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夜の蜘蛛は殺すな
「いらっしゃいませ」
 明るくそう顔を上げて明美はドキリとした。目の前の客に見覚えがあったのである。
 昨夜、行きつけのバーのカウンターで一緒に飲んだ男だった。
「こんな偶然もあるんだな」
 男は苦笑いした。
 正直、あまり有り難くもない偶然である。偶々意気投合して一緒に飲んだ女が風俗嬢で、その上気まぐれにふらりと立ち寄ったソープ店でバッタリなんて、男の方も気まずいものがあるだろう。
 考えても仕方がない。明美は殊更明るい声で笑顔を作った。
「ホーント、偶然よねぇ。吃驚しちゃった」
 そう言って上着を脱がせ、個室のドアに付いているフックに掛かったハンガーに手を掛ける。ふと、上着の肩に小さな蜘蛛が居るのに気付いた。
「あら」
 明美は嫌がるふうでもなく、ハンガーに蜘蛛を誘導し、そこから壁に移動させる。
「へぇ、怖くないのか」
 女の子には珍しいな、と言う男に、ハンガーに上着を掛け直すと明美は笑って答えた。
「あたしの田舎じゃ蜘蛛の事を『こぶ』って言ってね、夜出る蜘蛛は縁起物だから殺しちゃいけないって言われてんのよ。『喜ぶ』に繋がるとか言ってさ」
 そんなふうに喋りながら男をベッドに座らせると、シャツのボタンを外す。露わになった体を見て、明美は息を飲んだ。 それは三十代と思しき男の体が、見掛けによらず意外に筋肉質だったからばかりではない。肩や胸、脇腹、腰骨の辺りに背中から血のように赤く太い虫の脚のような入れ墨が施されていたのだ。男の背中では大きな赤い蜘蛛が、男をしっかりと抱きかかえるように八本の脚を伸ばしていた。その脚の先が見えていたのである。
 商売柄、背中に墨が入っているのなんて見慣れている。そんな明美でさえもこんなものは初めてだった。
「吃驚した? 」
 明美の様子に気付いた男は、そう言って肩の入れ墨に手をやった。
「こいつは『土蜘蛛』って言ってさ、俺の生まれたとこじゃ神様なんだ」
 男の故郷では土地神として土蜘蛛を奉っているらしい。大事にすれば恵みと繁栄を、粗末にすれば仇を為す。伝承ではその昔、贄を必要とした事もあったという。
「御守り代わりさ」
 男は人懐っこい笑みを浮かべた。
「そんな事より」
 明美の腕を掴むと、男はベッドに引き倒す。
「待って、お風呂」
「要らない」
「せめてシャワーでも」
「必要ない」
 そう言って明美を組み伏せた男の肩が、もぞり、と動いた。肩を、胸を脇腹を、腰を、赤い脚が皮膚から立体感を帯びて盛り上がってくる。
「ひぃっ! 」
 思わず悲鳴を上げた。
「こいつはね、普通の人間には見えないんだ」
 男の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「土蜘蛛を背負った者と、喰われる贄以外にはね」
 赤い脚が男の肩から腕に伸びてくる。それが己の顔に触れた時、明美は気を失った。

 気が付いた時、男の姿はそこにはなかった。
 夢だったのか? ベッドから下りて辺りを見回す。男の上着がドアに掛かっていた。
 ふと感じた違和感に振り向くと、ドレッサーの鏡の中、己の背中に赤い蜘蛛が張り付いていた。



15:25, Thursday, Dec 17, 2009 ¦ 固定リンク ¦ 講評(2) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(2) ¦ 携帯


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» 【0】夜の蜘蛛は殺すな [せんべい猫のユグドラシルから] ×
 ベースはしっかりしており魅力もあるのですが、あっという間に終わってしまった印象です。 もうちょっとじっくり書いて欲しかったなぁ。... ... 続きを読む

受信: 21:02, Thursday, Dec 17, 2009

» 【+1】夜の蜘蛛は殺すな [もけもけ もののけから] ×
明美をただ殺さない展開は良かったのです。でもその先が無い。これ勿体無いと思うんですよ。作者の中ではイメージが出来ていると思うんで�... ... 続きを読む

受信: 21:44, Thursday, Dec 17, 2009

■講評

種として、早くに投下して欲しかったです。
そしたらもっと世界が広がったろうになぁ、なんて。

ここから広がる物語を見てみたかったです。
そういう気持ちに何故かなりました。
そこに、一点。

名前: ほおづき ¦ 16:50, Thursday, Dec 17, 2009 ×


情景がすんなり浮かんでくる文章と描写で、とても読みやすかったです。ラストが予想を裏切る形になっていて、気持ちいい読後感を抱きました。

>男は人懐っこい笑みを浮かべた。
この一文で、最後の方の男の「満面の笑み」が、可愛らしい笑顔がそのまま広がったような笑顔として浮かんできて、異様な気持ち悪さを味わいました。

*文章+1 *結末+1

名前: げんき ¦ 19:50, Sunday, Dec 20, 2009 ×


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