふてぶてしさが戻っていました。 「インタビューの許可は撮ってあるのだから、何人かホテルへつれていけないかしら。小裸と、もう二三人。ホテルで話させたほうがいい気がするのよね。そのほうが本音も聞けるでしょうし。どう思う」 「外へでられるの?」聞きつけた小裸は大喜びです。 「どうって言われても、危いんじゃあないかな」 「デモはこっちのせいではないんだし、取材には予定ってものがあるのよ。相手の都合にばかり合わせてはいられないわ。少しくらい強引にやらなきゃならないこともある。だって、これは日本人の問題なのなんだし、時間までに戻せば文句はないはずよ」 思い立ったら独断専行。 信念が強すぎるのが玉に瑕。 しかしありあまる実行力が小澤アリアの持ち味でした。 ホテルで取材の続きを収録すると聞いて、吉兆と花花が顔を輝かしたのは言うまでもありません。 日本人の制服で表を歩くわけにはいかないので、三人にはコスチュームプレイ用に常備してある小学生校の制服を着せました。ランドセルは背負わせず、小さなリボンがついた通学帽をかぶせ、子供たちとは手をつないで、アリアとふたり保護者のような顔をして青蓮閣を出ます。 「迎えに来てくれたのね」 小裸は言いました。 「ほんとうに、ありがとう」 外交官だから救ってくれると思っているのかもしれない、と彼は考えました。当然だろう。こんな境遇にいれば誰だってそうだと。「私服のガードマンが見てみぬふりをするのも僕が書記官だからだ」小裸の期待と、自分の考えが食い違っていてもしょうがない。 だからって自分が何をしたいのか考えてみても、さっぱり見当がつかないのでした。 これまでの生活を顧みても、何かあることを強く望むような習性はなく、そんな機会も与えられたことがありませんでした。 小裸は勇敢にも私をたすけて欲しいと、彼に向かって訴えていたのです。 もっとも小裸の悲しげな目の色は、それを本気で信じているようには見えませんでしたが。 諦めと希望がいりまじったとでも言いましょうか。小裸の目の色はビルの谷間に見え隠れする雲の黄金を映しています。 やがて空は鈍色に変わり、わずかに残った雲の輝きもしだいに薄れ、あたりに夕闇が迫ります。
デモが始まっていました。そういえば青蓮閣の中にまで、男女の学生の先触れが発する金切り声が聞えていました。シュプレヒコールと怒号と群集の足音が地鳴りのように徐々に近づいてくるのがわかります。 通りかかる人々の顔もいつもとは違っていました。 外国人観光客の姿はありません。 吉兆と花花は遠足の小学生みたいにはしゃぐので、おとなしくさせるのが大変でした。 なにしろ青蓮閣にフリルのついたキャミソールや貞操帯はあっても普通の下着は置いていないので、少女たちは小学生の制服の下はノーパンでした。小澤アリアがノーブラなのがテレビでばれても問題ないでしょうが、もし人込みにもまれて肌が露出し、下着をつけていないことがわかって青蓮閣を脱け出した戦犯の子だとばれたら、ただでは済まないでしょう。 三人は見るものすべてが珍しくてしょうがないのでした。上海に送られて一年近くたちますが、初めて街に出たのです。 子供が嬉しくて、じっとしていられないようすを見るのは楽しいことです。 ですが警戒は怠らないよう注意しなければなりません。 南京路からあふれ出したデモの参加者が路地を埋め、行くてを塞いでいたのです。 アリアは花花と手をつなぎ、伊鹿は小裸と吉兆の手をひいて、人の流れに逆らわないよう注意しながらゆっくり歩きました。 外灘へ抜けると群衆はさらに数を増しました。 まばゆいイルミネーションが闇を照らし始めると、古い建物や新しい建物が渾然一体となって、人々の顔は区別がつかなくなり、逆に子供たちの小さな体が目立ちます。何を見ているのか、何を考えているのか、デモの参加者は自らの声と密度と運動に興奮状態をつのらせていました。 まだ殺伐とした雰囲気はありませんでした。しかし、これだけの人数が集まれば何が起こるかわかりません。 アルマーニもカルティエも軒をつらねた有名ブランド店はどこもシャッターを閉じていました。格子状のシャッターは中が覗けるだけによけい空虚な感じです。 どこを見ても人人人。人の波でした。 そこからも、ここからも、わらわらと群衆が湧いてきます。 もはや逃げ道がなくなるほど。 外灘が埋めつくされるのは時間の問題でした。交通は遮断され、取り残された車は立ち往生するしかありません。遠くでサイレンが鳴るのが聞えたような気がしました。耳を澄ますと、人々の騒ぐ声にかき消されてしまいました。
見るからに不穏な空気をただよわせた一団が、建物の前の通りを占拠していました。聞えてくる声が殺気立っていました。 急いで通り抜けようとすると、隣にいた吉兆が、ビクッと身をふるわせ、目を凝らし、立ち止まりました。 「姉さん」 吉兆は交差点の歩道橋の上に、青蓮閣から請け出されて幸せに暮らしているはずの姉の姿を発見したのです。 彼らは(驚いたことに官僚主義ではなく)相次いで倒産したベンチャー企業を糾弾していました。こぶしを突き上げ、腕をふりまわし、口々に何か叫んでいました。 春平は身請けした青年実業家のIT会社が倒産したので債権者が差し押さえたのです。 彼らもずいぶん損をしたに違いありません。それでも衰えない購買意欲と消費行動が、世界中のハイエナのような企業家が中国を付け狙う理由なのでした。 春平は裸でした。髪をふり乱し、体は薄汚れて、手足は煤で真っ黒になっています。もう長いことそうして引き回されていたらしく、哀れな姿を人目にさらすことにもなれきって、抵抗するそぶりさえ見せませんでした。 債権者の男は怒りにまかせて春平を小突き、つばを吐きかけ、噛みつかんばかりにわめきます。 それでもまだ怒りが収まらないのか、薄っぺらな胸をつかんで思いきり爪を立てました。どうしても春平に悲鳴をあげさせたいのでしょう。 「姉さん」 吉兆がか細い声で、また言いました。 首に縄をかけられた春平が、両脇から別の男に肩をつかまれています。男は春平を肩の上まで持ち上げました。 「姉さん!」 大の男が二人がかりで手すりの上から投げ落とすと、春平は歩道橋にぶら下がり、ギリギリ足は地面につかず、一瞬で首の骨がはずれ、目玉がとびだし、失禁し脱糞しながら息絶えます。 一瞬のことだったので多分苦しまずにすんだでしょう。顔はあっという間にどす黒く変わり果てました。 吉兆が悲痛な叫びを上げました。 人々の注意を引かないわけがありません。 あわてて口をふさごうとする小澤アリアの手をふりほどいて、吉兆は姉のいるほうへ駆けだしました。 「日本人!」 誰かが叫びました。 自動車ショーか宝石の見本市に雁首を並べていそうな、いかにも亡者面した債権者の小父さんが、吉兆の制服の襟をつかんで引き倒します。 足下に転がった吉兆はスカートがめくれて下半身がむき出しです。それを見てすかざず、 「青蓮閣児童」 小母さんが叫びました。 「戦犯!」 「児童福祉」 「莫迦子福嗣小水垂」 「我不饒恕」 「我要去殺日本人」 そうやって我先に言い立てながら、例外なくあさましげな顔つきをした若者が、吉兆に向かって手を伸ばします。ちょっと遅れて小父さん小母さんも。 いたたまれなくなった小澤アリアが逃げ出しました。 誰ひとり彼女には手を出しません。 「見此処」 一人が伊鹿たちを指差すと、 「児童二名」 「青蓮閣児童」 「戦犯!」 わらわらと人だかりができて、三人をぐるりと囲みます。 「傲慢不遜強欲小人」 「非道日本人」 というお決まりの唱和に続き、 「中華人民共和国万歳!」 若者が叫びました、 「絶滅日本人!」 「是々非々」 「非!」 男が倒れている吉兆を蹴り上げました。 「止」 「為何?」 「個娘是青蓮閣児童」 と男は吉兆を指差します。 「盗人打擲」 「不。不対。那是功夫足球」 「絶望出場世界杯」 「下手糞」 「決意不退転」 男は吉兆の髪をつかんで引き起こし、センターラインまで蹴り飛ばしました。 服は脱げて、少女は白目を剥いています。顔や背中にはべったりとはりついたような擦り傷が見えました。 「やめろ」 伊鹿三等書記官は必死で叫びました。 「その子に手を出すな!」 男は「芬」と鼻を鳴らして、吉兆を首吊り死体の下まで引っ張っていくと、債権者の目の前で高々と頭の上に差し上げた吉兆を汚物まみれの路上にたたきつけ、 「経済因果不可制裁。失金自業自得。我不壊」 大音声で呼ばわりました。 「不論誰都是大家小?」 企業買収と株価操作で儲けたあげくインサイダー取引で指名手配中の、倒産企業の社長か何かだったのかもしれません。 血反吐を吐いてのたうちまわる吉兆を、悠然と踏みつけにすると、 「塗糞債権者。塗糞国家。塗糞中国人民」 と言って歩み去ろうとします。 「火病!」 「背反祖国的人間」 若者がそしるのに耳をかすこともありません。 路上にうずくまる吉兆を助けに行こうとしましたが、人の壁に阻まれ近づけません。しかも伊鹿は足手まといの二人を両手に抱えています。身動きがとれません。 黙って吉兆が歩道橋の上につれて行かれるのを見ているしかありませんでした。
「このままでは、嬲り殺しにされるのは時間の問題だ。どうすればいい」伊鹿は考えようとしましたが、この状況では頭がまったく動かないのでした。 花花はさっきからずっと泣いていました。 伊鹿が抱えた小裸と花花をねらう中国人から守って、さらに強く二人を抱きしめると、小裸の息があたって鳩尾が熱いほどです。花花は地面にぺたんと尻をついて彼の足にしがみついたまま離れようとしないのでした。 「近寄るな。俺は外交官だ。あっちへ行け」 伊鹿三等書記官は必死で叫びました。 頭越しに腕が伸びてきて小裸の襟首をつかんだかと思うと、そのまま引き倒しました。 身を挺してかばうと、とたんに四方八方からこぶしや蹴りの雨が降り注いで、 「アイ・アム・ディプロマット」 尚も叫ぶ三等書記官の頭めがけて、プラカードが容赦なく振り下ろされました。 「停止停止。プリーズ」 「児童欺瞞」 「日本人卑怯」 「やめろ」 と言っても聞きません。 「やめるんだ、ちくしょう」 何本もの腕が小学生の制服を引きむしり、裸にした少女を路上でひっぱりまわしました。 群集は、男だけでなく女も、学生も年配者も、夢中になって小裸を打擲し、唾を吐き、蹴りを入れ、大の大人が寄ってたかかって、無防備な小裸をいたぶりました。 あげく泣き叫ぶ少女を鬼の首でも取ったように頭上にもちあげ、口々に叫ぶのでした。 「青蓮閣児童!」 「児童欺瞞。交付青蓮子!」 「悪徳日本人」 「これは犯罪だ」伊鹿はうめきます。「イッツ・クライム」 「珍説多母神」 「七生報国陰茎不能(笑)」 股間に蹴りを入れました。 「報復報応」 彼をとりおさえた誰かが耳元で囁くのでした。 「舐舐」 「可陰唇!」 伊鹿の頭を膝蹴りして、また唾を吐きます。 「青蓮閣児童!」 「子宮腐女子」小母さんが言い募ります。 「児童欺瞞。交付青蓮子!」 「悪徳日本人」 「知ッテルカ?」 汚い言葉が飛び交う中、灰色の帽子をかぶり作業服を着た中年の男が片言の日本語で、伊鹿に話しかけました。 「青蓮閣児童、ワタシタチノモノ。日本人汚イ」 「いやだめなんだ、この子はちがうんだ」 身分証明書を取り出してもさっぱり動じることはなく、外交特権を知らないんだ、と伊鹿は残念に思いましたが、 「やめてくれ。たのむから。ちょっと待って」 と手を合わせても、聞く耳はありません。 「コノ子、ドコノ子。ワタシノ子。日本人汚い。ワタシたちの賠償まで盗むのか。アナタ、コノ子、渡しなさい」 男は主張し続けました。
そのとき、颯爽と現われたグリーンピースの勇者たちが救出してくれなければ、彼らの運命は決まっていたでしょう。 いざ殴り合いになると白人は強い。まるでブルドーザーです。 伊鹿は思い知りました。刺青の腕は棍棒のように太く、中国人なんか、ひとたまりもありません。 「ファック!」 「マック!」 「ケンタッキー!」 尻餅をつき、四つん這いで逃げ出しながら、悪罵するだけでした。 寸足らずな小父さん小母さんはいうに及ばず、虚勢を張って踏みとどまろうとする若者たちも、あっという間に蹴散らしてしまいます。 「逃」 「三十六計走為上」 「可孫子!」 「撤退!」 「可欧米!」 群集が遠巻きになった頃合を見て、すばやく少女二人を担ぎあげ、黄浦公園に運んで彼らを茂みの中に隠すことに成功したのです。 疾風怒涛の力業でした。 制服の上着の切れ端に(やっとのこと取り戻したものです)、袖を通しただけの小裸が、地面に這いつくばってハァハァと息をついているかたわらで、花花はまだ泣きじゃくっていました。 「もうひとりは?」 と聞いても男は肩をそびやかすばかりです。 グリーンピースも吉兆までは助けられませんでした。今頃は歩道橋に吊られているかもしれないと思うと、胸が痛みました。 男は流暢な日本語で、 「おまえさんにはこれが必要だろう」 と護身用に持っていたシグの9ミリオートマチックを彼に渡して言いました。 「使い方はわかるな。ここを、こうして」 弾倉には弾が込められています。安全装置をはずして、引鉄を引けば簡単に人を撃ち殺せます。 「使うときは、よく考えてな」 花花は運動靴以外、何も身に着けていません。それも片方だけです。これでは街を歩けません。 公園の草むらにいつまで隠れていられるか。少し考えてみればわかるはずです。外灘には何万ものデモの参加者がひしめいています。彼らが置かれている立場はまだ十分に危険でした。
思えば毛沢東は偉大でした。 「虫けらの虫けらによる虫けらのための衆愚政治を否定して、全体主義を文化と生活と人間関係を破壊するためだけに推し進めようとしたんだからな」と、伊鹿三等書記官は鼻血を拭きながら考えていました。 中国人民を野放しにしたらどうなるか。十億の犯罪者を解き放つことだとわかっていたから、厳重に共産主義の檻の中に閉じ込めて置いたのだ。文化大革命万歳! ああ。文化大革命が挫折することなく続いていればなあ。そうしたら今の世界だって、もう少しましなものだったかもしれませんね。 毛沢東語録の無意味なアジテーションが言い続けている内容は唯一つでした。 「打倒我利我利亡者老若男女」 人間は洗脳し白痴化しただけではまだたりない。意志をくじき、徹底的に無力化しなければならないのである(イスラム原理主義者がやろうとしているのはそれだけれども、欲望の馴致が全然たりません。虫けらは虫けらの巣に帰れ。欲惚けた髭面をお天道様の下にさらすな。女たちの顔をベールで覆うのと同様、旦那がたのだらしない珍棒を去勢しなければ、一万回の自爆テロも所詮は無駄な足掻きでしかないでしょう)。 大衆とは組織化され無力化された痴呆状態にある人間である。大衆を大衆それ自身の鉄壁とすること。さもなくば人民大衆はすべからく犯罪者となるだけである。 黄土高原全体にコンクリートを打って固めなければ黄砂の飛散は防げない。 しかしながら文化大革命は挫折し、イナゴの大群が解き放たれました。まさに黄禍です。 %uE984A7小平の陰謀が成功したおかげで地上は虫けらどもに食い尽くされ、薄汚いドブネズミの巣と成り果てたのでした。
「ワット?」 グリーンピースの男が叫びました。 懐中電灯の光が彼の顔をまともに照らし、それから他の二人、伊鹿、少女たちと順番に照らしました。誰何したのは騒ぎを聞いて駆けつけた武装警官でした。彼らはデモを遠巻きに警戒していたのでした。 「ワイ!」 英語と中国語がちゃんぽんにとびかい、交渉と恫喝と応酬のすえに、最後に若い警官が通りのよい日本語で、さっきから黙ったままの伊鹿三等書記官に向かって、こう言った。 「この子らは中国人民の財産だ。盗むことは許されない」 「そんなことは」 言い逃れはできません。青蓮閣の子供を無断で外に連れだせば、それだけで公序良俗に反する罪になります。これは外交問題でした。 尚も武装警官とグリーンピースの押し問答はしばらく続きました。群集はどうやら公園からは締め出されているようです。 ようやく交渉が進展した模様で、警官と環境活動家が笑顔で握手を交わします。 グリーンピースは賄賂に小裸を差しだしました。その代りに乱闘騒ぎは不問に付すというわけです。 武装警官はズボンだけ下ろすと、さっそく小裸に挑みかかりました。 「好、野鶏小子」 小裸はぐったりとして、あきらめていたのか、大人たちのされるがままです。 もう一人の警官だって待ってはいません。すぐさま続いて加わると、同僚が挿入しただばかりの同じ穴に、強引に突入します。 「少々」 小裸の中はさすがにせまく、警官二人をいっぺんに受け入れるのはひどく苦しそうでした。 グリーンピースは三人がかりで、入れかわり立ちかわり花花を犯します。武装警官が少女を犯すなら、彼らもそうしなければ交渉は成立しません。いざというときの信用の問題です。小太りで肉付きのいい花花は大柄な白人の相手にはうってつけでした。 日本人のものとは比べものにならない巨大なペニスが少女の口と性器と肛門を忙しく出入りする光景は、ボリショイサーカスの熊のダンスか、雑技団の新作アクロバットだと言われればそう見えないこともないでしょう。 ただし蹂躙される少女からは、いつまで待っても鳩も、旗も、贋物の花束すらでてこないので、子供には退屈な見世物だったかもしれません。 ずいぶん長い時間が経過したように思えました。気のせいかイルミネーションの光も薄れ、デモの喧騒も少しは遠ざかったように感じられます。大量に失血のせいか、それとも本当に夜が暗さを増したのか、伊鹿にはどちらとも判断がつきませんでした。 警官と環境活動家たちは相手を換えてもう一度。さらに二度。三度。 少女の吐息と、擦れあう性器が立てる淫猥な音に混じって、 「野鶏[ヤーチー]、野鶏[ヤーチー]」 と歌うように、うめくように、いい調子で合わせる声が、子守唄のように聞こえてきます。 「好少女」 「再一次、小裸」 「用舌頭」 「野鶏、野鶏」 「好好野鶏」 だんだん自分は眠っていて、夢の続きを見ているような気がしてくるのでした。 武装警官はやっぱり小裸が恋しいと、どんぐり眼で訴えるので、もう何度目の交代か、グリンピースが腰を引くと、開ききった性器から精液がこぼれます。 これなら二本同時でも、それほどきつくないでしょう。 「原爆子笑止」 「巴巴巴ッ」 「消息不明拉致被害者」 「丁!」 武装警官二人は笑い合って、小裸の顔にカメムシのように臭い汁を塗りたくり、「これで仕上げは終わった」と、小裸に向かってウインクするのでした。 グリーンピースのごろつきたちが、血と汗と泥で汚れ、精液と涙にぬれた少女たちの裸の胸に世界野生動物基金のピンバッジ(パンダの絵柄)を突き刺して立ち去ってしまうと、武装警官は「坊ちゃん一緒に帰りましょ」といった風な鼻歌を歌いながら、外交官と少女二名を無事、青蓮閣まで送り届けました。 伊鹿は自力で歩きましたが、小裸と花花は死体袋に隠して運んだのです。 武装警官は問題を起してもすぐ揉み消せるように、携帯用の死体袋を持ち歩いていたのです。
(男の森の小裸――4へ)
【事務局注】 この作品は、送信された作品ファイルサイズが非常に大きく、1エントリ分で作品全てを表示することができないため、事務局側の判断で複数エントリに分割していますが、全て合わせて単独の一作品として応募を受け付けた作品です。 このため、先頭エントリ部分のみトラックバック/コメントを受け付けるとともに、先頭以外のエントリではトラックバック/コメントを受け付けないようになっています。 これはエントリーblogのCGIの仕様上の制限に基づく特別措置であり、「男の森の小裸-XX」を全て合わせて1ファイルの単独作品であるとして、先頭エントリ部分にのみトラックバック/コメント講評を頂戴いただけますようお願いします。
なお、正式タイトルは「男の森の小裸」で、XX部分の数字はエントリ分割に伴う、事務局による補足的なものです。
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22:57, Tuesday, Sep 15, 2009 ¦ 固定リンク
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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