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柿の木だけが知っている
「あなた、本当にいいの? 二泊三日も一人で大丈夫?」 
「あぁ、大丈夫だって。メシだって何とかなるさ、まぁ夜は外食になっちまうかもしれないけどね」
心配そうに見つめ、何度も同じことを繰り返し聞く妻に満面の笑みで答える。
「お父さんも一緒に行ければいいのに〜」
6歳の息子と4歳の娘も残念そうに俺の腕を掴みながら甘えてくる。
「お父さんはね、仕事のお休みが取れないんだよ。だから旅行はお母さんと三人で楽しんでおいで。紅葉がね、とっても綺麗なところなんだよ」
「でも…」
まだ何か言い足りなさそうな妻を玄関まで送り出す。
「いいんだって。お前もいつも家事やら子供達の面倒を見させてるんだから。たまにはゆっくり羽を伸ばしておいで。まぁ、子供達も一緒だからのんびりとも出来ないかもしれないけどね」
「私たちがいない間に変な飲み屋とかに行かないでよ?」
「大丈夫だって、そんな暇はないよ」

――俺はアイツを殺さなきゃいけないんだからそんな暇は無いさ――

 何度も後ろを振り返りつつ駅へと向かう妻と子供達を玄関先で見送りながらそう思った。

 そう、この日の為に旅行のチケットを取り、妻と子供達を家から離れさせ、その間にアイツを殺す。
すべてが計画の内なのだ。

 庭に植えてある大きな柿の木をふと見る。毎年大きな柿の実をつけ、子供達はそれを取って食べるのを楽しみにしている木。この木も大事な計画の一端を担っている。
俺は木の根元を掘っていった。深く深く…一センチでも深く――。
汗だくになり、手には大きな豆を作りながら更に掘り続ける。掌から血が滲もうとも、慣れない力仕事で体の芯から痛みが全身に走ろうとも、今後の未来を考えると痛覚などは感じなかった。
時折近所の叔母さんが塀越しに声をかけてくるが、「妻がいない間に庭の手入れでもして驚かせたいんですよ」などといい夫を演じればころりと騙されてくれた。

――早く、早く…アイツが来るのは今日の夜だ――

そう思いながら一心不乱に掘り続けた。
――アイツが悪いんだ。俺は最初から遊びだと、家族を犠牲にするつもりはないと、そう言っていたのに。今さら結婚話を持ち出してくるなんて…。まして別れるなら妻に全ての事を打ち明けるなんて言い出すから。子供が出来たって?
そんなの俺の子かどうかすら分からないじゃないか――

 そこで俺の殺害計画が始まったのだ。
実際仕事は休めない。だからやるとしても夜から朝の内になる。しかしここら辺に死体を捨てる場所などありはしない。ならば一番手っ取り早いのは……。
そう思いながら更に柿の木の根元を掘り続けた。

 夜になり、アイツがやって来た。妻がいないのを知っているせいかいつもよりも大胆に迫ってくる。しかしこいつの本性を知ってしまった今、どんなに色気を出そうが俺にしてみれば図々しく厭らしい女にしか見えなかった。
「ここが私の新しい家になるのね」などとのたまう姿には吐き気すら覚えた。
既に形ばかりになっているだけの情事を終え、アイツは何の疑いもなくシャワー室へと向かった。

――今だ、今しかない!――

 俺は手に包丁を持った。汗や血やお湯で滑らないように布で何重にも手にぐるぐると巻きつけながらしっかりと握りしめる。そしてガチャリと浴槽の扉を開けた。
「なぁに〜、一緒に入るの?」
そんな能天気な事を言っていたが、俺の手にした包丁を見るなり一気にアイツの顔が蒼ざめたのが分かった。
狭い浴槽で逃げ惑うアイツの長い髪を鷲掴み、悲鳴を上げられる前に一気に頚動脈を狙う。

 湯気と血の臭いとシャンプーの臭いでむせ返りそうになりながら、既に息絶えたであろうアイツの全身をこれでもかと刺しまくる。
既に恐怖だとか罪悪感だとか、そういう感覚は無かった。一刻も早く始末しなければ…最早人とは思えないほど血に塗れた「モノ」を見ながらそう思った。


 翌日、俺は久しぶりにすっきりとした感じで目覚めた。
寝室から見える柿の木を目を細めて眺める。アイツは今はあの木の下で眠っているんだ。永遠に。真っ暗い土の中で。アイツの性格と同じように深くて暗い所に……。そして俺は明るい日の光の中で生きていくんだ。そう、アイツと出会う前のように――。
「寒いな」
ぶるると震え、一人身を縮める。そうだ、季節はもう冬になる。早く雪が積もればいい。そしてアイツもアイツの臭いもろとも雪で全てを覆い尽くしてしまえばいい。


――それからは何事もなく平穏な日々が続いた。妻と子供達は旅行から無事に帰ってきて、大量のお土産と、思い出話に暫くの間付き合わされた。しかし、これが本来の姿なのだ。俺の幸せはここにあったのだから。


 季節は変わり、春が過ぎ、夏が過ぎる。
「おとうさーん、柿の実がなってるよ!」
子供達が騒ぎ出す。
「あなた、もうそろそろ食べてもいいんじゃないかしら? 子供達も楽しみにしてるし…ご近所にもお裾分けしないと…」
妻までもが言い始めた。今まで何とか誤魔化してきたがもうそろそろ限界なようだった。
「なぁ、今年は取るのをやめないか? 」
「え? どうしたの、急に」
「いや、何となくだが…」
「今年はいつも以上に大きく育ってるのよ、いつもより色も濃いし…。すごく美味しそうな匂いまでしてるじゃない」
確かに今年の柿の実はいつも以上に大きく、そしてとても美味しそうに見える。人間の…アイツの養分を吸っていたとでもいうのだろうか。
これ以上は何を言っても納得はしてくれないだろう。仕方なく柿の実を取り落し、それを子供達がはしゃぎながら拾う。

 夕食後に柿の実が食卓テーブルに並んだ。近所にお裾分けをする前に、こうやって家族皆で先に味見をするというのが毎年の恒例となっていた。
橙色というより赤に近い色。嫌がおうにもアイツを思い出す。
「俺は食べないから…お前たちだけで食べなさい」
「え、どうしたの」
「いや、何だか嗜好が変わったのかあまり食べる気にならないんだ。…ははっ、歳のせいかな」
妻は一瞬戸惑った表情を見せたが、子供達にねだられ柿の実にナイフを入れる。

「きゃっ!」
妻が小さく悲鳴をあげ、テーブルに投げ出した。
テーブルの上には二つに割られた柿の実。そしてその真ん中には大量の蛆虫がひしめき合い、震えるように蠢いていた。
「ヤダー! キモチ悪い!!」
子供達は泣き出し、妻は声もなく驚いている。
「む、虫が巣くっちゃったんだよ、大丈夫」
まるで自分に言い聞かせるように、無理矢理笑顔を作りながら言った。
妻も「そうね、他は大丈夫よ」と言いながら、二個目の柿の実にナイフを入れた。
瞬間。ヒッと引き攣った声を出し、子供達に見せないように陰でそっと俺に言う。
「これ、…骨みたい」
ぽそりと妻が呟く。柿の実の真ん中にあったのは土に塗れたような小さく白い物体。
「芯か何かだろ? 」
「柿にこんな芯なんてないじゃない」
その柿も処分した。

次の柿にも手を付ける。
「…あなた…これ…」
「……」
黙っている俺に見せつけるように差し出す。

――中には「歯」としか思えないようなものがはいっていた――

アイツが柿の一つ一つに入っているのを想像する。
俺の頭の中は嫌な予感が駆け巡っていた。
まったくどこまで女というものは執念深いんだ……。

次は何だ?
髪か?それとも……。


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受信: 21:58, Tuesday, Dec 22, 2009

■講評

勿体ない!
文章は上手なのに小道具が「ありがち」過ぎるんです。
浮気相手も、浮気相手の反応も、その後の祟り方も、
想定内なんです…。
主人公である旦那さんの反応も、どこかによくある。
例えばこれで旅行から帰ってきた奥さんが、
深い意味はないのよ〜、と言いつつも柿の木を始末する、
とか柿の中から出てきた物に動じずに食べられそうな所だけ
「はい、どうぞ」
と出してきたり…どんでん返しが必要だったと思います。

文章 1 内容 −1

名前: ほおづき ¦ 09:21, Tuesday, Dec 08, 2009 ×


ラストの「次は何だ? 髪か?それとも……。」に、ドキッとしました。

奥さんが二個目の柿にナイフを入れるのが、気持ち悪かったです。私なら無理です。
ここから、ひょっとして何か勘づいているのか?、もしくはこれから何かを知ることになるのかと、お話の続きをワクワク妄想できました。

*文章+1

名前: げんき ¦ 23:18, Saturday, Dec 12, 2009 ×


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