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学校からの帰り道、ささやかな商店街を抜けて俺は家路を急ぐ。今日はバイトはないし、ゲームに没頭するんだ。こういうとき一人暮らしはいいね。晩飯も面倒だし、パンかなんか買って帰ろう。 スーパーから流れる有線がやかましい。この曲、何だ? 男か。アイドルなのは間違いない。バカみたいに明るい声で、バカみたいな歌詞を叫んでる。
無力な〜自分をーせ〜めなーいで〜♪ 明日は〜かがや〜く〜♪
俺、こういうの嫌いなんだよね。 空は重く暗い色だ。まだ四時にもならないのに。そういえばテレビで台風が近づいてるとか言ってたな。 ひと雨くるのか。 「きゃっ!?」 俺の前を歩いていた女の子が、おかしな声を上げた。 立ち止まって、自分の胸の辺りをぽかんと見つめている。 ……なんだ? ぽつ。
「ん、降って来やがった」 頬に冷たいものが当たった。大粒だ。やっぱり台風の影響なのか。 「わッ!?」 おっさんが叫んで、立ち止まった。片足を上げたまま、足元を凝視している。変な格好だ。ガムでも踏んだか。 ぽ、ぽ、ぽ。 ああ、降って来やがった。って、ほんと大粒だ。 今日のは濡れてもいい服だから、まぁいいや。洗濯するだけのヤツ……、 「ん? ……ん!?」 俺は自分の上着を二度見した。 洗いざらしで少し色褪せた黒いパーカーの袖に、白い粒粒がくっ付いている。そして動いている。ねと、ねと、ねと。こうゆっくりと。 「はぁ!?」 ぽ。 ぽ。 ぽ。 ねと、ねと、ねと。 次々と白い粒粒が、黒地に落ちてくる。 「うわあああああ! なんだこれッ」 途端、ざああああああっと白い粒粒が、滝のように降ってきた。 俺の悲鳴を合図にするな! ああ、土砂降りだ! 目の前の女の子が頭を抱えながらしゃがみ込んだ。と、ソッコー立ち上がる。くるっと反転してこっちを向いた。どうしていいか判らないんだな。硬く目と口を閉じて、あり得ない雨に耐えている。ごめん、なんか面白い顔。 さっきのおっさんが、勢いよく駆けだした。スーパーに逃げ込もうとしているのか。だけどぐちゃっと踏み潰した白い粒粒に滑って、背中から見事にこけた。あおむけにひっくり返ったおっさんの顔面に、容赦なく粒粒が落ちてくる。願わくばどうかおっさん。口だけでも閉じていますように。
認めたくないが、なかったが、もう認めるしかないだろう。 雨として降りまくっているのは、ウジ虫だ。生きて動いているウジ虫だ。何万何億何兆ものウジ虫が、滝のように降ってくる。 スーパーに逃げ込む人、人、人。ウジ虫まみれの人の群れ。 スーパーの中から、金切り声。何かがガシャンと倒れる音、どさっという鈍い音。また金切り声。今度はやまない。長く長く尾を引いて……おい、ちょっと長いな。大丈夫か。
目の前で立ちすくんだままの女の子を助けようかなとか思ったけど、でもどうやって? 相変わらずギュッて変な顔してるし。なんかプッて噴きだしそうになる。 おっさんを起こしてやろうかとも思ったけど、一人で転げ回って乾物屋の軒先に避難していたし、ん、痙攣してね? まぁいいか。 女の子だよ。それより女の子。ずっとああやって動かない女の子。 女の子に向かって、とりあえず歩こうとした俺は気づいた。首の後ろが重い。 俺、今日、パーカー着てたんだっけ。……バカだなぁ。ザックザクなんじゃね? 髪とか顔とかお構いなしに、ねとねとねととくっつくヤツラを振り払い、振り払っても追いつかないけど振り払い、俺は女の子へと足を運ぶ。靴底から伝わる、ぶちゅっとした感覚に気が遠くなりかけるけど、頑張って歩く。気を付けて、転ばないように、慎重に。 襟足や袖口から侵入したウジ虫が遠慮なく肌を這いまわる感触がするけど、それは気にしない。気にしたって始まらない。気にしたら、気にするな。 視界が半透明だ。白っぽいカーテンがかかってるようだ。 ざあああああああああああああ。あああもうどんだけ降るんだよ。 傍に来た。女の子に声をかけよう。でも口を開けたくない。湿った空気と生臭い柑橘系にも似た臭い。口開けたら確実に吐く。 これは困った。あはは、困ったな。 俺、今日、ゲームできないかもしんない。
僕ら〜にー降りそ〜そ〜ぐー♪ 明るい〜未来の〜ひーかり〜♪ 有線、まだ鳴ってたのか。なんだ、まださっきの歌か。なんて歌詞だよ、まったく。 やっぱり俺、この歌嫌いだ。 声に出して大笑いしそうになるのを懸命にこらえて、女の子の横に立った。 やっぱ口は開けられない。入ってくるもん。臭いだけじゃなくて。 代わりに、女の子の肩に手を。 あ、やっぱ無理。 ウジ虫、てんこ盛り。触れない。
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受信: 20:46, Monday, Dec 07, 2009
» 【0】土砂降り [もけもけ もののけから] × 文章は上手いと思います。臨場感を追求された結果と思われます。ただ、この内容だけでは…B級ホラー映画の一部にしか思えません。オ�... ... 続きを読む
受信: 22:01, Monday, Dec 07, 2009
» 【0】土砂降り [峠の塩入玄米茶屋/2009から] × この話自体は気持ち悪いが、遺伝元に頼り過ぎ。遺伝元がなければ成立しない話で、これだけで独立した一話完結とは言い難い。遺伝元から考えれば、降ってきた蛆は人喰いな訳で、はっきりそれとわかるような記述を挟んでも良かったかも。女の子の様子が変わっていくとか、 .. ... 続きを読む
受信: 19:41, Monday, Dec 21, 2009
■講評
昔見たホラー映画でおかゆの中の米粒がウジ虫に変わるシーンがあったなぁ…。 あれ、でもこれ遺伝元「ガブリエラーゼ」? こんなに大量に蛆が先に来たら、人類なんてあっちゅう間に一掃されるんじゃ…。
まぁ、ビジュアル的にはすっごく嫌ですけど…。
倒れてる女の子にもう一押し、これがタダの蛆ではないとはっきり予感させる物があれば良かったような…。 ちょっと前に魚が降って来たってニュースを思い出しました。
ビジュアルの嫌悪感 1 書きかけ感 −1 |
名前: ほおづき ¦ 15:17, Monday, Dec 07, 2009 ×
素直に厭です。 さらっと書いてある感がするので、さらっと読んでしまいましたが、ものすごく消耗しました。なんだかしばらく、白いご飯が食べられそうにありません。
*嫌悪感+1 *インパクト+1 |
名前: げんき ¦ 22:47, Saturday, Dec 12, 2009 ×
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QRコードの中に 潜む実話怪談

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