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あなたの気持ちを知りたくて
「愛してる…いつか結婚しよう」
「えぇ…貴方のお父様がお許しになった時に…」

それがいつもの俺たちの台詞だった。

俺の彼女――悠子は大手の銀行に勤めている。
29歳になるがそんな年齢を感じさせないほど若く美しかった。
腰まで綺麗に揃った烏の濡れ羽色のような黒髪。白磁を思わせるような白い肌。すらりと伸びた四肢は細く、大きく澄んだ黒い瞳がいつも艶かしい視線で俺を見つめる。
 昔からチビ・デブ・不細工などと人並み以下の容姿で周囲から馬鹿にされてきた俺にも優しい笑顔で対応し、ダメ元で付き合いをかけたら信じられない事に悠子は照れたように微笑みながら交際をOKしてくれた。
しかし、こんな俺でも家柄だけは良かった。実際悠子の勤務している銀行の頭取の息子なのだから。最初はお金目当てとも思ったが、悠子は時間の限り俺に尽くし、また俺も悠子の欲しがる物は何でも与えた。その度にいらないと突っぱねる悠子を見て、お金目当ての交際ではないのだと確信した。

「お父さん、結婚したい人がいるのです」
交際から一年が経ったある日、俺は意を決して父に打ち明けた。
悠子が如何に素晴らしい女性なのか。どれだけ自分を思ってくれているのかも含め、交際が始まってからのことを事細かに説明した。
一通り話を聞いた父は黙って席を立つと、書斎から「ある物」を目の前のテーブルの上に静かに置いた。
「その女にこれを試してみなさい」
そう言って10センチ程の小さな小瓶を渡された。
瓶の中には何やら小さな虫が一匹、もぞもぞと蠢いている。ロクに空気もないのにどうやって生きているのかは分からなかったが、目を凝らしてよくみるとどうやら蟷螂のように見えた。
「蟷螂の…子供?」
恐る恐る見つめる俺に父は静かな口調で話し続ける。
「これは今、政財界でも滅多に手に入らない代物だ。…なんでも【本心が分かる】という効果をもたらすらしい。とある地方の呪術師から得たものだ。もう殆んど残っていないそうだが…こんな事もあろうかと今まで使わずにいたんだよ」
「何でそれを悠子に飲ませなければならないのですか? そんなに心配だったら探偵でも何でも雇えばいいだけの話じゃないですか」
「お前はまだ世間と言うものが分かっていない。頭の良い女ほど探偵を雇うという事は容易に想像がつくものだ。そう簡単にボロは見せんだろう。第一本心だけは探偵でも分かりかねるからな」
「でも…」
「それで相手の女が本心からお前の事を好いているのなら、結婚を認めよう」
父は静かに、しかし厳しい口調でそう言うと、部屋から出て行った。
俺はテーブルの上に置いたままの小瓶を見つめながら一度は溜息をついたものの、これで本心さえ聞ければ結婚できるという期待に胸を躍らせた。
悠子が俺を裏切る筈はないと…そう確信していたから。

 数日後、悠子と会った。勿論あの小瓶をこっそりと持って。
豪華なディナーを楽しみ、いつものようにホテルの最上階で情事を交わす。疲れからか乱れたベッドの上でスヤスヤと静かな寝息を立てる悠子を見ながらそっと小瓶を取り出す。
蓋を外すと小さな蟷螂はゆっくりと鎌首をもたげながら悠子の口の中へと音も無くするすると入っていった。まるでB級映画のホラーシーンを見ているかのように、俺はただその光景を無言で眺めていた。

 その途端。
「グエッ」と小さな呻き声が聞こえたかと思うと、悠子は目を閉じたまま口角だけを醜く歪め話し出した。
「あ〜、純情なフリももう少しの辛抱。これで私も皆からお局様、なんて言われなくても済むのね。ふふ、皆羨ましがるでしょうね。だって私がこんなお金持ちと結婚するなんて思ってもいないでしょうから。これで私の将来は一生安泰だわ」
悠子の口から信じられないような言葉が次々と飛び出した。
「あんな不細工に付き合ってあげれるのは私くらいだものね。お金と地位がなかったら他に誰があんなのを相手にするもんですか。…あ、そうそう『カズ』ともそろそろ潮時だわね。アイツは顔しか取り得のない奴だから…。まぁ一緒に街を歩くのには丁度いいけどね。
世の中カネよカネ。顔だけ良くたって貧乏だったら数年後には目も当てられないわ。後は…あぁ、あの人とも別れなきゃ」
そう言うと有名な政治家の名前を口にした。確か奥さんも子供もいた筈だが…。
「そろそろ週刊誌に嗅ぎ付けられてもおかしくないしね。まぁこれでうざったい愛人契約も終わり。お金の面だってこれからは何の心配もないんだから」

いつもの綺麗で純粋な悠子の面影は微塵も見えなかった。
そこにいたのはカネと欲に塗れた薄汚い女のみ。
(いっそここで殺してしまおうか)
そんな思いが頭を過ぎるが、こんな女の為に俺の人生を棒に振るわけにはいかない。第一父もこうなる事が分かっていたのではないかとすら思える。
俺は空になった小瓶をバッグにしまうと、そのまま部屋を飛び出した。

 翌日悠子から昨夜の件で電話が来た。
怒る胸の内を何とか抑え「急な付き合いが入ったから」と言って何とか誤魔化した。
「あぁ、良かったわ。私具合でも悪くなったかと思って心配してたのよ」
優しげな言葉をつらつらと吐く悠子。
しかしある一つの考えも頭に浮かぶ。
(もしかしたら結婚させたくないという父の陰謀ではないか)と。
実はあの蟷螂は本心を聞くものではなく、嘘を吐く蟷螂ではなかったのかと…そんな考えもふと浮かぶ。しかし父に聞いても本当の事は教えてくれないだろうし、勿論悠子には口が裂けても聞ける訳が無い。ならば…。

 俺は深夜になり、今まで一度も訪ねた事がない悠子の家へと向かった。
友人と二人でルームシェアをしているから、お互いのプライバシーの為にも家には人を呼ばない、というのが理由だった。
確かに着いてみると、とても一人では払えそうにない家賃と思われる立派なマンションに住んでいた。
ポケットから合鍵を出すと汗ばんだ手で握り締めた。
これは交際が始まってすぐの頃、悠子が寝ている間にこっそりと持ち出し、勝手に作ったものだった。
(まさかこれを使う日が来るとは思わなかった…)
疑っていた訳では無かったが、一応念の為にと作っておいたのがこんな形で使う羽目になろうとは。
下から見上げた悠子のいるであろう部屋は真っ暗になっており、既に寝ているようだった。
こっそりと合鍵を使い、そっとドアを開ける。
(…? )
悠子の話だと二人でシェアをしていると言っていたが、家具やその他の物、どれを見てもとても二人で暮らしているとは思えない程殺風景な部屋だった。それこそまるで一人暮らしのような印象を受ける。
(まさか…シェアというのは悠子の嘘で、ここはあの愛人の用意した部屋なのか? )
3LDKの部屋を一つ一つ回ってみるが人の住んでいる気配は無い。そして最後の部屋に手を掛けた瞬間――。

部屋から物凄い勢いと共に人が飛び出してきて、思い切りぶつかってしまった。
暗がりだったが男だという事はぶつかってきた体格で分かった。お互い勢いで転倒してしまったが、その男は何も言わずにそのまま部屋から飛び出して行った。
(な、何だ? 今の男は…? )
訳が分からずに部屋へ入ってみるとそこにいたのは、ベッドの上で血に塗れて息絶えた悠子の姿だった。
真っ暗な室内だが月明かりと外のネオンではっきりと悠子だと分かる。
裸であらわになった胸の辺りはまるで赤いペンキをぶちまけたように真っ赤に染まり、綺麗な顔は苦悶の表情を浮かべ、髪は四方に乱れている。すらりと伸びた四肢は布団の上で大の字になっていた。

 あまりの出来事にガタガタと手足が震える。何か考えようにも思考が停止してしまったかのように何も思い浮かばない。唯一言えるのは(殺ったのは俺じゃない)という事だけが何度も何度も頭の中で反芻していた。

 その時…ガタリと後ろで物音が聞こえた。
頭の先からつま先まで神経が一気に研ぎ澄まされる感触で振り返る。
そこにいたのは…さっきとは明らかに別な男。
さっきぶつかったヤツはでっぷりと太った印象だった。しかし今ここにいる男はひょろひょろとした感じでまるでマッチ棒がゆらゆらと揺れている印象だ。
「お、俺じゃない」
咄嗟に口からそう出た。
「俺でもない」
男の口からもそう言った。
まさか…

 嫌な予感が脳裏を過ぎる。こいつが悠子の言っていた男の一人なのか。悠子の口の中に入った蟷螂は逃げることなく、寝ている時に俺の時と同じように本心をぺらぺらと話していたのではないだろうか。それを聞いたさっきのヤツは逆上し、殺したのではないか。
それならばこの男も俺と同じように証拠を掴む為、もしくは殺すために此処に忍び込んだのではないだろうか。

 俺は呆然と立ち竦んだままの男に話し掛ける。
「金ならいくらでもある。こういうのを始末してくれる裏家業の便利屋も知っている。悠子は…今日から行方不明だ」
男も続ける。
「俺は何も見なかった。アリバイを作ってくれる女も山ほどいる。俺とお前は…無関係だ」

――裏切りの代償は大きかったのだ。
金目当てに俺に近付き、浮気までもしまくっていた女狐のような女。きっと探偵を雇ってものらりくらりとかわしていたのだろう。
俺は父に感謝した。そしてあの蟷螂にも。

 悠子の口に入った蟷螂がそれから何処へ行ったのか…それとも悠子の中で死んでしまったのかは…誰にも分からない。
 

06:57, Monday, Dec 07, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(3) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(3) ¦ 携帯


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受信: 02:35, Tuesday, Dec 22, 2009

■講評

ごめんなさい。何で?どこが?と言われると分からないんですが、
未消化な感じがするんです…。
短期間でこれだけ纏めた筆者さんには申し訳無いんですが…。

オチがすとんと落ちないんです。

これだけの話で、落ち度も目に付かないのですが…。

名前: ほおづき ¦ 15:37, Monday, Dec 07, 2009 ×


言葉は怖いですね。それまでの信頼関係が、胡散臭いまじないのようなことをして意識のない人から吐かせた言葉だけで、あっという間に崩壊する。お話の後半で、悠子は本当に男を裏切っていたことが匂わせてありますが、それも百パーセント真実とは言いきれない形だし…。
しかし、この『蟷螂』を与えられても、絶対に生涯使わないと誓えるかというと躊躇してしまうのもまた事実。怖いです。

*恐怖+1

名前: げんき ¦ 23:07, Saturday, Dec 12, 2009 ×


うわー。えーっと、何て言うかなぁ。
使うアイテムが虫である必要がない。――っていうのもまぁそうだけど。

何を言わせても結局駄目だと思うんだよね。
好きになった人、将来を考えている人であっても、無意識にまで愛の言葉を吐かせるほど愛しぬくことは相当難しい。たとえ彼女が「愛してる」と言ったとしても、主人公は果たしてそれを信じるか?
愛する人を信じられない。偽りであろうとなかろうと、自分に尽くした相手にだまし討ちをして恥じない。他者に対して面と向き合って話ができず、道具を持ちこむ。
この「道具を持ちこんだ」時点で主人公はもう永遠に望む幸せから遠ざかったワケで。

そして「女が悪かった」で心の平安を取り戻す――主人公の浅はかさへの視点を獲得し、うまく盛りこまないことには、陳腐さ、類型からの脱出はできなかろうと思います。

名前: あおいさかな ¦ 00:51, Sunday, Dec 13, 2009 ×


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